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オリジナルの中世ファンタジー小説
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「元気にしてた?」と言って、マナはタイジの無骨で寄る辺ない手をいきなり握った。
タイジはますます動けなくなる。
「会いたかったよー。だってタイジったら急にボクの前から姿を消したんだもん。でも、今回の旅でボクが『是非この宿で』って学長に頼んでさ!あ、背ぇ伸びた?」
タイジは心臓を突き破られそうになりながらも、気を紛らす為に、もう一度最後にマナに会った日のことを思い出そうとする。去年の夏?いや、初夏だった…一年半ぐらい前?そんなに前じゃない…一年と…一年と…
「なぁんか、ちっとも変わってないねぇ。相変わらずの末っ子ちゃんだね!ボクが背を伸ばしてあげたもんでしょ」
マナを見る。
重たい旅装を着ていても、その下にある弾力感に満ちた柔らかい体が分かる。昔から発育ばかり良くて、ちらちらと見入ってしまっていた愛らしい姿。
すっかり顔を赤らめてしまっているタイジは小さな声で「背、伸ばしたって、どういうことだよ…」
だがタイジは知っていた。
媚びるような上目遣いを使って自分の手を握りながら猫撫で声で語りかけているにも関わらず、次のようなセリフをマナが口にするのを…
「ねぇねぇ、あんたがいるってことはぁ、セイジさんもここにいるってこと?」
「いないよ!」
タイジは柔らかいマナの手を振り払って「セイジ兄さんは王宮で料理人やってるから!」と邪険に言い放った。
「ふーん、そうなんだ。がっかりィー。なーんだ」
タイジは思う。
どうしてこんな女のことが今でも忘れられずに好きなんだろうと。
こいつは!
この女は!
マナは、どう考えても自分に害を与えている存在だ。こいつのせいで、平穏に過ごしたいと願っていた僕の人生は狂わされてしまった。拭い去れない呪いにも似たトラウマとなって、僕の人生にどす黒い甘美なえぐり傷を残して、それでもやっぱり、マナを前にすると好きという気持ちが殺せない。その自分の甘さに更に腹が立つ。いなくなってしまえば良いと何度も思った。何よりも性質が悪いのは、この女はそのことを知っていながら、まるで手玉に取るように自分の都合しか考えていない。
でも。
それでも、あの日…
突然行方をくらましてから今日まで…マナが僕の日常からいなくなってしまってから、僕は何に対してもやる気が出せなくなっていた。何をしても虚しいと感じるだけだった。
「ま、しばらくはタイジの宿にお世話になるわけだからよろしく頼むよ!言っとくけど夜中に襲ってきたりとか、変な気は起こしても、起こさないでね。あ、一応、あそこにいるのはみぃんなボクのカレシだから!」と言って愛らしい少女はロビーで呆然としている仲間達を丁寧にご紹介に上がられた。

「マナちゃんていうのね、あの子。スゴイじゃない!女の子なのにリーダーつとめてるんだって?しかも一番若いんじゃない?おまけにこの街の出身なの?」
呑気な母親は何も知らなかったようだ。
タイジは心底ムカムカしながら食後の皿洗いを手伝っていた。
「あんたと同じ中等学校行ってたって本当?あんなカワイイ女の子いたっけねぇ、同い年?」
「学年は同じだけど歳はあいつのが一個上!マナは高等学校の途中で隣の国に引っ越したんだよ。なんでも家庭の事情ってやつでね。しかも学校は別だったから、実質は中等まで」この皿を総て木っ端微塵に割ってしまいたい。
「あらあら、そうなのー。苦労してるのねぇ。でもそれで超一流の魔術大学に入るだなんて、ホントすごい女の子よね。どこかの誰かさんとは大違いね!あんな立派で優秀な女の子、うちにも欲しかったな」
タイジはそんな母親の言葉を聞いて、危うく激昂して次の言葉を言ってやりたかったが、萎えてしまいそれは控えた。
ふざけんな。お前んとこの二番目の息子の初めての女だよ、あいつは!

夜。
タイジはよっぽど断ってやりたかったが、母の口車に乗せられて、マナの宿泊している部屋までワインボトルを六本抱えて参上してしまっていた。
コンコンコン。
「追加ご注文頂いた当店自慢の葡萄酒を六本、重さで腕がポキっと逝っちゃうんじゃないかというくらい必死な思いで、でもどうせ全部無駄に空けては引っ繰り返したり吐き出したりするんだろうなと憂鬱な気分になりながら、お持ちしましたー!」と悪態をついてドアの外で言ってやった。
「はーい。ありがとねーボーイさん~どうぞーいつでも入ってきてぇ」
マナは接着剤でくっつけたようなべっとり陽気な声で答えた。
タイジは足でドアを開けた。
するとそこにはカードを手にしたマナの級友の男が三人と、髪が緑色にすっかり変色している赤ら顔のマナがいた。
「きゃー。ありがとう可愛いボーイさん。どうどう?いっしょに一勝負していかない?」とマナはすっかり酔っ払った目でタイジに語りかけた。
「結構です。僕はまだ仕事があるんで」それは嘘だった。
「ねぇねぇ、タイジが入ったらぁ、次からは負けた人は一枚ずつ服を脱いでいくってのはどう?きゃはは」
タイジはワインをテーブルに置いて、思わずマナの寝間着を見てしまった。
着ているのは普通のパジャマだったが、夕方に対峙した時に纏っていた外套ではなく、今はふくよかな肉付きをはっきりと教えてくれる格好になっている。
「わはは!ソレ、良いですね。ねぇキクチョーさん」と横の男が笑う。
「タイジ殿、いかがかな?ちょっとやってかないか?」と声をかけられた粗野な男がカードを切りながら言う。
「いや、明日も早いし」と、ついついマナの胸元を見ようとする己を抑制し「マナ、お前もそんなに酔っ払って、明日は早いんじゃないのか?髪が真緑だぞ?」
「えへー、うそぉ?」とマナはカマトトぶった仕草で己が髪を撫でた。
そう、こいつは興奮したりすると髪の色が黒から緑に変わるんだ。
亜人め!お前なんか人間様じゃないんだよ!
「もう、夜も遅いし、あんま騒ぐと他の客に迷惑だから…」
「え?でもこの階はうちら以外部屋を取ってないっておばさまから聞いたよぉ」
何がおばさまだよ!
「ねぇ、タイジぃ、セイジさんは?セイジさんは帰ってこないの?」
「セイジ兄さんはここにはもう住んでないの!お城!失礼します!」と、タイジは早々にマナの部屋を後にした。
そのくせ、彼は自室に戻ってベッドの中で眠る時、今ごろマナはどうしていることかと思い煩い、しかし確かめに行く勇気も出ないまま悶々と朝を迎えるのであった。

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