オリジナルの中世ファンタジー小説
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ここに、とある少年が書き残した日記がある。
日付はまちまちで、三日連続で続いている時もあれば、二週間も途絶えていることもある。
以下、その手記より抜粋。
こっちの国に来てどれぐらいが経っただろう。この国の秋は短い。日に日に寒くなっていく。僕は忙しい。
魔術アカデミー(これは内輪の人間によるちょっと洒落た呼び方で、本来は魔術大学)は本当にスケールがデカイ。あっちこっちの研究室を渡り歩いたお陰で、だいぶ回ったとは思うけど、それでもまだ、未踏の領域が残っている。未だに大学内の全貌を把握できていない。すれ違う学生の数や、施設の数、うちの国のどこにいっても、あんなにたくさん人はいないんじゃなイカ?
施設といえば、体育館ぐらいの大部屋に、大きなトランポリンが六つ置かれただけの部屋を先日発見したけど、あの部屋はいったい何に使うんだ?
学生の顔ぶれも様々だ。肌の黒い異国風の人もいれば、ヒゲや耳のある獣人もいる。獣人の割合はうちの国より遥かに多いようだ。とにかく坩堝だ。坩堝。
僕は確信している。あの卒業試験の時、マナの仲間達はハコザ教授の陰謀によって異生物に転身させられ、そしてマナ自身の手で葬られたんじゃないかと。
マナはこの説を信じようとはしない。頑固に、おエライ先生を信じてしまっている。
目を覚ませ!
もう雪が降り始めている。高地の冬は厳しいと聞くが、超人になった僕は寒さで凍え死ぬということはないのだろうか?
超人や異生物のことを色々調べている。図書館にはたくさんの蔵書があり、それらは活版印刷されたものもあるが、驚きなのは魔術大の学生によって丹念に書き写された本だ。まるで活版印刷機で刷ったみたいに、正確な文字で書かれている。授業の一環でこうしたことをしているんだろうか。俗に写経というらしいが、僕は面倒臭くてこんな真似は出来ない。
こうして本に囲まれていると、ふと細かいことを考えていってしまう。いったい本というものを一冊印刷するのに、どれぐらいの手間と時間がかかるのだろうか。
活版印刷機はとても高価で、王宮とか、一部の大金持ちサイドにしかないらしい。
僕は、たくさんの本に囲まれてつい居眠りをしてしまった。眠りながら考えたのは、紙を入れればあっという間に文字が印刷される仕掛けの箱があったらいいなア、という馬鹿馬鹿しい空想だった。
超級医薬品開発研究室。
そこが今の僕のメインルーム。
確かに、僕の実家で作られていたあの薬は、日夜異生物との死闘を繰り広げている超人たちにとって、これからは必需品となる製品になるかもしれない。
サンプルを使用したサキィの感想は参考になったが、まだまだ実用化には程遠い。揮発性があまりにも高すぎる。だが、それを抑えようとして化合物を加えると、今度は治癒の効果が下がってしまう。どうしたらいいか。
ホワイトライトの継承者、未だ現れず。
僕はいつしか、新しい攻撃呪文の使い手から、回復分野のスペシャリストに、大して欲しいとも思わない『肩書き』が変わってしまったようだ。
マナと喧嘩した。
あいつは何も分かっていない。
何を根拠に「正しい」とか「絶対」とか言ってるんだ!
目上の連中なら間違ったことを言うわけ無いとでも思っているんだろうか。全く腹立たしい。
しばらく口を利かないことにした。何度でも言うが、お前の仲間はあいつらに殺されたんだ!
とりあえず、しばらくあの話をしないことで仲直り。
マナとまた話が出来て嬉しいのは僕。
ヤーマ教授は、相変わらずマイペースで、話を聞いているのか聞いていないのか、つかみ所無い感じで、でも僕の研究ノートを見ると、何やら満足した様子で、良い本があるからと、何冊か選んで教えてくれた。
生物学者のあの人は、正に僕が調査しているあたりが専門分野だったのだ!
最近、夢をよく見る。
窓の外では雪がしんしん。
アカデミーが休みの日、都合がつけば僕はサキィの『ビジネス』に参加させてもらってる。
元々兄貴分の男だったけど、サキィ・マチルヤは今やすっかり社長。依頼も単なる旅の護衛だけではなく、荷物を運んだり、私怨の為に特定の異生物を狩りまくったり、山の奥地のある特定の場所にしか群生しない高山植物の採集をしに行ったり、いろいろな内容が舞い込んでくるらしい。
サキィの仲間もどんどん増えていっている。例の小切手は再度発行してもらったらしく、今ではルロイさんのいた馬屋じゃなくて、街の外れにちゃんとした事務所を構えている。
でも、サキィ自身は決して怠慢になることなく、毎日剣の修行に熱心だ。聞けば『必殺剣』なるものの開発中なのだと。彼の奥義開発の犠牲になって死んでいく異生物たちに、合掌!
中央国と東南国の国交は回復しない。おかげで、冬だというのに物価が上がって仕方が無いと、ユナおばさんは嘆いていた。
中央国を取り仕切る皇子はまだ若いということだけど、信憑性のない噂を聞いて一方的に閉ざしてしまうなんて、一体どんな奴なんだろう。多分、僕はその皇子と顔を会わす機会はないのだろうけど……
寒い。
開発室では僕より何倍も頭の良い人たちが、僕の言葉を聞いて薬品の開発に励んでいる。なんだかこそばゆい気分だなァ。
メンバーの半分ぐらいは、マナのお姉さんが住んでるミドゥー領の出身らしい…というか、その領内にある『超人医院』とかいうところから出張で来てるとか。
どんなところか知らないけど、オズノール先生みたいな人がいるんだから、さぞかし『こんなところ』に違いない。
オズノール先生というのは……まあ僕もこんな変な人には今まで出会ったことないかもしれない。学者はとにかく変わった人が多いけど…
薬の完成にはあと一つ、素材が足りない。それは草だ。なかなか手に入らない、希少なもの。
雪国の雪かきは地獄だ。
家の中に、何故かいろんな人がいて、お袋やヤーマ先生や学長やうちの姉やマナの姉のリナさんや、大学でよくすれ違う名前知らないやつとか、高等部の時のもうずっと会ってない同級生とか、よく見かける物乞いとか、なんかたくさん居間にいるんだけど、窓の外を見ると、雲がもの凄い速さで流れていて、空の色が明るくなったり暗くなったり、そしてどこからか不安な鍵盤の音色がガンガン響いてくる。僕は怖くなって、うちの人を呼ぼうとして、ユナおばさん、ユナおばさんと叫んだ。すると、ユナさんは皺くちゃのお婆ちゃんになってしまっていた。僕は大声を上げて飛びのくと、今度は居間にいた連中が皆、一気に年老いていって…立ったまま年月が経過してって、しまいにはお墓が出来ていなくなっていく。鍵盤の音はどんどん大きく気持ち悪くなっていく。
その時、マナの声がした。マナは一人だけ、歳を取らずに、若いままポツンとしていた。周りの人間が次々に年老いてお墓に変わっていっちゃうのに、こいつだけは平然としていた。
僕はマナに呼びかけようとしたけど、声が出なかった。言葉が、出なかった。
マナは何も知らない顔で、きょとんとしている。なんかとてももどかしかった。お前も何か言え!いつもみたいに大騒ぎして、事態をややこしくさせてみろ!
でもマナは歳を取らなかった。家はもうボロボロの廃墟になっていた。
その時僕は気付いた。あのアオイがよく言っていたように、僕は一匹の小さな蛙になってしまっていたんだ。声なんか出せないの、当たり前だ。
ヒドイ悪夢だった。
アオイは僕に対しては相変わらず素っ気無い。相手によって態度をころころ変えるやつ。
マナ曰く、アオイちゃんはタイジに嫉妬してるんだよ、と。
それなら僕も同じだ。マナが他の男と口を聞いているのを、ただの一秒も見ていたくない。
お前にオズノール先生の話をした時、ずっと不機嫌な顔して、冷たい態度取ってたな。それは僕だって同じなんだよ。
でも、勘違いするなよ。
先生は人妻だ。
三つ目の少年が夢に出てきた。そいつは僕を見ると爽やかな笑顔で挨拶をし、丁寧な言葉で何かの話を始めたが、しばらくすると顔色を変えて僕を嘲った。すると僕の足元に大きな穴ぼこができて、僕はストーンと落ちてしまった。
魔術学は僕のせいで、長らく定説としてた四大属性論を改定しなくてはならなくなったらしい。どうやら来年から大きく魔術体系が変更されるみたいで、もう今年も残り僅かとなってきたのに、教授たちはてんやわんや忙しそうにしている。
また夢の話。
会議室の手前にいた。世界中の偉い人たちが集まって、何か重大な協議をしているらしい。僕はヴィップ扱いで、係りの人に、どうしますか、ここで出ていかれますか?それともお止めになられますか?と返答を迫られていた。どうやら僕が会議の場に出て行くことになると、世界情勢が大きく変わるらしい。よく分からないけど、でも僕は黙って帰ることにした。きっとマナやサキィに叱られるんだろうなと思いながら、それでも僕は重荷に耐えられなかったんだと思う。
一体なんの話じゃ!
今日もサキィの仕事の手伝いをした。アカデミーがあるから、僕は日雇い。その日のうちに終わるこまい仕事だ。
今日、一緒に行動した亜人の超人剣士マコトは不思議なやつだった。まるで狐みたいな外見だけど、瞳は真ん丸で、ハキハキしてるのに、実は女の子みたい。
でも、マコトの斧捌きは凄まじかった。僕の弓で何発も打ち込まなければ動きを止めれない相手を、豪快なたった一振りで、真っ二つにしてしまう。サキィもその腕前には一目置いているようだ。本人ははにかんで、キュートでやんちゃな笑顔を見せた。狐族の尻尾がふわふわ動いてかわいかった。また一緒にやろうぜ!って、僕に言ってくれた。
本人は自分のことを男だと思ってるらしいけど、経験則から、僕はマコトのことをマナの前では話さないようにしようと思った。
それにしても、サキィの元にはどんどんツワモノが集まっていくなァ。昔はガラの悪い連中ばっか取り巻きだったけど、やっぱりあいつにはカリスマがあるのかな?
書き忘れていたが、大学はもう冬期休暇に入っている。
ただ、授業が無いだけで、研究者は年の暮れでも忙しそうに歩き回っているし、マナはマナで後は卒業式を迎えるだけらしいのだが、何やら学長と打ち合わせることがあるらしく、相変わらず毎日馬車であの要塞へと通う(僕もだけどね~)
いくらか人の減った校内は、より一層広大に感じられる。結構なことだ。
春が近づいてきているせいか、たまにちょっと気温の上がる日がある。そんな日はユナおばさんがご機嫌な笑顔で、洗濯物をベランダに干す。
夢にセイジ兄さんが出てきた。俯瞰視線。壁には描きかけの少年の絵があって、目と、耳と、口の部分が無かった。でも、その少年は前にどこかで見た気がする。誰 だっけ。
すると、どこからかセイジ兄さんがやってきて、壁の絵を見てニヤっと笑った。セイジ兄さんはどこからか取り出した大きな筆に絵の具をつけると、描きかけの少年の目、口、耳をつけたした。すると、あたりに光が溢れて、少年は壁から動き出して兄さんを丸ごと食べてしまった。
明日はマナの高等部時代の親友といっしょに、演奏会へ行くつもりだ。
本当は先週の予定だったんだけど、演目がパイプオルガンと打楽器による即興のデュオセッションということをサキィに話したら、何としても予定を空けるから、俺も連れて行け!ということになり、演奏者との伝手があるらしいそのマナの友人とも調整したところ、結局明日になったというわけだ。
僕は一体そのコンサートがどんなものか、全く想像がつかないけど、皆は楽しみにしているみたいだ。
マナの友人の名はアカネ。学校を出てからは骨董屋に勤めているらしい。親友というからにはどんな人かと思ったが、マナ曰く、とっても真面目で頭の良い出来た子、ということらしい。きっとあいつは彼女から散々勉強を助けてもらったのだろう。
『まだ未通女だからおいたしちゃ駄目だぞ!』なんて言われたが、お前みたいに尻軽じゃないって怒ってやった。
何にしろ、ぼちぼち明日が楽しみではある。サキィは仕事を切り上げてから向うと言っていたが、果たして間に合うだろうか………
日付はまちまちで、三日連続で続いている時もあれば、二週間も途絶えていることもある。
以下、その手記より抜粋。
こっちの国に来てどれぐらいが経っただろう。この国の秋は短い。日に日に寒くなっていく。僕は忙しい。
魔術アカデミー(これは内輪の人間によるちょっと洒落た呼び方で、本来は魔術大学)は本当にスケールがデカイ。あっちこっちの研究室を渡り歩いたお陰で、だいぶ回ったとは思うけど、それでもまだ、未踏の領域が残っている。未だに大学内の全貌を把握できていない。すれ違う学生の数や、施設の数、うちの国のどこにいっても、あんなにたくさん人はいないんじゃなイカ?
施設といえば、体育館ぐらいの大部屋に、大きなトランポリンが六つ置かれただけの部屋を先日発見したけど、あの部屋はいったい何に使うんだ?
学生の顔ぶれも様々だ。肌の黒い異国風の人もいれば、ヒゲや耳のある獣人もいる。獣人の割合はうちの国より遥かに多いようだ。とにかく坩堝だ。坩堝。
僕は確信している。あの卒業試験の時、マナの仲間達はハコザ教授の陰謀によって異生物に転身させられ、そしてマナ自身の手で葬られたんじゃないかと。
マナはこの説を信じようとはしない。頑固に、おエライ先生を信じてしまっている。
目を覚ませ!
もう雪が降り始めている。高地の冬は厳しいと聞くが、超人になった僕は寒さで凍え死ぬということはないのだろうか?
超人や異生物のことを色々調べている。図書館にはたくさんの蔵書があり、それらは活版印刷されたものもあるが、驚きなのは魔術大の学生によって丹念に書き写された本だ。まるで活版印刷機で刷ったみたいに、正確な文字で書かれている。授業の一環でこうしたことをしているんだろうか。俗に写経というらしいが、僕は面倒臭くてこんな真似は出来ない。
こうして本に囲まれていると、ふと細かいことを考えていってしまう。いったい本というものを一冊印刷するのに、どれぐらいの手間と時間がかかるのだろうか。
活版印刷機はとても高価で、王宮とか、一部の大金持ちサイドにしかないらしい。
僕は、たくさんの本に囲まれてつい居眠りをしてしまった。眠りながら考えたのは、紙を入れればあっという間に文字が印刷される仕掛けの箱があったらいいなア、という馬鹿馬鹿しい空想だった。
超級医薬品開発研究室。
そこが今の僕のメインルーム。
確かに、僕の実家で作られていたあの薬は、日夜異生物との死闘を繰り広げている超人たちにとって、これからは必需品となる製品になるかもしれない。
サンプルを使用したサキィの感想は参考になったが、まだまだ実用化には程遠い。揮発性があまりにも高すぎる。だが、それを抑えようとして化合物を加えると、今度は治癒の効果が下がってしまう。どうしたらいいか。
ホワイトライトの継承者、未だ現れず。
僕はいつしか、新しい攻撃呪文の使い手から、回復分野のスペシャリストに、大して欲しいとも思わない『肩書き』が変わってしまったようだ。
マナと喧嘩した。
あいつは何も分かっていない。
何を根拠に「正しい」とか「絶対」とか言ってるんだ!
目上の連中なら間違ったことを言うわけ無いとでも思っているんだろうか。全く腹立たしい。
しばらく口を利かないことにした。何度でも言うが、お前の仲間はあいつらに殺されたんだ!
とりあえず、しばらくあの話をしないことで仲直り。
マナとまた話が出来て嬉しいのは僕。
ヤーマ教授は、相変わらずマイペースで、話を聞いているのか聞いていないのか、つかみ所無い感じで、でも僕の研究ノートを見ると、何やら満足した様子で、良い本があるからと、何冊か選んで教えてくれた。
生物学者のあの人は、正に僕が調査しているあたりが専門分野だったのだ!
最近、夢をよく見る。
窓の外では雪がしんしん。
アカデミーが休みの日、都合がつけば僕はサキィの『ビジネス』に参加させてもらってる。
元々兄貴分の男だったけど、サキィ・マチルヤは今やすっかり社長。依頼も単なる旅の護衛だけではなく、荷物を運んだり、私怨の為に特定の異生物を狩りまくったり、山の奥地のある特定の場所にしか群生しない高山植物の採集をしに行ったり、いろいろな内容が舞い込んでくるらしい。
サキィの仲間もどんどん増えていっている。例の小切手は再度発行してもらったらしく、今ではルロイさんのいた馬屋じゃなくて、街の外れにちゃんとした事務所を構えている。
でも、サキィ自身は決して怠慢になることなく、毎日剣の修行に熱心だ。聞けば『必殺剣』なるものの開発中なのだと。彼の奥義開発の犠牲になって死んでいく異生物たちに、合掌!
中央国と東南国の国交は回復しない。おかげで、冬だというのに物価が上がって仕方が無いと、ユナおばさんは嘆いていた。
中央国を取り仕切る皇子はまだ若いということだけど、信憑性のない噂を聞いて一方的に閉ざしてしまうなんて、一体どんな奴なんだろう。多分、僕はその皇子と顔を会わす機会はないのだろうけど……
寒い。
開発室では僕より何倍も頭の良い人たちが、僕の言葉を聞いて薬品の開発に励んでいる。なんだかこそばゆい気分だなァ。
メンバーの半分ぐらいは、マナのお姉さんが住んでるミドゥー領の出身らしい…というか、その領内にある『超人医院』とかいうところから出張で来てるとか。
どんなところか知らないけど、オズノール先生みたいな人がいるんだから、さぞかし『こんなところ』に違いない。
オズノール先生というのは……まあ僕もこんな変な人には今まで出会ったことないかもしれない。学者はとにかく変わった人が多いけど…
薬の完成にはあと一つ、素材が足りない。それは草だ。なかなか手に入らない、希少なもの。
雪国の雪かきは地獄だ。
家の中に、何故かいろんな人がいて、お袋やヤーマ先生や学長やうちの姉やマナの姉のリナさんや、大学でよくすれ違う名前知らないやつとか、高等部の時のもうずっと会ってない同級生とか、よく見かける物乞いとか、なんかたくさん居間にいるんだけど、窓の外を見ると、雲がもの凄い速さで流れていて、空の色が明るくなったり暗くなったり、そしてどこからか不安な鍵盤の音色がガンガン響いてくる。僕は怖くなって、うちの人を呼ぼうとして、ユナおばさん、ユナおばさんと叫んだ。すると、ユナさんは皺くちゃのお婆ちゃんになってしまっていた。僕は大声を上げて飛びのくと、今度は居間にいた連中が皆、一気に年老いていって…立ったまま年月が経過してって、しまいにはお墓が出来ていなくなっていく。鍵盤の音はどんどん大きく気持ち悪くなっていく。
その時、マナの声がした。マナは一人だけ、歳を取らずに、若いままポツンとしていた。周りの人間が次々に年老いてお墓に変わっていっちゃうのに、こいつだけは平然としていた。
僕はマナに呼びかけようとしたけど、声が出なかった。言葉が、出なかった。
マナは何も知らない顔で、きょとんとしている。なんかとてももどかしかった。お前も何か言え!いつもみたいに大騒ぎして、事態をややこしくさせてみろ!
でもマナは歳を取らなかった。家はもうボロボロの廃墟になっていた。
その時僕は気付いた。あのアオイがよく言っていたように、僕は一匹の小さな蛙になってしまっていたんだ。声なんか出せないの、当たり前だ。
ヒドイ悪夢だった。
アオイは僕に対しては相変わらず素っ気無い。相手によって態度をころころ変えるやつ。
マナ曰く、アオイちゃんはタイジに嫉妬してるんだよ、と。
それなら僕も同じだ。マナが他の男と口を聞いているのを、ただの一秒も見ていたくない。
お前にオズノール先生の話をした時、ずっと不機嫌な顔して、冷たい態度取ってたな。それは僕だって同じなんだよ。
でも、勘違いするなよ。
先生は人妻だ。
三つ目の少年が夢に出てきた。そいつは僕を見ると爽やかな笑顔で挨拶をし、丁寧な言葉で何かの話を始めたが、しばらくすると顔色を変えて僕を嘲った。すると僕の足元に大きな穴ぼこができて、僕はストーンと落ちてしまった。
魔術学は僕のせいで、長らく定説としてた四大属性論を改定しなくてはならなくなったらしい。どうやら来年から大きく魔術体系が変更されるみたいで、もう今年も残り僅かとなってきたのに、教授たちはてんやわんや忙しそうにしている。
また夢の話。
会議室の手前にいた。世界中の偉い人たちが集まって、何か重大な協議をしているらしい。僕はヴィップ扱いで、係りの人に、どうしますか、ここで出ていかれますか?それともお止めになられますか?と返答を迫られていた。どうやら僕が会議の場に出て行くことになると、世界情勢が大きく変わるらしい。よく分からないけど、でも僕は黙って帰ることにした。きっとマナやサキィに叱られるんだろうなと思いながら、それでも僕は重荷に耐えられなかったんだと思う。
一体なんの話じゃ!
今日もサキィの仕事の手伝いをした。アカデミーがあるから、僕は日雇い。その日のうちに終わるこまい仕事だ。
今日、一緒に行動した亜人の超人剣士マコトは不思議なやつだった。まるで狐みたいな外見だけど、瞳は真ん丸で、ハキハキしてるのに、実は女の子みたい。
でも、マコトの斧捌きは凄まじかった。僕の弓で何発も打ち込まなければ動きを止めれない相手を、豪快なたった一振りで、真っ二つにしてしまう。サキィもその腕前には一目置いているようだ。本人ははにかんで、キュートでやんちゃな笑顔を見せた。狐族の尻尾がふわふわ動いてかわいかった。また一緒にやろうぜ!って、僕に言ってくれた。
本人は自分のことを男だと思ってるらしいけど、経験則から、僕はマコトのことをマナの前では話さないようにしようと思った。
それにしても、サキィの元にはどんどんツワモノが集まっていくなァ。昔はガラの悪い連中ばっか取り巻きだったけど、やっぱりあいつにはカリスマがあるのかな?
書き忘れていたが、大学はもう冬期休暇に入っている。
ただ、授業が無いだけで、研究者は年の暮れでも忙しそうに歩き回っているし、マナはマナで後は卒業式を迎えるだけらしいのだが、何やら学長と打ち合わせることがあるらしく、相変わらず毎日馬車であの要塞へと通う(僕もだけどね~)
いくらか人の減った校内は、より一層広大に感じられる。結構なことだ。
春が近づいてきているせいか、たまにちょっと気温の上がる日がある。そんな日はユナおばさんがご機嫌な笑顔で、洗濯物をベランダに干す。
夢にセイジ兄さんが出てきた。俯瞰視線。壁には描きかけの少年の絵があって、目と、耳と、口の部分が無かった。でも、その少年は前にどこかで見た気がする。誰 だっけ。
すると、どこからかセイジ兄さんがやってきて、壁の絵を見てニヤっと笑った。セイジ兄さんはどこからか取り出した大きな筆に絵の具をつけると、描きかけの少年の目、口、耳をつけたした。すると、あたりに光が溢れて、少年は壁から動き出して兄さんを丸ごと食べてしまった。
明日はマナの高等部時代の親友といっしょに、演奏会へ行くつもりだ。
本当は先週の予定だったんだけど、演目がパイプオルガンと打楽器による即興のデュオセッションということをサキィに話したら、何としても予定を空けるから、俺も連れて行け!ということになり、演奏者との伝手があるらしいそのマナの友人とも調整したところ、結局明日になったというわけだ。
僕は一体そのコンサートがどんなものか、全く想像がつかないけど、皆は楽しみにしているみたいだ。
マナの友人の名はアカネ。学校を出てからは骨董屋に勤めているらしい。親友というからにはどんな人かと思ったが、マナ曰く、とっても真面目で頭の良い出来た子、ということらしい。きっとあいつは彼女から散々勉強を助けてもらったのだろう。
『まだ未通女だからおいたしちゃ駄目だぞ!』なんて言われたが、お前みたいに尻軽じゃないって怒ってやった。
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