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オリジナルの中世ファンタジー小説
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タイジは煙に包まれたマナを案じた。
毒ガスか?怪しげな術の一つなのか?この煙は一体…。
危険かも知れない。
もうあの異生物の気配は完全に消えたと思われるが、迂闊にこの中に入っていくのも憚れる。でも、助けに行かなければ!幾ら呼びかけても返事が返ってこないことに業を煮やしたタイジが、一歩を思い切って踏み出そうとしたその矢先。
バリィィイインと窓が割れた!
国立魔術大学魔術学部副学部長、ハコザ博士の登場である!
窓の外、夜の帳の彼方から、ガラスを破って!タイジのすぐ目の前に、飛び込んで来た。「くゎ!」まずい!間合いが近すぎる。
「お見事だよ、タイジ君」
ハコザがそこにいた。
鴉を思わせる黒装束と狡猾な顔立ち。頭には金のサークレットをはめており、額の位置に埋め込まれた銀色の宝玉が陰険な光を放った。ハコザに近づくと僅かに香水の香りがした。それを感知するよりも早く、抜き放った細身の剣の刃が迫ってきた。
タイジは上体を逸らして剣をかわした。間合いを、取らなければ!ハコザと戦う覚悟は出来ていたとはいえ、まさか魔術ではなく剣で攻めてくるとは!
「ほれ!どうした!ん?」
ハコザはニヤつきながら細身の剣で突いてくる。
昔、針のお化けに襲われる夢を見た。何本もの太い針に串刺しにされる。体が穴だらけになって…とても恐い夢だった。今がそれだ!タイジはなんとしても距離を取ろうと攻撃をかわし続ける。
「ホレ!ホレ!どうした、どうしたー?ん?」ハコザは楽しんでいる。格好の獲物を見つけて、時間を掛けたっぷりといたぶってやろうという魂胆。「魔術学史に名前を残す偉大な魔術師のタイジ君?医学の歴史に革命的な発明者の名を点じたタイジ君?どうした?遠くからじゃないと戦えないのかね?あーん?」
防戦一方では不利になるばかり。
タイジは背に装着していた盾を手にとって、ハコザの剣を受け流そうとした。しかし、それは叶わず、ハコザの剣はタイジの軽量の盾を突き抜けて彼の腕に赤い筋を作った。
痛い!血が!
だが、一瞬のチャンスでもあった。ハコザの細身の剣は盾に突き刺さっている。ハコザの動きが、ほんの僅かだが、止まっている。
タイジは弓の籐をハコザの顔面目掛けて打ち付けると、盾を手放して後方に大きく跳躍した。
マズイよ、完全にピンチじゃないか。接近戦であんなに攻められたら…切り裂かれた腕から血がポタポタと垂れている。
「やっと私から離れることが出来たね」ハコザは楽しそうに言った。「さ、どうする?お得意の魔術でも試みてみるかい?」圧倒的余裕。
やるしかないか。ふと、タイジは煙が晴れつつあるのに気がついた。そして、発見した。床に倒れているマナの姿を。
「マナ!どうした!大丈夫か!?大丈夫か!?」タイジは駆け寄る。倒れた仲間に。愛しき女に。「まさか、死んじゃったんじゃ」
「タイジ君。そんなんじゃ君は落第生だよ。試験だったら赤点。単位は上げられないからもう一年やってもらうことになるよ」ハコザは告げた。「なに、よく観察してごらんなさい。ただね、眠ってるだけなんだよ」
タイジはマナの顔に自分の顔を近づけた。呼吸はしている。大きな瞳を閉じて、無邪気な口元を閉じて、こいつは眠っているのか?
「マナ!マナ!おい、しっかりしろ!おい」血の流れる赤い腕で揺すぶってみるが反応は無い。
「ホレ、タイジ君。王子様のキスでお目覚めしてやったらどうだい?」
「ハコザ!お前、一体マナに何をした!」
「なに、私は本当のことしか言わない人間だよ。彼女は深い眠りに陥っているだけさ。ホントだよ」ハコザは指輪をはめた右手で髪をかき上げた。「異生物の研究をしているとね。面白いことが色々分かるもので、その、さっき君が見事打ち負かした『四つの複合』の『ベース』には、強烈な睡魔を催させる煙を吐き出す習性があるんだ。催眠ガスを体内で精製し、それをまき散らす習性がね
確かに外傷は無い。毒物の類でもなさそうだ。
マナは、まるでおやすみを言ってベッドにもぐったようにぐっすりと眠っている。「催眠ガス…?」タイジはハコザに背を向けたまま言う。
「並みの人間がかいだら二三日は起き上がれなくなるぐらいの強力なやつさ。成分はよくわかっていない。しかし睡眠薬の一種として薬学科の連中によって研究もされているらしい。私は異生物オタクじゃないから詳しいことは知らないんだけどね。医療棟に所属してる君なら知ってるんじゃないかと思ったが…あいつを捕獲する時は眠らされないか、大変だったみたいだよ
「あの異生物は…」タイジの怒り。「もとはお前の教え子だったんじゃないのか?もとは人間だったんじゃないのか?」
するとハコザは両手を大きく打ち鳴らし、タイジに拍手を送った。
「おめでとう!タイジ君!君は合格だよ!」
「なんだって?」
「私の言った通り『祓魔師のチューブ』は持ってきてくれたかな?あれは実は一点物でね。さきほどの『四つの複合』はレプリカの筒を使って配合したんだが、やはりいまいちだったよね。でもね、本物の祓魔師のチューブなら、異生物の体から取り出して配合の上書きがいくらでも出来るし、修得していた魔術も継承できる…ブラウンシューとか使ってこなかった?あれは珍しい魔術だからね…そして、オリジナル版は配合させればさせるほど強さも上乗せ出来るんだ。だから君達が魔術師大学卒業試験生ご一行を葬ってしまったと聞いた時は、しまった!っと思ったけど、わざわざ私の元にオリジナルのチューブを持ってきてくれるとは…君には大変感謝をしたいのだよ。だから、君にご褒美を与えないとと私は考えた。そして君の強さはそのご褒美を受けるに充分だと今、確信できた」
「き…きぃさぁまぁぁ」
「祓魔師だなんて、よく言ったものだろ?その筒は北東連邦のある一部族が悪しき精霊のお祓いに用いていたものを、使い方が間違ってると叱責して私がある人物に頼んで調達してきてもらったものさ」ハコザは髪をかきあげ「そう…超人も異生物も、死して肉体が消滅する時、超級成分を分泌する。大気中に発散されたそれを、その筒でなら回収することが出来るんだ。つまり超人の持っていた能力だけを保存することが出来るんだ。それを異生物の体に埋め込めば、融合させることが出来る。簡単だろ?そしたらもう、理性なんていらないんだ…異生物となって生まれ変わり、苦悩も不安もない人生を送ることが出来る。何も、悩むことはない。何も!何故なら私の命令だけを聞いて生きていけばいいのだから!私の手足となって、私に従うだけの生き方!それが!幸せ!その上、好きな女と一緒になれるんなら君も本望だろ?」
殺してやりたい。この男を!今すぐ!
「ハコザぁぁあああ!!」
タイジは全身の力を集中させて詠唱した!
purple haze all in my brain!!!!!
これまでに唱えた中でも特大級の雷撃だった。
部屋は真昼のように明るくなって辺りにパチパチと強力な電磁波が爆ぜた。
たとえ幻とはいえ、普通の人間なら確実に即死、家屋に直撃すれば跡形もなく吹き飛ばしてしまうほどの威力であった。
その致死的落雷幻術は、タイジが今世界で一番抹殺したいと願った男に、確実に命中した!猛る轟きと共に、憎い相手を、紫の稲妻で打ちのめしてやった。

だが「ファーハッハッハッハッハ!」直撃したはずのハコザは無傷だった。
息を切らしながらタイジは「そんな…嘘だろ」こいつに、僕の魔術パープルヘイズが全く効いていない?タイジはすかさず第二撃を放った。
ジミィィィィィィィィィィィィィィィィ
雷光は発生する。
だが、ハコザの体に傷一つつけられない。
「ふふふ、くくく、しゃしゃしゃ!まぁ、あんまり意地悪するのも失礼かと思うから教えてあげよう。私に魔術は通用しない」ハコザは腕を広げて芝居めいて宣言した。何日も欠席していた生徒が久々に学校に登校して、もう風邪は治ったよ!と友人の前でアピールするかのように。満面の笑みで。「魔術大学を代表する者は、あらゆる魔術の上に立っていなければならない。当然私は現行の魔術を総て完璧にマスターしている。その威力は誰よりも上回っている。だが、それだけでは真に魔術を支配したとはいえない。私には…」ハコザは絶好調の狂気を見せる。「私はぁ!あらゆる魔術を!克服している!私に対して放たれる魔術攻撃は総て、無為に帰す!私に幻は通用しない!」
じゃ、じゃあマナの魔術も効かないってのか?
タイジはハコザの言葉を疑いはしなかった。もともと魔術なんてものには縁がなかった人生だ。救いがたいほどの邪悪であるとはいえ、自分よりも計り知れないほど多くの時間を魔術の為に費やしている男がそう言うんだ。きっと、そうなんだろう。「だったら……」とるべき道は一つ。
タイジは弓矢での攻撃を選んだ。それしか無かった。
「やってみなさい!やってみなさい!」幸い、ハコザはまだ悦に浸って半ば狂乱状態だ。
ヒュンヒュンヒュンヒュンとタイジは矢を放った。まずは威嚇するように何本も、素早く。「なんだ、君…」ハコザは声のトーンを落とし「ふざけているのか?今更威嚇射撃のつもりか?それとももうEPが無くなったのか」片手の動作だけでタイジの矢をかわす。細身の剣で目にも留まらぬ速度で向ってくる矢を払いのける。
ハコザは先程の戦いもちゃんと見物していたんだ。僕のホーミングアロー。あいつに果たして通じるか?「そんなことない」タイジはそして矢を四本、右手に握って力を注入していった。バチ、バチ、と徐々に指と指の狭間にある矢に電気が宿っていく。さあ、行け!「くらえァ!」
水平に、稲妻が走ってゆく。四本の意思を通じさせた矢!
「ふんふん!」
ハコザは今度は構えをとってタイジの矢の撃退にあたった。
タイジは矢の軌道を操作する!
一本目は真正面から狙い、それはなんなく払い落とせたとしても、両サイドから二本目と三本目が向ってくる。ハコザは剣を真っ直ぐに突いて正面の矢をパックリと裂くとすぐに上空に跳躍した。タイジは矢を追尾させる。上に飛んだならその方向へ!軌道を曲げる!
ハコザはそのまま空中で二本の矢を叩き落した。だが、最後の一本がハコザと同じ高さを飛んでいた。「甘いね!」ハコザはそのまま空中で宙返りを決めた。踵で最後の一本を蹴り落とした。なんという格闘技術。
「ハハハ、なかなか面白い技だったよ、タイジ君」ハコザは地面に華麗に着地すると、タイジに賛辞を述べた。「超人になってまだ日も浅いと聞いていたが、よくここまで使いこなせるようになったもんだ。んーん、私は楽しみだ!君が私の道具となるのが!パープルヘイズも私のものになるし…そうそう、君の顔はちょっとカエルっぽいと思ってたんだが、巨大蛙の異生物がいてね。今、第一候補はそいつにしようかと思っているんだが…」
ハコザが勝ち誇ってタイジに語りかけていた最中にであった。
ドグサァァアアア

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