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オリジナルの中世ファンタジー小説
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「どうした?」
大岩のような声で、大岩のような体躯の男ゲンが、怪訝な顔をして獣人族の耳をそばだてているサキィに尋ねた。
「シッ……静かに」
サキィは聴覚を研ぎ澄ます。彼の体に流れる獣の血、それを用いて、聞き取ろうとする。
タイジとマナが、仇敵ハコザを打ち倒したのかも知れない。最初はその音だと思った。ハコザの断末魔が、聞こえただけかもしれないと、思った。
だが、音は止んでいない。とても小さく、連続的に続いている。
これは、何の音だ?あちこちで、まるで火種から火を起こすように……
「ゲン、マコトを起こしてやってくれ」
サキィは判断を下した。きっと、マコトならわかるはず。何が、起こっているのか。この不穏な音の連続は何なのか。
「起きるのか、こいつ…」
ゲンは自分の肩に乗っけたままの狐人戦士を揺すった。
「そんなんじゃダメだろ!」サキィは思いっきり平手で、ゲンに背負われた少女の尻を叩いてやった。「おら!マコト、起きろ!起きろって」
ペシペシペシペシ。
「ん……ふぁ、ふぁぁい」
狐の尻尾が弱々しく動き始めた。まだ、女っぽさの見受けられない少年風少女は、どうやらサキィのおしりぺんぺんで目を覚ましたようだ。
「マコト!起きたか!おい!この音はなんだ?火の匂いがするような気がするが、小さすぎてよくわからん!お前ならわかるだろ!」


タイジはハコザとの死闘を繰り広げた部屋を出て、同じ階の来る途中にあった扉の破れた部屋に入っていった。
ここで間違いないんだ。サキィのことも気になったが、きっと大丈夫だろう。僕は決着を付けなければならない。
部屋の中は無人で、テーブルに飲みかけの酒と前菜が残されていた。
天井に窪みがあって、床にガラスが散っていたが、最早気にも留めなかった。
タイジは奥の机に向った。
きっと、ここにハコザが座っていたんだろう。右から二つ目の引き出しを開ける。その中に手を差し入れて引金を引いた。
カチっというカラクリの作動する音がした。
タイジは壁を押した。
隠し扉が開いて階段が現れた!
知っていたんだ。
マナにもサキィにも話してはいない。だって、これは僕の問題だもの。ごめんな、二人とも。
タイジは隠されていた扉をくぐった。
二度と帰ってくることは出来ない地の底へと続いているような、暗黒の階段へと、一歩を踏み出す。
二度とは帰って来れない場所へと、彼は歩を進めた。

「頭領!こりゃマズイよ、あっちこっちで…急がなきゃ、ああ、でも多すぎる!オレたちだけじゃ止められない」
尻を叩かれて意識を取り戻したつぶらな瞳の狐少女は、サキィと同じように獣の耳をすますと、事態を把握して、慌てて言い放った。
「ま、待て、マコト。要領得てない……一体、何が起こってやがるんだ?」
「えぇ?何って……ゲン、お前も聞こえるだろ?」
促がされて大男は「悪いが、俺には二人がさっきから何の話をしてるのか、さっぱりわからないんだが」無愛想な顔で述べた。
「かーーーーーー!」
「マコト、いいか!」サキィは慌てふためく部下の肩に手を置き、真摯な瞳で「俺の知る限り、お前は誰よりも炎に通じている。火に詳しく、その揺らめきに誰よりも敏感だ。俺はかすかに、何かが燃えているような気がした。だが、それが何なのか全くわからん。今のところ煙も見当たらない。気のせいかもしれないって考える方が妥当な気さえする。でも、お前ならわかるんじゃないか?この、さっきから続いている変な音も…」
「頭領、オレだって、こんなのは初めてで、よくわかんないけど……でも、急いだ方が良い!」


タイジは隠し階段をひたすらに下っていく。狭い細い螺旋階段がようやく終わると、あの独特のかびた匂いが漂ってきた。
壁の蝋燭がわずかに灯りを提供している。
そこは書庫だった。
そしてタイジを呼んだ人物が本を読みながら、彼がやって来るのを待っていた。
「遅かったね」
「でも、ちょっとは、あなたにここにいて欲しくないと思っていました」タイジは息を切らせながら返した。「教えてください。答えを」
超人と異生物の存在は表裏一体。どちらも作られた存在だ」本を閉じてタイジを見据えながら言葉を繋げる。「このことをずーっと考えていくとね、ある概念が浮かび上がってくるんだ。君も、もしかしたらどこかで聞いたことがあるかもしれないな。そう…」そこに間を置いて「超越的存在…『神』の存在、をね」
「カミ…」
あの、どんな精霊よりも気高く、そして絶対的であるとされる、しかし決して存在はしないし、信じてはいけないと堅く禁じられている、人間が陥ってしまう心の病気の一つと石版に記されていた、神の存在。
「あなたは神になろうとしたのですか?」タイジは詰め寄った。「人の命を操って!」
「もしかしたらそうかも知れない。あるいは違うかも知れない」俯いて「私はハコザのように、自分の存在をどうにかしたいとかいう野心は持っていない。手を貸したのは、お互いの利益が一致したからに過ぎない。別に、出世や功名心などに興味はない。そんなことはくだらないよ。立場や地位など一時的なものに過ぎない。そんなつまらないことよりも、もっと必死にならなくてはならないことがあるんだ。我々を支配している存在の想起。そう、神は神を禁じたんだ
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