オリジナルの中世ファンタジー小説
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迷宮に絡んだ話題の為か、往年の節回しで選択を迫られたタイジは「でも、そんなこと言われたら聞きたいに決まってるじゃないか」
「よし、じゃあ話そう。俺は不審に思ったんだ。牛のバケモンは床に倒れている野郎のことなんか、まるで気付いてない風だった。で、そのことに気を取られたのが災いしたか…油断しちまったんだな。腕を削ぎ飛ばされた鬼人のルロイが…鬼人のわりにはいまいち覇気に欠けるやつなんだが、俺への攻撃をかばおうとして、決定的な一撃をくらっちまった!クソ!やられた!」サキィはますます語気を鋭く「崩れゆく瞬間、ルロイは俺に言った。『逃げろサキィ、俺は仲間の為に死ねるなら本望なんだ』俺はすぐさま撤退を唱えた。非情だと言われても弁解はしない。だが、このまま戦い続ければ、間違いなく全滅する。お供の小さい敵は、攻撃の威力こそ牛野郎ほどじゃなかったが、ちょこまかと動き回り、剣が命中しないし、搦め手役なんだな、こっちの戦力を下げてくる……完全に劣勢とみて、俺らは意を決して逃走した。ルロイの意志を尊重しての決断だ。もう、その時にゃ拾い出した男の遺体のことなんか考えていられなかった。情けねぇ話だが、全員瀕死状態で、自分の命…いや、パーティそのものの存続、それを第一に考えての行動だったわけよ」
「あ~、わかるなぁ、その気持ち」同じようにダンジョン内で壊滅的状況に陥った経験のあるマナが共感の意を込めて言う。
「ルロイの亡骸を背に、俺たちは命からがら階段まで退避した。とにかく、今までのことから、異生物の頑固な縄張り意識ってやつを信頼するなら、あいつらはこの階段を昇ってくるようなことはない。よし、俺たちは再び三階に上がり、そこでやっと傷の手当てをし、持ってきた食料と酒を…ああ、あとタイジからもらっていた、あれは試供品で良いのか?」
「うん、まだ未完成だからね」
タイジは魔術大学で、医学部の人間と共に開発を進めている軟膏を、サキィに幾つか渡していた。
「あのビンの薬が一番の効果があった。俺たちは普段は、従来どおりの滋養食で道中の体力回復を推奨していたんだが、あの大きさなら荷物としてもかさばらないし、何より薬を傷口に塗ってすぐ効果が表れるのには感心した。まぁ、一気に使い切ってしまったがな」
「ああ、やっぱり回復の量は少なかったか」
「とにかく、持ち寄った荷物をひっくり返し、仲間の傷はおおかた回復出来た。だがどうする?油断があったとはいえ、ほぼ全快の状態からここまでの被害を受けたんだ。皆、それぞれ腕に自信があり、超人として生きてきた時間のプライドもある。だが、悔しいが今の俺たちじゃこの迷宮の四階を突き進むには超人水準が足りないようだ。だから、仕方がない。せめて置き去りにしてしまった二人…二人とも生きてるのかわからんが、そいつらを回収し、地上へ戻ろう。ってことになった」今やタイジもマナも、食事の手を休めてサキィの話に聞き入っている。「俺たちは再び、恐る恐る階段を降りた。無駄な戦闘は避けるべきだ。どんなにプライドが傷ついても、無謀に戦いを挑んでくたばっちまったら、ただの馬鹿だ。そんなのは、とんでもない能無しだ。兵糧も使い果たした。最低限のことだけを行い、速やかに撤退をする。誰もがそれを肝に銘じ、慎重にクソッタレ四階フロアを進んだ。そして、さっき俺たちがいたところまで戻ってきたんだ…曲がり角。だが、そっから顔を出せば、またあの牛のバケモンの後姿が見えた。畜生!俺の頭が真っ先に考えたのは、さっき見捨てちまった仲間のルロイのことだった。きっともう、弐号機ばりに鳥葬されたかオヤシロサマのたたりで腹を裂かれて惨殺されたか、既に消滅しちまったか…あの時、無理をしていれば、大切な仲間の一人の命をみすみす奪われずに済んだのに!ああ、精霊よ、俺は何と罪深いことをしてしまったんだ!俺のせいで一人の超人の命が…!」
サキィは瞳をギュッとつぶり、両手を握って祈る仕草を取った。
と、思った刹那「だがな、次の瞬間、俺の目に飛び込んできたのは、牛野郎の足下に転がったままの二つの人体……角のある方のルロイはさっきの致命傷をくらって伸びきったまま、まだその状態でそこに転がっていた。そして依頼主の探し人も、全く変わらず…」
「それって…つまり」タイジは目を見開き「異生物は…」
「気を失い、戦意を持ってない奴には襲い掛かってこない」
「嘘だ!」マナは鉈を持つ少女のように大声で、椅子から飛び上がって「だって、ボクの仲間は洞窟で消滅しちゃったんだよ!異生物に殺されて…服だけになっていたんだよ!」
「そうだ。それも事実だ」サキィは男前の獣人顔をキリリとした表情で「だが、牛野郎が立ち去るのを待ってから回収した、布で包んだ依頼主の探し人と、腕の取れた俺たちの仲間は、異生物に食い荒らされたりもせず、あいつらに全く相手にされずに、転がったままの状態で、保たれていたんだ。あいつらはこの二人を完全にスルーしてた」
「でも…だって、ボクの仲間は…服だけに…」
「マナよ、思い出してくれ。確か、お前があの暗黒の地下道で全滅しかけた時、意識を失った二人を担いであの見張り小屋まで戻ったんだよな。その時、異生物は戦闘不能になった二人に襲い掛かってきたか?」
「そんなの…だって、ボクはもう一人と、逃げることで必死だったから……よく、覚えてないよ…」小声になりつつも、今度は眉をV字型にしながら「それに、異生物に襲われた人の話、聞いたことあるよ?その人は、一緒にいた人が獰猛な異生物に食われちゃったのを見たって!目の前で、バリムシャバリムシャって!」
「そいつは超人だったか?」
「え?いや、違う。超人じゃない、普通の街の人の話だけど…」
タイジは黙り込んだまま、この二人の体験談から導き出される答えを探していた。
異生物は、気を失い、戦闘が出来なくなった超人を襲わない?
超人だから襲わない?
肉体が消滅する前……仮死?
仮死状態、つまり通常の人間における死の状態、肉体の消滅前の状態ならば、標的とされない!?
そんな都合の良い話は初耳だ。一般市民が、野山の異生物に襲われ、惨殺されているのを、小さい頃から知っていた。でも、それは、一般市民…非超人。致死的攻撃に耐え得ることの出来ない人間。
しかし、だとしたら『異生物に襲われて』殺された、マナの仲間達はどうなる?そっちの説明がつかない。
超人である相手が死の一歩手前まで達すれば、異生物は攻撃…殺戮の意志を失う……だが、もし意志があれば…異生物に意思?意志?命令?命令させれば?異生物じゃないもの……????
「結局……俺たちは無事に迷宮を抜け出し、腕がもげて気を失っていた亜人のルロイは、依頼主の恋人と一緒に、超人医院というとこに預けてある」
「超人医院?」とマナ。
「以前、マナの姉ちゃんを送っていった時に知ったんだ。彼女が住んでいるミドゥーの都の側、メルヴェイユ地方の森の中にあるんだが…古い、巨大な白い建物でな。普通の病院とは別に、超人専門の医療機関があるとかなんとか…タイジは知ってるだろ?」
「ああ、行ったことはまだないけど。そこから大学に出張に来ている人が何人かいる」
超人専門の医療研究をする機関…それが超人医院。タイジの所属する研究チームの構成員の殆どが、そこの人員である。
「そこでなら、もしかしたら二人が息を吹き返すかもしれないって、まあ淡い期待だけどな。それでも充分だって、依頼主の嬢さんは恋人の姿を見て、わんわん泣いて、さんざん俺らに感謝した挙句、当初の額よりも更に一桁多い報酬をくれちゃったわけよ」
そこでサキィは、テーブルの上にポンと、一枚の上質な羊皮紙の小切手を置いた。
タイジとマナは小切手を覗き込むように見た。そこに書いてある額を数えた。
!?
「え?」
「サキィくん……これって…」
「ああ、報酬は仲間で均等分けが俺のルールだが、俺は何せ最高責任者だ。俺はこの巨額の富をアンデン家に奉納することも出来るし、ここを出て家を一軒建てることも出来る。だがな、この金はまだ使わないことにしているんだよ。何故なら…」
「あんたたちったら、あたしの料理も食べないで何やってんの!」そこへ湯気の立つ鶏の丸焼き肉を、大きな鉄板に乗っけて登場したマナの母が「ちょっと、開けなさいって。ああ、重い。よっこらしょっと!」
「あ!」
「わ!」
「あら、あたしったら、うっかり鉄板をそのまま机の上に置いちゃった!てへ☆テーブルが焦げちゃったわ」
鶏の丸焼きがジュージューと音を立てる、灼熱の鉄板の下敷きになった、目ん玉から心臓どころか、臓器が根こそぎフリークアウトしそうな金額が記載された小切手の運命を、三人は唖然として眺めていた。
「どうしたの?食べないの?じゃあ、あたしからもらっちゃうわよ。あ~お腹すいた~」
「よし、じゃあ話そう。俺は不審に思ったんだ。牛のバケモンは床に倒れている野郎のことなんか、まるで気付いてない風だった。で、そのことに気を取られたのが災いしたか…油断しちまったんだな。腕を削ぎ飛ばされた鬼人のルロイが…鬼人のわりにはいまいち覇気に欠けるやつなんだが、俺への攻撃をかばおうとして、決定的な一撃をくらっちまった!クソ!やられた!」サキィはますます語気を鋭く「崩れゆく瞬間、ルロイは俺に言った。『逃げろサキィ、俺は仲間の為に死ねるなら本望なんだ』俺はすぐさま撤退を唱えた。非情だと言われても弁解はしない。だが、このまま戦い続ければ、間違いなく全滅する。お供の小さい敵は、攻撃の威力こそ牛野郎ほどじゃなかったが、ちょこまかと動き回り、剣が命中しないし、搦め手役なんだな、こっちの戦力を下げてくる……完全に劣勢とみて、俺らは意を決して逃走した。ルロイの意志を尊重しての決断だ。もう、その時にゃ拾い出した男の遺体のことなんか考えていられなかった。情けねぇ話だが、全員瀕死状態で、自分の命…いや、パーティそのものの存続、それを第一に考えての行動だったわけよ」
「あ~、わかるなぁ、その気持ち」同じようにダンジョン内で壊滅的状況に陥った経験のあるマナが共感の意を込めて言う。
「ルロイの亡骸を背に、俺たちは命からがら階段まで退避した。とにかく、今までのことから、異生物の頑固な縄張り意識ってやつを信頼するなら、あいつらはこの階段を昇ってくるようなことはない。よし、俺たちは再び三階に上がり、そこでやっと傷の手当てをし、持ってきた食料と酒を…ああ、あとタイジからもらっていた、あれは試供品で良いのか?」
「うん、まだ未完成だからね」
タイジは魔術大学で、医学部の人間と共に開発を進めている軟膏を、サキィに幾つか渡していた。
「あのビンの薬が一番の効果があった。俺たちは普段は、従来どおりの滋養食で道中の体力回復を推奨していたんだが、あの大きさなら荷物としてもかさばらないし、何より薬を傷口に塗ってすぐ効果が表れるのには感心した。まぁ、一気に使い切ってしまったがな」
「ああ、やっぱり回復の量は少なかったか」
「とにかく、持ち寄った荷物をひっくり返し、仲間の傷はおおかた回復出来た。だがどうする?油断があったとはいえ、ほぼ全快の状態からここまでの被害を受けたんだ。皆、それぞれ腕に自信があり、超人として生きてきた時間のプライドもある。だが、悔しいが今の俺たちじゃこの迷宮の四階を突き進むには超人水準が足りないようだ。だから、仕方がない。せめて置き去りにしてしまった二人…二人とも生きてるのかわからんが、そいつらを回収し、地上へ戻ろう。ってことになった」今やタイジもマナも、食事の手を休めてサキィの話に聞き入っている。「俺たちは再び、恐る恐る階段を降りた。無駄な戦闘は避けるべきだ。どんなにプライドが傷ついても、無謀に戦いを挑んでくたばっちまったら、ただの馬鹿だ。そんなのは、とんでもない能無しだ。兵糧も使い果たした。最低限のことだけを行い、速やかに撤退をする。誰もがそれを肝に銘じ、慎重にクソッタレ四階フロアを進んだ。そして、さっき俺たちがいたところまで戻ってきたんだ…曲がり角。だが、そっから顔を出せば、またあの牛のバケモンの後姿が見えた。畜生!俺の頭が真っ先に考えたのは、さっき見捨てちまった仲間のルロイのことだった。きっともう、弐号機ばりに鳥葬されたかオヤシロサマのたたりで腹を裂かれて惨殺されたか、既に消滅しちまったか…あの時、無理をしていれば、大切な仲間の一人の命をみすみす奪われずに済んだのに!ああ、精霊よ、俺は何と罪深いことをしてしまったんだ!俺のせいで一人の超人の命が…!」
サキィは瞳をギュッとつぶり、両手を握って祈る仕草を取った。
と、思った刹那「だがな、次の瞬間、俺の目に飛び込んできたのは、牛野郎の足下に転がったままの二つの人体……角のある方のルロイはさっきの致命傷をくらって伸びきったまま、まだその状態でそこに転がっていた。そして依頼主の探し人も、全く変わらず…」
「それって…つまり」タイジは目を見開き「異生物は…」
「気を失い、戦意を持ってない奴には襲い掛かってこない」
「嘘だ!」マナは鉈を持つ少女のように大声で、椅子から飛び上がって「だって、ボクの仲間は洞窟で消滅しちゃったんだよ!異生物に殺されて…服だけになっていたんだよ!」
「そうだ。それも事実だ」サキィは男前の獣人顔をキリリとした表情で「だが、牛野郎が立ち去るのを待ってから回収した、布で包んだ依頼主の探し人と、腕の取れた俺たちの仲間は、異生物に食い荒らされたりもせず、あいつらに全く相手にされずに、転がったままの状態で、保たれていたんだ。あいつらはこの二人を完全にスルーしてた」
「でも…だって、ボクの仲間は…服だけに…」
「マナよ、思い出してくれ。確か、お前があの暗黒の地下道で全滅しかけた時、意識を失った二人を担いであの見張り小屋まで戻ったんだよな。その時、異生物は戦闘不能になった二人に襲い掛かってきたか?」
「そんなの…だって、ボクはもう一人と、逃げることで必死だったから……よく、覚えてないよ…」小声になりつつも、今度は眉をV字型にしながら「それに、異生物に襲われた人の話、聞いたことあるよ?その人は、一緒にいた人が獰猛な異生物に食われちゃったのを見たって!目の前で、バリムシャバリムシャって!」
「そいつは超人だったか?」
「え?いや、違う。超人じゃない、普通の街の人の話だけど…」
タイジは黙り込んだまま、この二人の体験談から導き出される答えを探していた。
異生物は、気を失い、戦闘が出来なくなった超人を襲わない?
超人だから襲わない?
肉体が消滅する前……仮死?
仮死状態、つまり通常の人間における死の状態、肉体の消滅前の状態ならば、標的とされない!?
そんな都合の良い話は初耳だ。一般市民が、野山の異生物に襲われ、惨殺されているのを、小さい頃から知っていた。でも、それは、一般市民…非超人。致死的攻撃に耐え得ることの出来ない人間。
しかし、だとしたら『異生物に襲われて』殺された、マナの仲間達はどうなる?そっちの説明がつかない。
超人である相手が死の一歩手前まで達すれば、異生物は攻撃…殺戮の意志を失う……だが、もし意志があれば…異生物に意思?意志?命令?命令させれば?異生物じゃないもの……????
「結局……俺たちは無事に迷宮を抜け出し、腕がもげて気を失っていた亜人のルロイは、依頼主の恋人と一緒に、超人医院というとこに預けてある」
「超人医院?」とマナ。
「以前、マナの姉ちゃんを送っていった時に知ったんだ。彼女が住んでいるミドゥーの都の側、メルヴェイユ地方の森の中にあるんだが…古い、巨大な白い建物でな。普通の病院とは別に、超人専門の医療機関があるとかなんとか…タイジは知ってるだろ?」
「ああ、行ったことはまだないけど。そこから大学に出張に来ている人が何人かいる」
超人専門の医療研究をする機関…それが超人医院。タイジの所属する研究チームの構成員の殆どが、そこの人員である。
「そこでなら、もしかしたら二人が息を吹き返すかもしれないって、まあ淡い期待だけどな。それでも充分だって、依頼主の嬢さんは恋人の姿を見て、わんわん泣いて、さんざん俺らに感謝した挙句、当初の額よりも更に一桁多い報酬をくれちゃったわけよ」
そこでサキィは、テーブルの上にポンと、一枚の上質な羊皮紙の小切手を置いた。
タイジとマナは小切手を覗き込むように見た。そこに書いてある額を数えた。
!?
「え?」
「サキィくん……これって…」
「ああ、報酬は仲間で均等分けが俺のルールだが、俺は何せ最高責任者だ。俺はこの巨額の富をアンデン家に奉納することも出来るし、ここを出て家を一軒建てることも出来る。だがな、この金はまだ使わないことにしているんだよ。何故なら…」
「あんたたちったら、あたしの料理も食べないで何やってんの!」そこへ湯気の立つ鶏の丸焼き肉を、大きな鉄板に乗っけて登場したマナの母が「ちょっと、開けなさいって。ああ、重い。よっこらしょっと!」
「あ!」
「わ!」
「あら、あたしったら、うっかり鉄板をそのまま机の上に置いちゃった!てへ☆テーブルが焦げちゃったわ」
鶏の丸焼きがジュージューと音を立てる、灼熱の鉄板の下敷きになった、目ん玉から心臓どころか、臓器が根こそぎフリークアウトしそうな金額が記載された小切手の運命を、三人は唖然として眺めていた。
「どうしたの?食べないの?じゃあ、あたしからもらっちゃうわよ。あ~お腹すいた~」
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