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オリジナルの中世ファンタジー小説
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ある日の晩。
連日盛況の旅の護衛勤務を終え、四日ぶりに陽が沈んで間もない時刻に、マナの家へと帰還したサキィ。
ユナ・アンデンの温かいご馳走を三人の若人が囲んでの食卓で。
「そういやさ、こないだ」サキィはカリカリに揚げたパンを南瓜のポタージュに浸しながら「ちょっと意外なことがあった。タイジ、お前の勉強の足しになるかはわかんないけど」
サキィはヒゲをピクリと動かし、相手の興味を引こうとしている。
「なんだい、サキィ?」
「うん。実は、隣のガヴィアル領に行った時、ある貴族の嬢さんから依頼を受けたんだ……もぐもぐ」スープを垂らしたパンを頬張りながら「それがいつもとちょっと変わっていて……なんでも、その貴族のお嬢様は、ある殿方と恋仲にあったらしい」
「まぁ」マナが無意味に反応する。「いいわねぇ~~」
二人は取り合わず「よくある話だが、その相手は、まあ貴族のお嬢様が関わっちゃいけない類の野郎だったらしい。だったって、過去形なのは、つまりその男はもうこの世にいないわけ。いや、いないと決まったわけじゃなかったんだな、その時は…」サキィはまたパンをちぎり、それをポタージュに浸す「つまるところ、二人は禁じられた仲であり、平凡な貴族の嬢さんの相手ってのは、超人だったんだ」
貴族のお嬢様と聞いて、自然とアオイのことを思い浮かべていたタイジだったが「超人…」意外そうにサキィの話に集中しようとする。
「超人で、しかも宝探し…尋宝?とかいったかな?とにかく、俺らみたいな、バケモン相手に派手に合戦繰り広げるタマじゃなくて、コソコソと、あっちこっちにある遺跡とか洞窟とかに潜って、墓荒しみたいなことをしている奴だったみたいなんだ」
「遺跡か…」タイジは、自身が超人へと覚醒した因縁の地、暗黒の地下道を思い出した。あんな恐ろしい洞穴が、まだいっぱいあるっていうのか?
「で、そのケチな盗賊まがいの超人野郎は、ある洞窟…ダンジョンて云おうか…あるダンジョンの攻略に熱心になっていてな。その貴族の娘っ子に『昨日は地下三階まで踏破した。次はいよいよ地下四階に挑むんだ!』ってな具合に、ダンジョンから持ち帰った宝石や金銀細工なんかをプレゼントしながら、武勇伝を語っていたんだと」すると、サキィはお得意の芝居口調になって「『あなたが危険な目にあっているのは私には耐えられない。お願いだから、向う見ずな冒険なんかもうやめて』『何を言う!俺はこう見えても誇りある探検家だ。君にあの遺跡の一番の財宝をプレゼントするまで、冒険はやめないぞ』ってな具合で、とうとうその男は行っちまったんだ、ダンジョンの奥に……んで、戻らなかった」サキィは獣の指先ジェスチャーを巧みに、話し続ける「普通なら、あららら洞窟の奥で異生物にやられちまったんだな、合掌!ってなるところを、その恋人は『あの人の死体を見るまで、私はあの人が死んだなんて信じられない!』なんて、半狂乱になってクライアントの俺たちに訴えやがったんだ。『お願いです!あの人が足を踏み入れたという洞窟の四階まで行って、事実を確認してきてください!』って…困ったことに、二人の仲が禁断の恋だったかなんだかで、貴族様特有の社交界パワーを使ったり、王宮とかしかるべき列記とした機関には頼めないんだってさ。『もう、あなたたちしかいないんです!』って。貴族と墓荒らしじゃ身分に違いがありすぎる。娘さんの願いは公には出来ない類。だから俺たち新進気鋭の何でも屋に白羽の矢がたったわけだな」
「わお、ヤンデレだ」とマナ。
タイジは、きっとその貴族の娘は大粒の涙を流してサキィに頼んだんだろう、と予測がついた。
「でもよ、知っての通り、超人の死は肉体の消滅だろ?恋人が最後に洞窟に潜ったのは二日前だっていう。怪物にやられてのたれ死んだとしても、二日ならまだ遺体は残ってるはず…嬢さんはそう言うが、超人が死んだら体は消えちまうんだ、もう残ってないって、俺たち超人は説明したんだよ。だけど、だったら服だけでも良い、遺品だけでも持ち帰って欲しいってせがまれて…報酬も、目ん玉から心臓が飛び出すぐらいの大金をつきつけてきて」
「で、結局、行くことにしたんだ」
「そういうことだ。もはや俺たちはプロフェッショナルだ。そこまで頼まれて断ることも出来ない。遺体を持ち帰れたら報酬は土地一個買えるぐらい。遺品だけならその七割。で、もし生存してたら最初の倍の額だ。貴族様からここまでの言い値を出されたのは初めてだったからな、金に目がくらんだわけじゃないが、今、手の空いている超人の戦士たちを集め、俺はその遺跡…ダンジョンへと向ったんだ」
「それからそれから、どうなったの?」マナも葡萄酒をがぶ飲みしながら話の続きを聞きだそうとする。
「ルロイのことは話しただろ?頭に角のある、身のこなしの軽い奴だ。あいつは元々洞窟探検が趣味で…まぁつまり今回の依頼の目標人物と同類、ケチな遺跡荒らしだったわけで……それで、多少は知っていたようなんだ。その遺跡は、腕試しや財宝探しをしたがる超人たちの間じゃ、ちょっとは有名で、未だ謎に満ちた不落の迷宮で、つまりなかなかに用心の必要な場所だってこと。確かに洞窟には外よりいくらか手強い異生物がうようよしていた。東南国にあった試練の洞窟みたいにな」それは悪夢のファーストダンジョン、あの暗黒の地下道のこと「洞窟は凄かったな。何がって、もう、まず壁が尋常じゃねえ。ためしに俺の全力の剣でぶったたいてみたが、少しも綻びない。剣の方が刃こぼれしたんじゃないかってぐらいに、ガチガチに堅かった。一体、どういう鉱物で出来てんだろうな?何百年、何千年はそこにあっただろう、とんでもなく頑固で頑強な頑丈さで、天井や曲がり角なんかも、ありゃ絶対に自然に出来たもんなんかじゃない。明らかに人の知恵が混ざって作られた空間だった。故意に惑わすように入り組んでいたり、丁寧にしつらえた階段があったり……で、また異生物がちゃんちゃんと出てくるのよ、これが。まるであいつらの住処に御免下さい訪問したみたいな気分だったよ」
「へぇ~」洞窟の造りを調べる為に、わざわざ壁を剣でぶっ叩く奴もそうそういないだろうと、タイジは呆れながら「じゃあ、サキィも楽しかったろう」
「松明の火は暗かったけどな。気分は明るかったよ。死体探しなんてパッとしない仕事だったけど、スタンドバイミー気分でエキサイティングしてた。迷宮は広く、一つの階を踏破するのに、想像以上の時間がかかったな。あと、階段を一つ降りるごとに、異生物の種類がガラリとほとんど変わり、格段に強くなっていったんだ。あいつら縄張り意識ってのが強いからな……で、問題の四階に降り立った時、俺らは正直、焦ったね。天井に頭がつきそうなくらい、小山のように大きな牛みたいな怪物が出てきて…そいつの握った斧みたいな武具の一振りで、仲間の一人の腕が吹っ飛んじまったんだよ。スパァァァン!って」とサキィは、痛々しい話なのに、妙にひょうきんな仕草で言った。
「うげぇ…」タイジはその場に自分がいなくて心底良かったと思った。
「やられたのはルロイだ。あいつは、この国に来てからの俺の右腕的存在だったが、その右腕の右腕が吹っ飛んだわけだ。こりゃ本気でやらなきゃマズイ!って、俺は剣の柄を握る手に力を込め、一閃を放った。だが、その牛のバケモンときたら、俺の渾身の一撃を受けても、まだ平気な面して、今度は頭突きをくらわしてきた!」
「うわ!」
サキィはテーブルの上に片腕を伸ばし、それを勢いよく顔にぶつけるような仕草をして「ガーーーン!って、俺は吹っ飛ばされ、後方の壁に突き当たり、ほとんど意識を失いかけた。赤い血がダラダラと垂れてさ。だが、仲間の一人が機転を利かしてくれた。一人、魔術の心得があるやつがいて、例の戦争の時に魔術師団として活躍してたこともある退役軍人の男なんだが、そいつがマナが使うみたいななんとかっていう呪文を唱えたら、バケモンの攻撃が俄かに緩みだしてよ」
「あ、それはきっとレッドレインだ」マナは得意げに口を挟む。
「よく知らないが、俺が次に斬り掛かった時に受けた相手の反撃は、さっきほど強烈じゃなかった。それで一体の敵を全員でフルボッコ…とはいえないな。牛の異生物は怪力もそうだが、体力もかなりタフで、かなり苦戦して、やっと一体倒すことが出来たんだ。そりゃもう、全員ボロボロの傷だらけになって……で、これからどうしようか、進むべきか戻るべきか、ってなった時、松明の灯りを先の方に少し照らしたんだよ。そしたらさ、怪物をぶっ殺した少し先に、倒れている人の姿を見つけたのよ」
「お!」
「そう、その床に倒れていたのは、例の貴族の嬢さんの恋人、その人だった。身につけているものや格好の情報を聞いていたから間違いない。大方、さっきの巨大な異生物にでもやられたんだろう。俺はそいつに近づいた。超人である以上、死亡してるなら肉体は既に消えているはず。じゃあ、こいつは意識だけを失った状態で二日間もここで寝っ転がっていたのか…俺は倒れた男の腕を取り、脈を取った」サキィは己が左腕を掴み、脈をはかる風にして「だが、脈は無かった。心臓も止まっていた。死後硬直みたいなやつも…いや、体の硬さはそこまででも無かったかな?覚えとらん。つまり、一見すりゃ普通の人間なら死んでるも同然の状態だったわけだ。しかし、依頼主の言ったことが嘘じゃなければ、この男は超人のはず…しかも二日間経っているにも拘らず、ガイシャの体からは、致命傷をくらったとおぼしき外傷以外の、例えば腐食や獣による食い荒らしの後が見当たらない
タイジは考え込む風に「超人なのに、脈も無く、心臓も停止している。それなのに肉体が消えていない。あまつさえ、その遺体には腐敗もなくクリーン」
「うむ。とにかく、考えていてもしょうがないんで、とりあえず依頼どおり、この死体を運んじゃおうって、持ってきた布で、男の体を包んでいたんだ。そしたら……また!出やがった!さっきと同じ、牛のバケモンだ!しかもお供の、別のクソ化物もセットでついてきやがった!」
「ぬっふぇ!」マナは両手をほっぺにあてて驚愕の悲鳴を上げる。
「まだ傷の回復だって充分じゃない。だが、やっこさんは俺ら人間の姿を見て、闘志充分、殺気充分、残虐性充分!」
「異生物は人間の姿を見ると、ほとんど無条件で襲ってくるからな」日頃魔術アカデミーでの研究も顕著なタイジが、明白となっている彼らの生態を呟く。
「そう!そうだろ?『人間を見ると無条件で襲ってくる』一方的に!容赦なく!だが、そん時、おかしなことが起こった。そのバケモンは俺らには徹底的に猛攻を仕掛けてくるのに、布で包んで地面に倒れたままの男には目もくれなかったんだ」
「異生物は倒れたままの男を放置…」
サキィはここでパンを皿に戻し、背筋をピンと伸ばした姿勢を取り「タイジ、ここから先の話は、ちょっと恐ろしくなるぜ。お前は俺の話の続きを聞くことも出来るし、席を立って話を終わらせることも出来る」
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