オリジナルの中世ファンタジー小説
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何故!これほどにも!苦しいのだ!
炎が、揺らめいている。恐ろしい。
恐ろしいだって?
この、私が!たかだかボヤごときを!
クソッ!クソォ!クソオオオ!
あの、死にぞこないの老いぼれめ!
私に、教えなかった切り札を…こんなところで…しかも、あいつの飼い犬に使わせやがったァ!!
私を、見下して!私を……
燃えていく。
燃えていく。
まるで怨霊の群のように、どす黒い色彩を有した炎がゆらゆらゆらゆら辺り一体を包み込み、彼の肉体を溶解しようとしている。
逃げ場はない!
どっちを向いても炎。どっちを向いても灼熱。どこまでいっても炎。どっちを向いても灼熱。
否、そは煉獄なり!
恐るべきは、この秘められたる魔術、レッドナイトメア。
悪夢を孕みながら、ハコザ教授の四肢を焼け付かせ、墨屑へと変えさせていく。
ハコザは暑さと精神に訴えてくるダメージから逃れようと、必死に思考を賭け巡らせた。
辿り着いたのは、彼の少年期。
そうだ。
私はこの炎を知っているんだ。
一度、この炎を見ていた。
私の家…。燃えて、無くなってしまった、私の家。
ハコザは幼い頃に生家で起こった火事のことを思い出していた。
夜中に突然目が覚めると、家の中が煙で満たされていた。真っ暗の筈なのに、廊下が明るい。ベッドから這い出て父と母の名を呼んだ。応えは無く、外からは悲鳴や怒声が聞こえて来ていた。真夜中だった。真夜中には許されていない筈の明るさがあった。初めて自分の家が燃えているのだということを知った。父親が自分の名を叫びながら飛び込んで来た。いつも頭を殴ってくる大嫌いな父親が。何をボサっとしている!早く、逃げるんだ!どうして?幼いハコザには分からなかった。火事で、もうすぐこの家は消滅してしまう、事態の予測にすぐには辿り着かなかった。父親は自分の手を強く引っ張った。痛い!腕が千切れる!何してるんだ、さあ逃げるんだ。やだよ、僕の本や玩具はどうなるの?馬鹿なことを言うな!そんなものどうだっていいだろ!命が一番大切なんだ……!
私は、忘れてはいない。
あの苦しみの日々を。
決して豊かであったとはいえない田舎の私の家庭は、突然の火事によって完全に破滅してしまった。
父親は失業し、母は貧しさに耐え切れなくなってどこへともなく出奔してしまった。
死人が出なくて本当に良かったなどと村人は人事のようにほざいたが、私としては、いっそ火事で一家全滅になっていた方が良かった。
なまじ生き残ってしまったが為に、その後の人生がどれほど辛く苦しいものになってしまったことか。
父親はますます暴力を振るうようになり、知人の情けで貸してもらった小さな一室で、私は来る日も来る日も苦しみに耐えていた。
貧しさにではない。
私が何より耐えがたかったのは、学校や村人達の私達親子に対する態度だ!
あの哀れむような視線。この子は家が焼けちゃって大変なのよね。お気の毒に。がんばりなさいよ。
あの態度!全く我慢出来なかった。
ある日口を聞いたことも無いクラスのませた女が「良かったら」といって贈り物をしてきた。私はそれを黙って受け取ると、中身を調べずに帰り道のドブ川に投げ捨てた。
あいつらの!「めぐんでやるよ」という、まるで自分よりも遥かに劣る弱者を見下すような目つきが、私に与えた苦痛は決して忘れられるものではない。
私は誰よりも上に立つ男になることを欲した。
貴様らに、知らしめてやる。
貴様らが見下している私は、やがてお前たちの遥か頭上に君臨する者なのだということを!
そして、私はいつしか超人の力を手にしていた。
その日、私はあらゆる精霊に感謝の祈りを捧げた。
だが、何故、今そんなことを思い出しているんだ?
「タイジ!」
マナが駆け寄ってくる。
「タイジ、タイジ!ゴメンね、ボク、なんだか急に眠くなっちゃって…でも今度は、タイジが起こしてくれたんだよね?」
「マナ、そんなことより、ハコザの奴だ。あいつ、頭を押さえたまま苦しんでるみたいだけど」
「あいつはしばらくは動けないよ」マナは自信を込めて言う。「学長のおかげだよ。それより、今がチャンスなんだ。タイジ、矢であいつを仕留めるんだ」
確かに、今のハコザは隙だらけだ。
だけど、ハコザの必殺剣で受けた腕の傷の回復は、矢を放てる段階まで進行していなかった。兄さん、あんたの魔術は役に立っていないよ!
「マナ……駄目なんだ、腕が……僕の腕で、この弓を握れない」
タイジは千載一遇のチャンスを前にして、額から止めどなく流れてくる汗を拭うことすら出来なかった。
もちろん、彼が開発し、ようやく製品化の段階へとこぎつけた医療薬も、傷口への使用を試みてはいた。だが、その結果は彼の十八番の回復系呪文ホワイトライトと同様であった。
傷は癒えても、完治までは至らない。
ハコザが鋭い懸声と共に放った剣の奥儀『月光衝』によって粉砕された肩のせいか、それとも、もっと付加的な効果のせいか、片腕は運動をすることを激しく拒絶し、彼に再び武具を構えさせることを断じて許さなかった。
破壊力…肉体へのダメージ度はもちろん、今までに味わったことないほどそれはそれは甚大だった。
だが、それに加え、まるで武道に於ける『小手打ち』のような、相手の戦力を削ぐ相乗効果。
タイジは焦燥する。
せっかく、マナの極秘の魔術で動きを止められているのに、僕の腕は、動くことを否定している。また、戦うことから逃れようとしている!
今、ここで!
弓を構えて、あいつを殺さなければいけないのに!
どうして、お前は…ッ!
「ボクが手伝うよ」
「…マ、マナ?」
少女の、優しい匂いと強い言葉が傍らにあった。
「いっしょに……あいつを、殺そう」
タイジは唇を噛んで、顔を背けたまま、何かをひとしきりこらえた後「うん。ありがとう」
マナはタイジを抱いて起こしてやると、弓を右手で掴み、矢をタイジの背から抜き取って彼のまだ使える方の手に握らせた。
「さぁ、ボクが弓を持ってるから、矢を放つんだ。とびっきり痺れるやつをね!」
マナが肌をぴったりと合わせてくれている。
迷うことは何もなかった。
仮初にもマナと一つになれている気がした。
理性を失った異生物の中でではない。
お互い赤い血を流しながら、それでも人間としての歴然とした明確な意志をもって、心と体がぎこちなくも一つになっている。
マナの構える弓にはマナの魔術の力が。
タイジの指に挟まれた矢には雷の力が。
そして二つが一つになって、仇敵に向って、放たれる。
ェッェエエエエエエクススプェエエリエエエエエンンンススゥゥゥウウウ
激しい閃光がハコザ目掛けて突き抜けていった。
やがて、それは男の喉仏に深々と命中した。
ハコザは声も上げずに、うつ伏せに倒れ伏した。
炎が、揺らめいている。恐ろしい。
恐ろしいだって?
この、私が!たかだかボヤごときを!
クソッ!クソォ!クソオオオ!
あの、死にぞこないの老いぼれめ!
私に、教えなかった切り札を…こんなところで…しかも、あいつの飼い犬に使わせやがったァ!!
私を、見下して!私を……
燃えていく。
燃えていく。
まるで怨霊の群のように、どす黒い色彩を有した炎がゆらゆらゆらゆら辺り一体を包み込み、彼の肉体を溶解しようとしている。
逃げ場はない!
どっちを向いても炎。どっちを向いても灼熱。どこまでいっても炎。どっちを向いても灼熱。
否、そは煉獄なり!
恐るべきは、この秘められたる魔術、レッドナイトメア。
悪夢を孕みながら、ハコザ教授の四肢を焼け付かせ、墨屑へと変えさせていく。
ハコザは暑さと精神に訴えてくるダメージから逃れようと、必死に思考を賭け巡らせた。
辿り着いたのは、彼の少年期。
そうだ。
私はこの炎を知っているんだ。
一度、この炎を見ていた。
私の家…。燃えて、無くなってしまった、私の家。
ハコザは幼い頃に生家で起こった火事のことを思い出していた。
夜中に突然目が覚めると、家の中が煙で満たされていた。真っ暗の筈なのに、廊下が明るい。ベッドから這い出て父と母の名を呼んだ。応えは無く、外からは悲鳴や怒声が聞こえて来ていた。真夜中だった。真夜中には許されていない筈の明るさがあった。初めて自分の家が燃えているのだということを知った。父親が自分の名を叫びながら飛び込んで来た。いつも頭を殴ってくる大嫌いな父親が。何をボサっとしている!早く、逃げるんだ!どうして?幼いハコザには分からなかった。火事で、もうすぐこの家は消滅してしまう、事態の予測にすぐには辿り着かなかった。父親は自分の手を強く引っ張った。痛い!腕が千切れる!何してるんだ、さあ逃げるんだ。やだよ、僕の本や玩具はどうなるの?馬鹿なことを言うな!そんなものどうだっていいだろ!命が一番大切なんだ……!
私は、忘れてはいない。
あの苦しみの日々を。
決して豊かであったとはいえない田舎の私の家庭は、突然の火事によって完全に破滅してしまった。
父親は失業し、母は貧しさに耐え切れなくなってどこへともなく出奔してしまった。
死人が出なくて本当に良かったなどと村人は人事のようにほざいたが、私としては、いっそ火事で一家全滅になっていた方が良かった。
なまじ生き残ってしまったが為に、その後の人生がどれほど辛く苦しいものになってしまったことか。
父親はますます暴力を振るうようになり、知人の情けで貸してもらった小さな一室で、私は来る日も来る日も苦しみに耐えていた。
貧しさにではない。
私が何より耐えがたかったのは、学校や村人達の私達親子に対する態度だ!
あの哀れむような視線。この子は家が焼けちゃって大変なのよね。お気の毒に。がんばりなさいよ。
あの態度!全く我慢出来なかった。
ある日口を聞いたことも無いクラスのませた女が「良かったら」といって贈り物をしてきた。私はそれを黙って受け取ると、中身を調べずに帰り道のドブ川に投げ捨てた。
あいつらの!「めぐんでやるよ」という、まるで自分よりも遥かに劣る弱者を見下すような目つきが、私に与えた苦痛は決して忘れられるものではない。
私は誰よりも上に立つ男になることを欲した。
貴様らに、知らしめてやる。
貴様らが見下している私は、やがてお前たちの遥か頭上に君臨する者なのだということを!
そして、私はいつしか超人の力を手にしていた。
その日、私はあらゆる精霊に感謝の祈りを捧げた。
だが、何故、今そんなことを思い出しているんだ?
「タイジ!」
マナが駆け寄ってくる。
「タイジ、タイジ!ゴメンね、ボク、なんだか急に眠くなっちゃって…でも今度は、タイジが起こしてくれたんだよね?」
「マナ、そんなことより、ハコザの奴だ。あいつ、頭を押さえたまま苦しんでるみたいだけど」
「あいつはしばらくは動けないよ」マナは自信を込めて言う。「学長のおかげだよ。それより、今がチャンスなんだ。タイジ、矢であいつを仕留めるんだ」
確かに、今のハコザは隙だらけだ。
だけど、ハコザの必殺剣で受けた腕の傷の回復は、矢を放てる段階まで進行していなかった。兄さん、あんたの魔術は役に立っていないよ!
「マナ……駄目なんだ、腕が……僕の腕で、この弓を握れない」
タイジは千載一遇のチャンスを前にして、額から止めどなく流れてくる汗を拭うことすら出来なかった。
もちろん、彼が開発し、ようやく製品化の段階へとこぎつけた医療薬も、傷口への使用を試みてはいた。だが、その結果は彼の十八番の回復系呪文ホワイトライトと同様であった。
傷は癒えても、完治までは至らない。
ハコザが鋭い懸声と共に放った剣の奥儀『月光衝』によって粉砕された肩のせいか、それとも、もっと付加的な効果のせいか、片腕は運動をすることを激しく拒絶し、彼に再び武具を構えさせることを断じて許さなかった。
破壊力…肉体へのダメージ度はもちろん、今までに味わったことないほどそれはそれは甚大だった。
だが、それに加え、まるで武道に於ける『小手打ち』のような、相手の戦力を削ぐ相乗効果。
タイジは焦燥する。
せっかく、マナの極秘の魔術で動きを止められているのに、僕の腕は、動くことを否定している。また、戦うことから逃れようとしている!
今、ここで!
弓を構えて、あいつを殺さなければいけないのに!
どうして、お前は…ッ!
「ボクが手伝うよ」
「…マ、マナ?」
少女の、優しい匂いと強い言葉が傍らにあった。
「いっしょに……あいつを、殺そう」
タイジは唇を噛んで、顔を背けたまま、何かをひとしきりこらえた後「うん。ありがとう」
マナはタイジを抱いて起こしてやると、弓を右手で掴み、矢をタイジの背から抜き取って彼のまだ使える方の手に握らせた。
「さぁ、ボクが弓を持ってるから、矢を放つんだ。とびっきり痺れるやつをね!」
マナが肌をぴったりと合わせてくれている。
迷うことは何もなかった。
仮初にもマナと一つになれている気がした。
理性を失った異生物の中でではない。
お互い赤い血を流しながら、それでも人間としての歴然とした明確な意志をもって、心と体がぎこちなくも一つになっている。
マナの構える弓にはマナの魔術の力が。
タイジの指に挟まれた矢には雷の力が。
そして二つが一つになって、仇敵に向って、放たれる。
ェッェエエエエエエクススプェエエリエエエエエンンンススゥゥゥウウウ
激しい閃光がハコザ目掛けて突き抜けていった。
やがて、それは男の喉仏に深々と命中した。
ハコザは声も上げずに、うつ伏せに倒れ伏した。
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