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オリジナルの中世ファンタジー小説
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マコトは火の海の中を駆け抜けていく。
獣の嗅覚を使い、タイジの匂いを探る。
夥しい焦げと煙の香りを振り切って、なんとか探り当てようとする。
軽装の鎧を身につけた、少女の身に炎の魔の手が忍び寄る。四方八方が、揺らめく紅に炎上中の地獄回廊の中、だがマコトは熱さに堪えて、感覚を研ぎ澄ませ、捜索を続けた。
どこにいる?
館は既に半壊している。ところどころ天井が抜け落ち、床は抜け、通行が不可能になっている地点が多々ある。それらは断固として現在進行形!
普通、こんな火災の真っ只中に身を投じるなど、オーヴァーキルな自殺行為としか考えられない。
だが、マコトは普通ではない。
第一に、彼女は超人である。
もちろん、超人といえど、煙の吸引で意識を失い、その身を許容量以上に燃やし尽くされれば、『超人の死は肉体の消滅』というルールを待たずに、完全死を迎えることになるだろう。彼女は頭領サキィにそうなって欲しくなかった。
第二に、彼女は炎に対する並々ならぬ耐性を持っていた!
「おーーい!タイジ!どこだァ!」
少年のような顔立ちをした少女の、叫び声が炎の爆ぜる音に混じって、終末の館を突き抜けていく。
見つからない!
この炎だ。もしかしたら、崩れた柱の下敷きなって、身動きが取れなくなっているかもしれない。
救助を買ってでたものの、マコトは徐々に焦りつつあった。
「焦っちゃ駄目だ。オレは…」紅の髪を伝い、汗が顔にふりかかる。「余裕、そうだ、余裕……これは、余裕というもんだ。オレだって、救ったこと、あるんだ…」遠い記憶の蘇り「たくさんの死と、絶望を見て、もう、こんなところで、終わったりしない、タイジ、お前だって、終わらせない!」その栄光と誇りを呼び戻す。
狐族の剣士は、ぎゅらぎゅらと周囲を炎に囲まれながら、立ち止まり、円らな眼をつむり、意識を集中した。
獣の聴覚を、全神経使って研ぎ澄ませた。
「……………なんだ?」
何かが、始まっている。
途方も無い、何かが……
その中心に、タイジはいる。
場所は……ここから少し遠い、けど……
「オレの足で、間に合わないことはない!」
再び、少女は駆け出した。もうこれ以上は形状を保っていられないと、崩壊寸前の炎の屋敷の中を。
「!」
疾走する少女の前に見えたのは、だが、予想もしなかったものだった。
白い輝きが、眼前から迫ってくる。
そんな……これじゃあ、また……オレは、助け出さなきゃいけないのに……そう、頭領に約束したのに…!




タイジの意識が拡大していく。
僕はタイジ。
マナとサキィと一緒に旅をしていた。
マナのことはずっと好きだった。マナは昔、僕の二番目の兄セイジ兄さんと恋仲にあった。そして何年ぶりかに再会した晩、あまりに嬉しくてずーっと寝付けなかった。でも、その気持ちをあいつの前では伝えられなかった。もし、マナが本当に僕のことをからかってるだけだったらと思うと恐くって。あいつが今でもセイジ兄さんのことを好きでいるんじゃないかと思うと…それに、そんなことを言う気にもなれないくらいあいつはどうしようもないやつなんだ。だからそんなことはとても言えない。
サキィは良い親友だ。いつの間にか仲良くなっていたあいつとはよく馬が合う。でも、時々、サキィが必要以上に愛情を注いできてる気がして恐くなる時がある。サキィは誰かの代わりに僕を求めているんじゃないかって思うことが時々ある。だけど、そんなことはとても言えない。
恐い。
今の関係が崩れてしまうかも知れないことが。
だから僕はいつだって、変わらないことを欲している。何事も騒がずに、そのままジッとしていた方が良いじゃないか。何故、他の人はそう思わないんだろう。
僕の意識が拡大していってるのがわかる。僕は暗い書庫の中に一人でいる。でも、ここの外の様子も分かる。この力が溢れているから。拡大した意識が外を捉えていく。館は猛火に包まれて今にも崩れそう。サキィは人々に逃げろと命じてい。マナとアオイは慌てながらも僕の姿を探してい。さっきまで話していた先生はもう死んじゃってどこにもいない。あの人は満足そうだった。あの人は僕の中にあるものを総て解放しろって言った。そんなことをしたらどうなる?
さっき、光が見えていた。夜でも明るくなるような、光が。どんどん、色んなものが速くなっていく。明日の明日のずーっと先はどんな世界になっているの?僕の力を使えば、遠くの距離まで馬車なんか使わずにあっという間に辿り着くことが出来る。きっと、空だって飛べるようになるんだろう。たくさんの人にたくさんの仕事が与えられて、ご飯を作るのも洗濯をするのも、何もかもが早くなる。
早くなる。速くなる。止まらない。止まらない。
マナ!サキィ!どこにいるんだ!僕は、もうずーと、ずーっと先の先まで行ってしまったようだよ!誰だ?たくさんの人、行進している。大勢の人、世界中が一つになったみたいに、繋がって、でも、繋がらない、繋がろうとすればするほど、繋がらずに、苛立っていく、苛立ちはつもり、人が、人を憎んでいくんだ、便利な力で、人を、すぐに、殺せるから、世界の、はしから、はしまで、隅々まで、支配してやるぞ、たくさん、たくさん、支配できる、それが、力、あまりに速い、あまりに早い、はやすぎて、よくわからない、わからないまま、それでも、置いてけぼりならないように、どんどん、失われていく、大切だったものも、大切じゃなくなっていく、僕の、友達は、どこに消えた?マナもサキィも、いつの間にか、遠い昔、新しい、世界で、笑い合ってる、人たち、便利な道具に囲まれて、でも、本当は、通じ合えていない、昨日知ったのは、偽物の体験、なんでも、すぐに、調べられるけど、本当の、ものだけ手に入らない、大切な、人が、いなくなる、見つからなくなる、取り残される、人が、人を、愛するのは、憎むことより、もっと難しい、憎んだほうが、簡単だから、そっちの方が、楽だ、時間がかかる、それは我慢できない、人が、人を、知りえなくなる、わからなくなる、あまりにはやすぎて、見えない、見えなくても良いと思えてくる、僕は、ダメだろう、生きてはいけない、みんな、はやすぎるから、みんな、分かっている、分かり合えないってことを、それはとても時間かかるから、そんなことはしない、どんどん、次から次へ行かなくちゃ、置いてかれたら、おしまいだ、おしまいだ、おしまいだ、たくさん、人が死んでいくよ、よくわからないから、殺しちゃう、よくわからないものは、気持ち悪い、分からないのは、分かろうとしないから、分かる為の術を知らないから、繋がらない、繋がっているようで、何も繋がらない、どんどん、どんどん、次から、次へ、僕が、拡大していく、止められない、誰か止めてよ、止めてよ、僕を、誰か、ねぇ、止めてよ、僕を、止めてよ、マナ!どこではぐれた!サキィ!もう会えないのか?僕はついていけない、ぐーたらなんだ、こんな、スピードじゃ、止めて、僕を、止めて、止めてよ、止まらないよ、止まらないよ、止まらないよ、僕を、止めて、止めて、兄さん!兄さん!どこへ消えた?いなくなったまま!僕と、マナを置き去りにして、今、一体どこにいるんだよ!セイジ兄さん!姿を見せろよ!僕に教えてくれよ!
タイジの瞳に数百年が映っていた。

「タイジ、一人で行っちゃうなんて、ズルイよ」
マナの声が、聞こえた気がした。それは何百年も離れた過去から届いた響きだった。僕はそこへ帰りたい!マナもサキィもいない未来なら、そんなもの、いらない!

「タイジ、お前は未来を諦めるのか?たくさんの人々が、それを望んでいるのに…」
「兄さん、僕は思うんだ。何もかも急ぐことが、正しいこととは限らないって」
猛スピードで切り替わっていく世界の映像に包まれながら彼は次兄と会話をしていた。

「僕は、へタレだ。こんな、早い速度に怖気づく。でも、大切なものを、過ぎ去っていく残酷な時間の中で失ってしまいたくは無い」
「失望するよ、弟。俺はお前の考えには賛成出来ない。まったく子供じみた甘ったれた思考だ。だが、お前が望むものを止めるつもりもない。俺には関係ないことだからだ。お前達のずっと先にいる世界にいる俺には」
セイジの姿が遠のいていく。


「僕は、そういう人間だ。だって、会いたいんだ。たくさんの人々の未来を犠牲にしても!世界を、世界を、このまま進めたくはない!マナやサキィと一緒にいたいんだ!」タイジが動かした世界、水平な滝のように怒涛の流れの世界、それを逆流させる。元に戻してやる!電気なんて、存在しない。夜は真っ暗。封じてやる!良いんだ、それで…止まれ、文明!止まれ、未来!神様なんて信じるな!
世界よ止まれ!
世界よ止まれ!
世界よ止まれ!
世界よ止まれ!
世界よ止まれ!
世界よ止まれ!
世界よ止まれ!
世界よ止まれ!
世界よ止まれ!
世界よ止まれ!












様々な時代の人々、民族の姿、建築物、芸術品から日用品に至るまで、人の手が生み出した、或いは生み出す予定となっている発明品、道具、それらを扱う人物たち、人類の歴史、経済産業の産物、やがて取って代わるであろう機械という悪夢の種族まで、それら未来に位置するあらゆるものが尊厳を奪われ、目を覆う目映い光の中に埋葬されていく
本当の『中世』が始まる。
今、この時より、文明の進化を放棄した、永遠の停滞の時代の幕開けとなる。
一度はじまって、二度と終わらない、横這いの世界。信仰と、封建と、剣と魔術の世界。
未来は巻き戻され、光の中に投棄されていく。
その最中、タイジの光の中から、一匹の獣の姿が揺らめく。
小さい、悪戯好きそうな小動物の影は、やがて狐の容姿を取る。
光の鎮魂歌の中で踊る狐の影……マコトは、手を伸ばした!
掴む為に!
救うために!
タイジを……世界を捨ててまで、友を……救うために!

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