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オリジナルの中世ファンタジー小説
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「死にたくない奴は早くしろ!だが、走るな!将棋倒しんなっちまうだろが!」
サキィは大声を張り上げ、火の手の上がった館の一階ホールで、人々の避難誘導を行っていた。
出火の出元ははっきりしていない。ただ、気がついたときには屋敷のあちこちから炎が巻き起こり、一つの炎は別の炎と結びつきあい、加速度的に勢いを増していっている。
マコトの火の探知が僅かに早かったのが幸いしたか、館二階以上にいた招待客に、すぐさま避難を呼びかけ、焦げ臭い匂いをかいでいた連中は、我先にと階下を目指した。
「おら!急げ急げ!焼け死にたいかぁ!」
サキィは「走るな」と「急げ」を同時に命じるという無茶振りで、人々を建物の外へと追い出そうとしていた。
ふいに、もくもくと迫ってきた黒い煙を見て半狂乱になった貴族の婦人が、階段で足を滑らし、あえなく階を敷き詰めていた人々を、文字通り将棋倒しにしてしまった。
「ゴルァ!走るな言ってるだろうが!」
幾つもの悲鳴が上がる。
そうこうしている間にも、火炎の勢いは増していく。
「まずい、頭領、あんなにたくさんの人が倒れてちゃ、逃げ遅れてしまう」マコトが言う。
サキィはおしあいへしあい、蠢いている人の群れを見つめ、ヒゲを苛立たしげに動かしながら「しゃぁない、ゲン、お前の出番だ。言っても聞かねぇあいつらを、片っ端から外へ投げろ」命じた。
「ホントにいいのか?」と低く落ち着いた声で言いつつも、巨漢の射撃手は依然倒れて積み重なったままの人々のところまで、ずーん、ずーん、と歩いていき「ちゃんと受身を取れよ」と呟くと、倒れていた人間の足を掴み、一思いにそれを後方へ放り投げた。
「ァァァァアアアアアアああああアアアアアアアアアァァァ」
「げ……ゲンのやつ、なんてことを…」
マコトは呆れてその様を傍観していた。
屈強な大男は、その豪腕でもって宴の招待客の体をひょいと持ち上げ、スイングをつけて館の外へと放り投げる、投げる、投げる!
貴族も、使用人も、学生も、偉丈夫も、投げる投げる分け隔てなく、投げるッ!
どんどんどんどん、ポイポイポイポイと、まるでおはじきを掴んでは投擲する玉拾い競技のように、人間の体をいとも容易く、投げ飛ばしていくゲン。
「見ろ、マコト。あいつのブン投げた奴の、軌道を」
「ええ?」
サキィに促がされ、マコトはゲンの人間射撃の弧を、大きく丸い目で追った。
足を掴まれて飛ばされた宴の招待客は、ゲン自らうがった館の壁の穴を、曲芸師の火縄潜りのように、するりと通り抜け、更に庭園に築かれた池の中へと、水飛沫を上げて適確に着水していっている。
大人の体を軽々と持ち上げて放る彼の腕力もさることながら、やはり射撃の腕前は超一流というべきか、むっつりとした顔のまま摘み投げていくゲンの射出コントロールは、一寸の狂いもない、完璧な軌道を呈していた。
「あの、ウスノロ……こういう時にだけは調子が良いんだから」マコトは苦笑いで戦友の活躍を眺めていた。
その時「サキィくん!」
「お!マナか!」サキィは二階部分の廊下から顔を覗かせた魔術少女を見て「まだ残ってたのか!お前も、早く脱出しろ!煙にまきこまれんぞ!」声を荒げて避難を呼びかけた。
マナは豪奢な服に身を包んだ小柄な少女、アオイと一緒だった。
「ねぇ!タイジは…ッ!」
「なんだ?タイジが…?」サキィは頭上を見上げて大声を上げながら、しかし眼をこらしても親友の姿を見つけることが出来ずに「タイジはどうしたんだァッ?一緒じゃないのか!」
逃げ惑う人々の喧騒で、よく聞こえない「ねぇ!サキィくん、タイジはどk……」
一際、大きな爆発音が聞こえた!
炎の勢いが、猛然と増していく!
マナは舞い起こる煙でむせてしまい、サキィにタイジの所在を尋ねることも、また階下にいる彼の方に眼をやることも出来ない。
「ゴホッゴホッゴホ、うう……苦しい」
「お、おおお姉さま、危険です。アオイたちも、早く逃げましょう」
アオイは慕う先輩少女の服の裾を引いて、促がした。
「でも、まだタイジがどっかに…」
「きっともう、先に逃げていますよ!だからアオイたちも……ケホッ、ケホッ」
アオイも煙を吸い込んでむせる。
火災にあった時、何よりも恐ろしいのは炎そのものではない。煙を吸い込むことによって生じる一酸化炭素中毒だ。
火事で命を落とす人の死の原因は、往々にして酸素欠乏による意識の消失が故。
マナはアオイの苦しそうな様子を見て、ようやく危機意識を持ち始めた。
先ほどから、忽然と姿を消したタイジを見つける為、屋敷のあちこちを探し回っていた。その間に、炎の手はもはや取り返しのつかないほど、大きくなってしまっていた。
タイジを見つけ出す前に、自分達が焼け死んでしまう!
そう思った時、誰かが、音もなく、まるで天井から壁を伝って降りてくるかのように、現れた。
「お嬢様、お待たせいたしました」
誰?
マナは、その流暢な声とピシリと整った身のこなしに、どこぞのイケメン貴公子でも現れたかと錯覚したが、側にいたのはアオイの従者、男装の麗人、トーゲン家執事のヤムーであった。
「さあ、マナ様も、ここは危険です。私に掴まって下さい」


「来なさい。その為に私は君をここに呼んだ」
ヤーマ教授は恐ろしく落ち着いた様子で言った。
「この隠し書庫には私の研究成果の総てが詰まっている。ハコザが死んだら総ての証拠は消すつもりでいた。面倒は嫌いだからね」
傲慢!「行きます!」タイジは指先に雷の力を込めていった。
「だがね」
一瞬だった。
ヤーマ教授は素早くタイジの目の前に移動していた。
「私は君と戦うつもりは無い。私は勝負なんてものに興味はない。あるのは君のその潜在能力だけだ」
「!」
タイジは為す術がなかった!
ハコザの比ではない。
このヤーマという人が真の黒幕だということを身を以って実感した。
おっとりした普段の彼からはとても想像出来ない身のこなし。レヴェルが違いすぎる。
気がついたときには頭に刃物を突き刺されていた。
「良いから、そのまま唱えなさい、魔術を!」ヤーマはタイジの額に針のようなものを深く差し込みながら言った。「君はこんなことでは死なない。いや、死なない体になっている筈だ」針は大脳に達している。
この位置から…ま、魔術を!
タイジは脳に針を埋め込まれたまま無我夢中で詠唱した。
purple haze all in my brain!!!!!
「それでいい」
光が、溢れ出す。
紫の閃光が。
脳に突き刺さった針から、眩い閃光が溢れていく。
「君こそ、神に近づく存在なのだから」ヤーマは針を握る手に力を入れる。稲光が、どんどん溢れていく。眩しい!「君の力、あの日に見せてもらった。皆は雷だ雷だって騒いでいたが、私は密かに知っていたのだよ。それは神の存在と共に封印された概念、禁断の物質『電気』というやつだ」
秘密の書庫はまばゆい光に包まれていく。
「雷の研究は古来から少しずつされてきていた。私はある泡沫の書物で、雷の性質を知っていた。それは電気と呼ばれるもの。だが、誰もそれ以上は知り得なかった」目もくらむような明るさが辺りに溢れている。「君は、大きな運命を背負っている。そしてこの光は未来へと続いている。さぁ、解き放てよ!」
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