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オリジナルの中世ファンタジー小説
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「然るに、我が国と貴国との今後ますますの軍事、及び経済の発展を実現する為にも、貴国の領土内にあるとされる『暗黒の地下道』への入場許可を頂きたく候。国家魔術学研究機関直属、国立魔術大学魔術学部第一魔術学科、魔術師学専攻第一期卒業見込み予定生八名、かの地にて卒業試験の儀式を執り行いたく候」
午前の眩い陽射しが映える王宮の間で、マナは魔術大学の学長から授かった書状を勇ましく読み上げ、東南王国を治める女王陛下の御前で挨拶を行っていた。髪は静かに光りを帯びた黒に戻り、重々しく丁重に跪いて、背後に七人の同期を従えたその様はまるで出陣前の騎士小隊のようであった。
「お若いのに」と、マナの言葉が終わると女王陛下は穏やかな笑みをお見せになり、異国の学生達を労わるように、慈悲に満ちたお声で優しく仰られた。「そなたらの国が魔術という新しい分野に取り組まれるようになってからそれほど時はたっていません。ですが、もうこうして若い学生を送ってこさせた。それは誠に目覚しく、立派なことであります。マナさん、と仰いましたね?」
「はい。女王陛下」
マナは唇をキッと張り詰めた真剣な表情で、かつて自分が属していた国の最高権力者を見上げた。そこには昨夜のふしだらな姿の余韻は微塵もない。
「正直私は、あなた達のような若くて将来有望な方々を、あの場所へ向かわせたくはありません。貴国での風潮がいかなるものか、私にはいささか分かりかねますが、件の地下道は、世に得体の知れぬ強暴な異生物達がはびこるようになってから、それに抗する目的で、軍の中に超人を募らせる為、試練の場所として我が国が管理して扱っている区域なのです。決して、一般の市民や無関係者が立ち入らないように呼びかけています。そんな場所で、記念すべき第一期卒業生でもある貴方方が向かわれて、それでもし命を落とすようなことになってごらんなさい」まだお若い女王陛下は憂いをこめられた瞳で窓の方に視線を移しなされ「もし、そうなればそれは国家間の問題にも発展しかねません。中央国の旅人が我が東南国の、それもわざわざ身の危険が保障されているダンジョンなんかでもしものことがあったら、それはすぐに国際問題になります」
王宮の間には、重力を帯びた沈黙が漂っていた。女王陛下は予め、中央皇国からの要請状を受け取っておられたが、明確な了承の返事を今日まで出されずにおられたのである。
「政治の問題もありますが、何よりも、私が懸念するのは、
貴方達の命のことです」女王陛下の御目には、我が子を愛おしむ聖母のごとき慈愛の影がさしている「貴方方はこの大陸、この世界で、最も魔術研究の盛んな国家の中枢にいる、選びに選び抜かれた貴重な存在です。大いなる未来と期待が、貴方達の行く末には控えているのです。魔術を志す者たちだけには限らない、たくさんの人々の希望でもあるのです。そんな貴方方が、もし凶悪な異生物の毒牙にかかって命を落とすようなことになったとしたら…それは大変な損失となります。だから私は兼ねてから、貴方達のようなまだお若い人たちを…」
「失礼ですが」
ところが、女王陛下のお言葉がまだ終わらぬうちにマナが口を挟んだ。
「お言葉ですが、女王陛下。我々はただの一人も護衛の兵をつけることなく、その異生物達が徘徊する野山を越え国境を渡ってきました。陛下が我々がまだ若いと思われて、その力を見誤っているのだとすれば、それは少々遺憾でもあります。我々魔術アカデミーの生徒は、既に野山の異生物達を撃退するには充分な魔術の力を備えております」
国の権力者を前にして一歩も引かないどころか、尊厳を傷つけられたと悟って、途端に感情的になってしまったマナ。その大きな瞳には、決して引き下がらないぞという強い、無垢な頑固さにも似た意志が宿っていた。

「おい、マナ、やめるんだ」と後ろに控えていた、最年長のジンベという魔術師学生が小声で叱咤した。
「陛下に向かって失礼だぞ」と別の仲間も。
普段から感情的になりやすいこのお転婆少女をなんとかなだめようとする。
だが、女王陛下は突然お顔を崩して、高貴な笑い声を発せられた。
「おほほほほ。そうですか、マナさん。分かりました。私はあなたが気に入りましたよ」と上機嫌で「それだけ威勢と自信があれば、何も問題は無いと受け取っても構わないのですね。いやはや、少しでも貴方達を過小評価してしまったことを許してくださいね」
拍子抜けしたのはマナの方だ。俄かに緑色の按配が増してきていたその髪も、なんだか中途半端に治まりつつある。
「兵士長。この者達を暗黒の地下道へ立ち入らせることを正式に許可いたします。後はあなたの方から説明をしてやりなさい」と陛下は側に控えた重々しい鎧に身を固めた剛健な男に指示をなされた。
「あ、ありがとうございます。女王陛下。このご恩は決して疎かには致しません」と再びマナはかしこまって頭を垂れ「必ずや全員の無事帰還を約束いたします。陛下の名誉にかけて、最深部にある水晶の光を手に入れてきます」
暗黒の地下道の最深部。『すべてがはじまった地』と伝承されることもある、その秘境の奥に、人知れず光を放ち続ける不思議な水晶がある。その光に照らされると、特殊な紋様が採取できる。決して人工では似せることの出来ないその証を以って、ダンジョンに挑んだ超人たちは試練の達成の証明としているのである。
その光こそが試練の合格証明であった。
「ふふふふ、期待していますよ、マナさん。でも」と陛下は玉座からお立ち上がりになり「私からも、一つ条件を出ささせていただきます」
「?」女王陛下の発言に、魔術学生一団はきょとんとして、顔を見合わせる。よく見れば、先ほどの重苦しい顔をした兵士長も僅かに不安げな表情になっている。
お若い頃は散々、突飛なお振る舞いをなされては、周囲の者達を困らせていたこともある女王陛下は、昔日のご自身の姿の片鱗を垣間見た少女マナに向って、少しの厳しい声で、仰られた。
「マナさん。
もし、不幸な結果になったとしても、我が国としては、その結果に対してなんらの責任も負いませんこと、先の文言にもありましたとおり、そこのところだけは覚えておいてくださいね。もちろん、マナさん達なら、そんなことにはならないのですね?」
「はい。陛下。我々は断じてそのような無残な成果を残すつもりはありません。ご心配なく」
こうして、マナは王宮での役目を果たした。



その日、タイジは朝早くに王宮へ出掛けたマナが、出来ればそのまま帰ってこなければいいとさえ思っていた。また、僕のことを馬鹿にして…やっぱり会いたくなんかなかった。
だが、そう思う反面、想いを寄せるマナがいるという一種の、彼にとっての緊急事態に心は揺らぎ、どうにも落ち着かない気分になっていた。
昼食の時間が過ぎると、昨日と同じように全室の掃除が待っていた。もちろん、掃除を行う部屋の中にマナが宿泊している留守中の部屋も含まれていた。
「あいつ…」
何部屋もまわった後、タイジはしぶしぶマナの部屋に入り、空になったおびただしい数のワインボトルが転がっている様を見て「ほんと、なんも変わってないんだから。遊び人め!」とこぼしながらも、他の客室でそうするように、アルコールの染みた床をモップで拭き、カーテンを整え、そしてドギマギしながらシーツを取り替えた。ベッド周りに散乱していた見事な緑色を湛えた翡翠の如き髪の毛を目にして、早くこの場から立ち去ってしまおうと、傍から見たら熱心とも云えるような珍しくテキパキとした機敏さで作業を続けた。
「カバンも無雑作にこんなところに放り投げて」と、マナの開きっぱなしの旅行カバンを閉めようとする。
すると、そこに木枠に納まった一枚の小さな肖像画があるのに気が付いた。
「ん?なんだこれ…」
それは壮年の男性の絵だった。どうせ男好きのマナの情夫か誰かだろうと思ったが、緑色の髪をした凛々しいその顔立ちから、それがマナの父親であることが窺われた。首の下の位置に小さな文字で「最愛のパパ」と書かれていることからも、その人物がマナの父親であることに疑いの余地はなかった。更にその文字の下には生没年らしき年号も刻まれていた。マナの父親が死んだ年は、マナがこの国から姿をくらました年と一致していた。つまり去年。
「あーー!ヘンターイ!」
タイジは素早く振り返った。
「ちょっとぉ、いくらボクのことが好きだからって、そういうのは無しにしてくれるぅ?」
「いや、違うって!マナ、僕はただ掃除…」
タイジは完全に泡を食っていた。まさかもう帰ってくるとは思ってもいなかったし、こんな気まずいところを見られるとは!
「ちょっとぉ、タイジったら、ボクが好きだからってパンツとか持ってかないでくれるぅ?ボク、そういうムッツリな男は嫌いだよ?」とマナはわざと大声を上げ、怒っているようにも、からかっているようにも見える形相でタイジに近づいてくる。
「欲しかったらローン組んで売ってあげるからさ!勝手にお気に入りの持ってかれたりしちゃ困るんだよねー」
「ば、ばかやろ!お前のしししし下着なんか、ちちちっとも欲しくな」
タイジはすっかりパニックになってしまっている。
マナはそんなタイジに構わず、旅行カバンを閉めて「どうせやるなら堂々とやって欲しいよね。あんたがホントに下着ドロボーだったらさすがに絶交だよ」と冷たく言った。
「だから違うって!大体、お前のことが好きだなんて、いつ誰が言った!?」
「で、黒いやつとスケスケのと、どっち持ってったの?」とマナは悪戯猫の笑顔でタイジを諭した。
「ふざけるな!」とタイジもモップを床にダンッ!と打ち付けて自分を落ち着かせた。「ずいぶん早かったんだな」
「うん。女王様との謁見が思ったより早く終わって…。それで昼食をご馳走になったんだけど、ボク、急に昨日の二日酔いが襲ってきちゃって。他の皆はゆっくり城下で買い物とかしてくとか言ってたから、ボクだけ先に帰ってきたんだ」
「そ、そうなのか」
そうなのか。
あんなに呑むからだ、バカ。
「王宮のコックさんの中にセイジさんいないかなー、て聞いたんだけど、知ってた?今は王宮にもいないんだって!それでガックリ来て、疲れてたし、抜け出してきたんだ」
「ふーん」またあの兄貴の話か。「僕もセイジ兄さんにはずいぶん長いこと会ってないけど、そっか、王宮ではもう働いてないんだ。でもきっと兄さん、マナのことなんか忘れてるぜ」
「そんなことないやーい!だあって、ボクたちお互いに初めて同士だったんだよ?タイジはまだ子供で、知らないからわかんないだろうけど、人間、初めての相手は死ぬまで一生忘れられないものなんだよ?ああ、ボクのファーストラヴ、セイジさーん」
「あっそ」
そんな話など聞きたくはなかった。
「ねぇ」とマナは改まってタイジを上目遣いで見上げ「今なら誰もいないよ?チャンスじゃない?」
タイジはその猫撫で声を聞いて再び心拍数を飛躍させ「な、なにがだよ?」
「もう、ほんと、だらしない男だね、タイジって」とマナはゆっくりとタイジに迫り「お兄さんとは大違いの弟だね」と、タイジの服を手で掴んだ。
「わ!バカ、マナ、やめろって」
タイジは逆らえない。
それどころか、為されるがままになってしまっている。
マナはタイジの着ているものを一気に脱がせてしまった!
「わー。やっぱり。おっきいい」
マナはタイジの服の下に潜んでいたそれをつぶさに観察した。
「すごい…思ったとおりだ。こんなにはっきりと大きいなんて…」
マナはタイジの大きいそれを小さな妖精のような手でゆっくりと撫で回した。タイジは素肌を触られてすっかり仰天してしまっている。
「あ、ちょっとあったかくなってきた」
マナが見たのは、タイジの脇腹に出来た不可思議な紫色のアザだった。シャツを無理矢理捲し上げられたタイジは、これからどうなることかと目をつぶってしまっていたが、マナが自分のアザを見ているのに気が付くと、そっちの方が良かったのか期待外れだったのか、自分でも分からず「こ、これ、なんだか分かるの?」と上ずっ た声で尋ねた。
「さて、なんでしょうね」と言うとマナは手を放し、タイジのシャツを下ろしてピシャンと脇腹を叩いた。
ピシャン!
「いて!」
「うふふ。そんなに簡単にボクとできると思ったら大間違いだからね。タイジちゃん。さ、サボってないで仕事しちゃいな」
すっかり玩具にされてしまったタイジは「くそぅ」と、情けない声を出してマナの部屋を後にするしかなかった。

タイジがよろよろと出て行った後、マナはベッドに大の字になって天井を見上げ、しかし幾らか真剣な表情で「あいつ、どうやって超人になったんだろ?」と一人ごちた。
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