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オリジナルの中世ファンタジー小説
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「神は禁じられている」
タイジは確認するようにこの世界での原則を呟いた。
「神は禁じられている。神の存在は有り得ない。だとしたら、その禁忌を作った者こそが神なのではないか、とね」
「神は自ら自らを否定したのですか?」
「絶対的な存在。我々の世界を上から眺め下ろしている存在。そいつがいるんじゃないかっていう疑惑。生物や科学の研究を続けていくと、この世界がいかに見事に構築されているかが分かる。偶然にして出来たという定説を疑わざるを得なくなる。ましてや、超人や異生物の存在は特にだ」
「あなたはまたしても答えを言ってませんよ、ヤーマ先生」
「私は!神の存在を疑った!そして、そいつに挑戦をしたかった!神が超人と異生物を同じ原理で生み出したのだとしたら、その壁を越えてやりたかった!神の姿を暴いてやりたかった!」魔術大学の生物学者ヤーマはまくし立てた。「隅々まで調べつくし、解明してやりたかった。そして、神なる者が本当にいるのかどうかをつきとめたかったのだ!」
「だからって!なぜ学生を異生物などにしてしまうんですか!」
タイジは抗議の仕草をした。
「私が実験をする機会をあの男が与えてくれただけだ。善悪など、大いなる真理の前にはあまりにも儚い」
タイジはその言葉に怒りを覚えた。
「それじゃあ、自分の研究課題の為には生徒の命が犠牲になっても構わないというのですか?あんたも、ハコザと同じ、自分のことしか考えない傲慢者だ!」
「そうだとも!」ヤーマ教授は開き直って言った。「私は狂ってしまったよ。それを弁解もしなければ言い訳もしない。私は神に挑戦したかった。神に近づきたかった。もし、異生物と超人の融合が成功するならば、人は人の手で命を操作することが出来る!それは神のなしえるワザ。超人を異生物に変えたのは、ただの一段階に過ぎない。やがては人が超人になるメカニズムや異生物の生態を調べ上げるつもりでいた!それだけのことだ」
「では、あの時…」思うに、最初にこの人に会った時、あの暗黒の地下道の見張り小屋にふいに姿を現した時、その時に気がついておくべきだった。黒幕の存在!「この『祓魔師のチューブ』を使っていたのはあなたなんですね」タイジは金の筒を差し出した。
「そうだ」ヤーマは即答した。「君達は『悲劇の怪人』を倒したが、仮死状態で超級成分を抜き取ると、何故か抜け殻の肉体はあのドロドロの怪人になったのだ。私は自分の欲望を止められなかった。己が手で、超人を異生物に転生できる!その恍惚感に…性に合わないと思いながらも、私は異生物を仕向け、ハコザ君の教え子たちと連携しながら、卒業予定の学生達を葬り、異生物に変えていった。大学の教授なんてものは皆、何かにとりつかれた狂人さ。それでも、君は恐れずにここまでやって来た。私の貸した本に挟んだ栞のメッセージの通りにね」
ヤーマはあの時、急いでまとめたいことがあると言って、僕達の元から早々に立ち去った。そのおぞましい研究成果のことだったのか!?
「この祓魔師のチューブを使って、あなたは尊厳ある人間の命を、魔術アカデミーの生徒を、マナの級友たちを、おもちゃにして、醜い怪物の姿に変えさせ、同士討ちをさせた!」
「何とでも言いなさい」老教授は居直っていた「私はハコザ教授の腹心の生徒たち四人と共謀し、マナ君たち第一学科生を襲った。みな、事実だよ。私は否定しない。この計画の実行犯として、私は確かに罪を犯した。タイジくん、君に分るか?私の心は、その罪を少しも悔やんでいないのだよ。この、どす黒く染まってしまった悪の心は……もう、罪の意識もなく、ただ、己の欲望の充足の為にだけ従順になって、どんな非人道的なことでもやってのけてしまう、腐った心なのだ。だが……その道具だけは、私がこしらえたものではない
「え?」
タイジは右手に握った黄金の筒を今一度見た。
「ハコザ教授でもないよ。アカデミーに出入りしていた……ある男が我々の元に持ってきたんだ。
それは元々は、消滅時に分泌される超級成分を採取していたんだが、途中で思わぬ発見をしてしまったらしく、彼は『もし関心がおありでしたら、譲ってさしあげます』と言ってきたのさ」ヤーマはタイジに打ち明ける「思えばあの時から、我々の心はおかしくなっていたのかもしれないね。私もハコザも、あの男の金剛石のごとき瞳に見つめられ、心のどこかに泡沫となって抑え込まれていた邪悪な欲望を、無理矢理引きずり出されたみたいに、罪を犯してでも、己が願望を叶えたいと、悪事へと走らされた。いやいや、今更他人のせいになどするつもりは毛頭ないが、それでも私はアカデミーに現れた彼と共に、極秘裏に実験を積み重ねていき、その筒の利用法と応用法の研究に没頭していった。超級成分を操作することで、可能になることはあまりに多かった。私はもはや、この罪深き研究に、すっかり魅了されきっていた。今はもう、反省する気すらないよ」
「誰なんですか?それは……一体、何者なんです?」
だが、ヤーマはタイジの問いには答えようとしなかった。人が話しかけるのを、唐突に聞いていないかのような素振りをする。しかも、そこに悪気の風情はない。粘着質の糸がプツリと切れるように、不自然な会話の中断を行う、彼と同じ血液の型の人間に多く見られるコミュニケーションの妙「あの男は、その筒の改造の工程を確か、こう呼んでいたか……錬き…」

その時、天井から大きな爆発音が聞こえてきた。
ドォオン、ドオォオンと立て続けに。
「おやおや、始まったみたいだ」
「一体なんです?」
「君達はハコザを殺した。彼が死ぬと、この館も終わりなんだよ」
「どういうことです?」
「火付虫というのを知ってるかな?地方によっては火打虫とか言ったりするけど」その間にも大きな物音が聞こえてくる。「私はあいつの体にそれを仕込ませておいた。こう見えても生物学が専攻でね。ちょいとあの虫の習性を利用して改造したんだ。火付虫は死ぬと発火するだろう。それを連鎖させるようにしてみたんだ。一匹が火を放つと遠くにいる別の一匹がまた火を放つ。ちょっと扱いづらかったけど、蜀台なんかにセットして部屋中をいっぺんに明るくする仕組みも考案してみた。あ、それでハコザの体には数十匹のそいつを、あいつに気付かれない形で飼わせておいたんだ。知ってるかい?人の体の中には無数の小さき命が共存しているのを。あいつが死んだ時に燃え上がらなかったか?そろそろ連鎖が始まって、館全体にいった頃じゃないかな」
やっぱり人を玩具にしてるだけじゃないか!
「僕は、超人の力でもって、あなたを殺します」
タイジは祓魔師のチューブを床に投げ捨て、弓矢を構えた。
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