オリジナルの中世ファンタジー小説
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
マナが扉を開けるより先に、扉の方が先に開いた。
「驚いたぞ、マナ君」仙人さながらの老人が魔除けのお面のような仏頂面で出迎えた。
「お」マナ、たじろいで「おどろいたのは、こっちですよ、学長~」
「ふわっはははは!!」
突然、学長は笑い出す。
部族の伝統衣装のようなヒラヒラした服に枯れ木のような身を包み、髪はとうに禿げ上がって、高らかに笑うその様は百年か二百年ぐらいは齢を重ねていそうなお歳に見えたが「おかえり!マナ!」と思うと、次の拍子には若々しい男の声でマナを労わった。
「がっくちょーう!」
マナは学長に抱きついた。
なんてこった、こいつは男とあらば爺さんでも構わないのか、とまたタイジは歪んだ目で物事を見てしまう。
「おーよしよし。お前の元気な顔がまた見れて、私ゃ嬉しいわい。おまけに新しいボーイフレンドまで連れてきての」
「あ、いや、僕は、あの、その」
「しかし、マナ君。せっかくだが、私はお前さんが無事に帰ってきたことをこうして知りはしたが、まだちゃんと試験をパスしてきたのかどうか、その点を教えてもらってはいないのだぞ?」
「あ、それなら」マナはすぐに小物入れを漁って「じゃーん」あの暗黒の地下道で模様をつけた羊皮紙を取り出した。「学長。マナ・アンデンはここに試験を無事果たしてきたことを証明します」
「ふむふむ」学長は皺くちゃの手でマナから紙を受け取る。「ふぉー、こりゃ間違いないね。でかした、娘!こりゃ確かに、あの洞窟の謎の水晶でしか採取できない彩、そは疑いなきかな」老人は妙にハイテンション。「ヤッタネ!マナ君!わーいわーい」両手を上げて我が事のように狂喜する学長。
「だけど、学長…非常に言い辛いんですが」
マナは表情を硬くした。
学長は幼児のようなポーズのまま停止して「ん?どうしたんだ?」
「ボク以外の皆は…その…果たせずに、死んじゃったんです」
「な!なにぃぃぃぃぃぃぃぃィィィィ!!」
学長の驚きの声は危うくタイジの鼓膜を破壊するところだった。
「ホントに!ごめんなさい!学長!ボクがダメダメなばっかりに!皆は…命を…」
「そんな…ま、まさか」
無理もない。
魔術大学の学長は驚愕の事実に身を震わせている。
「これが…」マナは革袋から指輪やペンダントを取り出し「遺留品です。七人分はないけど…これで全部です」マナは唇を噛み締めながらそれらを差し出す。超人の死は肉体の消滅。故に遺骨は残らない。
「これは…キクチョーのしとった婚約指輪。こっちはキュウゾの家紋…」
「はい…皆、消えてなくなってしまいました…」
「ヴォオオオオォォォォォォォォ」タイジは最初、何が起こったのか分からなかった。「ああああぁんんまりぃぃだぁあぁぁあ」見ると、先程まで万歳をしていた学長が声を大にしてむせび泣いていた!
「がくちょーーーーーぅええええええん」呼応するようにマナも泣き声を上げる。
「びゃああぁぁぁぁあああああ」学長は滝のような涙を流して泣き叫ぶ。
「わわわぁぁぁぁああんんん」マナも髪の色を真緑にして泣き叫ぶ。
悲しいのは分かる。
人が、仲間が、学生が七人も亡くなったんだ。
だが、この異様な光景はなんだ?老年の爺さんが若い少女と共に号泣している。タイジはただそれを呆然と眺めていた。
しかも、それはかなり長かった。
ようやく悲しみの怒涛が収まると「マナくん、辛くとも、仲間の為にも君は立派な魔術師になるんだぞ。それがせめてもの…」
「うん、ボクがんばる」マナは充血した目元をごしごしやりながら答えた。
「そうだな、君なら大丈夫だ。誰よりも若く誰よりも早く卒業試験の資格を得、誰よりも強大な力を持つ君なら…実際、私から君に教えることなんてもう残ってないんだよ。あとは、私しか知らない秘密の魔術を伝授するという隠れ講義のスペシャルコースもあるが、それはちと骨が折れるしの」
その時「あ」久しく蚊帳の外だったタイジは唐突に思いついて二人の会話に割って入った。「学長。僕はこのマナと一緒に暗黒の地下道で異生物と戦ったのです。それで、僕はもともと戦闘の経験があったわけじゃないんですが、どうも洞窟内にはケタ違いの怪物がいて…そいつは本当に手強かったんです。だけど、マナが、もしかしたらその怪物は殺された仲間たちの変わり果てた姿かも知れない、って言ったんです。僕はその時は理解できなかったんですが、そんなこと、有り得るんですか?」
「君、名前は?」呼びかけられた学長はタイジの質問を質問で返した。
「あ、タイジです。東南国城下町出身の…」
「タイジ君。君の言っていることはいまいち私には理解できない。まず、一つずつ整理していこう。卒業試験の現場となった暗黒の地下道に、それまでとはケタ違いの異生物がいた、と。そしてもしかしてそいつがマナ君以外の七人を殺したのかも知れない、と?」
「い、いえ、そうは言っていません。七人を葬ったのは分かりません。ただ、その化け物には七つの顔があって、その顔はもしかしたら、やられた学生七人だったんじゃないかって…」
「では、君は出くわした異生物が、自分の失った仲間の数と同じ数の顔を持っていたら、それはきっと死んだ戦友の生まれ変わりか怨霊か何かだと決め付けるのかね?」
「いえ」やけに刺々しい教師らしい物言いにタイジは少し臆した。「そんなつもりはないです」
「そうだろ?マナ君も気が昂ぶっていた。この子は感情的になり過ぎるきらいがある。もしかしたら、つらい戦況の最中に幻影を見てしまったのかもしれない」
「だけど、学長。ボクも確かに確信は持てないけど、今考えてもあれはやっぱりみんなだった気がするんです」マナも負けじと訴えた。
「仮に、もしそうだとしたら、超人が異生物に生まれ変わったということになる。そんな話は聞いたことがない」学長は断定的に言葉を告げる。「私はこれでも長いこと生きて、色んな奇々怪々な現象にも出くわしてきたが、いまだかつて人間が野蛮な異生物に転生したなんて事例には出会っていない。超人も異生物も、命果てるときには跡形もなく消え去ってしまうからの。自然現象として、そんなことは決して起こり得ない」
「じゃ、じゃあ、誰かがそれをやったとか?誰かが無理矢理マナの仲間をあの異生物にしてしまったとか?」
タイジは胸の中で長い間しまいこんでいた言葉を発した。
「君、バカなこと言っちゃいけないよ。誰が楽しくって、魔術大学の学生を気色悪い異生物になんか変身させちゃうんだね。まさか、東南国の特殊機関とか秘密部隊がそんなことをしたと?それは有り得んね。あの国は豊かでも、軍事や魔術のレヴェルでは我が国には遠く及ばない。平和ボケしてるからな」実際はそうではないのだが「ましてや超人や異生物に関しての知識、理解度には国家資格を有した博士と小等科のガキんちょぐらいの大きな差がある。そんなハイレヴェルなことは、かの国には出来っこないのだよ」
「じゃ、じゃあ…」
タイジは次にこう言おうとしていた。東南国国家による陰謀などではないのだとしたら、それをやったのは他でもない魔術大学の人間ではないのか、と。
だがマナが「そ、そういえば!」話題を変えようと「学長、さっきの話にもちょっと出てきたけど、このボクの幼馴染君のタイジはぁ、全く見たことも聞いたこともない新魔術を編み出しちゃったんですよ!しかも二つも!」
「何?それは本当かね?」学長もその新しい話題に興味を抱く。
「そうそう。このタイジっちは、なんと、雷を落とす魔術を使えるんだよね!人呼んでパープルヘイズ!そして続けざまに編み出したのは、白い光で傷ついた心を…じゃなくて、傷ついた体を癒すホワイトライト!この二大新魔術に何度救われたことか。ね、タイジ!」
実際タイジは旅の道中で、そこまで進んでそれらを使おうとはしなかったのだが。
「え、ええ、まあ。名付けたのはマナですけど」
パープルヘイズという名称はマナがタイジの詠唱から聞き取って名付けた。
リュートを歯で噛み千切って火を放って燃やしてしまうようなドスの利いたネーミングだ。
一方ホワイトライトは、なんだか幻惑の草でもやってしまったかのような白い恍惚感。
「雷を…落とす?傷を癒す?」魔術大学学長は途端に真剣な顔をして「雷とは、あのヒドイ雨の日に空でゴロゴロ言い出す、あやつのことか?落雷には火災がつきもの…それはレッドホットの亜種か…或いは、そう、天候を操る…風…いや、気象技術の上位種と考えるべきか…イエローマジック、つまり風の系統との関連性は見られえるか、否か?」
「んんん、違うの!きっと多分、新しい魔術だと思う。確かに、パープルヘイズくらった相手は、焦げてブスブスなるけど、閃光の光具合とか、火炎ってよりは紫色だし、なんかビリビリ、ピリピリ、弾ける独特の感じ」
「ふむふむ。そは正しくイカズチなり。田畑に豊作をもたらす恵みの暗示とも、太陽の怒りの鉄槌とも諷されるあの恐るべき光であるわけか。そして、白い回復呪文…実はそちらの方は以前からそれとなく存在が噂されていたのだが、なんとも実体が掴めずにいたのだ。こうなると、やはり四大元素論の崩御となるかもしれんな」学長はしばし右手を顎にあてて考え込む仕草をし「なるほど。だが、実際この目で見てみぬ限りはなんともかんともだ。タイジ君、時間はあるかね?今日、陽が暮れてから、マナ君と一緒に第一訓練場に来てくれないか?」
「第一訓練場?」
「ってことは、試射するってことですね?」
「そうだ。私はこれから片付けねばならない仕事があるから、君の書類もそうだし、少々時間を頂きたい。その代わり、手続きのほうは万時整えておくから」と、学長は二人に部屋を退室するように促がした。「楽しみにしているよ」
「はい。じゃあ失礼します」
「あ、失礼します」
タイジもマナに袖を掴まれて学長室を出た。
「どういうことになったわけ?マナ」周囲の人間が次々に段取りを決めてしまうことに戸惑うタイジ。
「まあ、端的に言えば、夕方から、タイジの新魔術のお披露目をするってこと」
タイジはマナの後について廊下を歩きながら「お披露目?」
「そう!」マナは眩しい笑顔を向けた。「魔術のことならなぁんでも知っているあの学長ですら、タイジのパープルヘイズにはビックリしてたみたい。だから、実際にあれを唱えてくれっ!て、ことなの!やったじゃん、タイジ。もしかしたら魔術研究の新しい道が開けるかもしれないよ?」
タイジは転じて暗い顔をした。
自分だって、自覚もなしに使ってしまった魔術だ。そんなあやふやなものに、何の価値があるんだろう。魔術の新しい道だなんて、知ったことか。
「どうしたの、タイジ?」マナはそのあどけない落ち込み顔を覗き込み「まさか、緊張して使えないとか、ないよね?パープルヘイズやホワイトライトはタイジにしか使えない専売特許だもんね。魔術機関の人たちに教えちゃうの、もったいないかも、とか?」
「そんなんじゃないよ」タイジは苛々して言った。「たださ、僕だってあの魔術を使いこなしている自信なんて、無いし。そんなんで良いのかって、いつも納得いかないし」
「タイジ…」そうだ、子猫の愛らしさを思わせる極上の笑顔に、僕は逆らえない。「このことはね、きっと未来に繋がることだと思うんだ。確信なんて無いけど、でもきっと、タイジの魔術が未来になると思うんだよ。だから、もっと自信を持ってよね。きっと、タイジは未来になると思うんだからね!」
「驚いたぞ、マナ君」仙人さながらの老人が魔除けのお面のような仏頂面で出迎えた。
「お」マナ、たじろいで「おどろいたのは、こっちですよ、学長~」
「ふわっはははは!!」
突然、学長は笑い出す。
部族の伝統衣装のようなヒラヒラした服に枯れ木のような身を包み、髪はとうに禿げ上がって、高らかに笑うその様は百年か二百年ぐらいは齢を重ねていそうなお歳に見えたが「おかえり!マナ!」と思うと、次の拍子には若々しい男の声でマナを労わった。
「がっくちょーう!」
マナは学長に抱きついた。
なんてこった、こいつは男とあらば爺さんでも構わないのか、とまたタイジは歪んだ目で物事を見てしまう。
「おーよしよし。お前の元気な顔がまた見れて、私ゃ嬉しいわい。おまけに新しいボーイフレンドまで連れてきての」
「あ、いや、僕は、あの、その」
「しかし、マナ君。せっかくだが、私はお前さんが無事に帰ってきたことをこうして知りはしたが、まだちゃんと試験をパスしてきたのかどうか、その点を教えてもらってはいないのだぞ?」
「あ、それなら」マナはすぐに小物入れを漁って「じゃーん」あの暗黒の地下道で模様をつけた羊皮紙を取り出した。「学長。マナ・アンデンはここに試験を無事果たしてきたことを証明します」
「ふむふむ」学長は皺くちゃの手でマナから紙を受け取る。「ふぉー、こりゃ間違いないね。でかした、娘!こりゃ確かに、あの洞窟の謎の水晶でしか採取できない彩、そは疑いなきかな」老人は妙にハイテンション。「ヤッタネ!マナ君!わーいわーい」両手を上げて我が事のように狂喜する学長。
「だけど、学長…非常に言い辛いんですが」
マナは表情を硬くした。
学長は幼児のようなポーズのまま停止して「ん?どうしたんだ?」
「ボク以外の皆は…その…果たせずに、死んじゃったんです」
「な!なにぃぃぃぃぃぃぃぃィィィィ!!」
学長の驚きの声は危うくタイジの鼓膜を破壊するところだった。
「ホントに!ごめんなさい!学長!ボクがダメダメなばっかりに!皆は…命を…」
「そんな…ま、まさか」
無理もない。
魔術大学の学長は驚愕の事実に身を震わせている。
「これが…」マナは革袋から指輪やペンダントを取り出し「遺留品です。七人分はないけど…これで全部です」マナは唇を噛み締めながらそれらを差し出す。超人の死は肉体の消滅。故に遺骨は残らない。
「これは…キクチョーのしとった婚約指輪。こっちはキュウゾの家紋…」
「はい…皆、消えてなくなってしまいました…」
「ヴォオオオオォォォォォォォォ」タイジは最初、何が起こったのか分からなかった。「ああああぁんんまりぃぃだぁあぁぁあ」見ると、先程まで万歳をしていた学長が声を大にしてむせび泣いていた!
「がくちょーーーーーぅええええええん」呼応するようにマナも泣き声を上げる。
「びゃああぁぁぁぁあああああ」学長は滝のような涙を流して泣き叫ぶ。
「わわわぁぁぁぁああんんん」マナも髪の色を真緑にして泣き叫ぶ。
悲しいのは分かる。
人が、仲間が、学生が七人も亡くなったんだ。
だが、この異様な光景はなんだ?老年の爺さんが若い少女と共に号泣している。タイジはただそれを呆然と眺めていた。
しかも、それはかなり長かった。
ようやく悲しみの怒涛が収まると「マナくん、辛くとも、仲間の為にも君は立派な魔術師になるんだぞ。それがせめてもの…」
「うん、ボクがんばる」マナは充血した目元をごしごしやりながら答えた。
「そうだな、君なら大丈夫だ。誰よりも若く誰よりも早く卒業試験の資格を得、誰よりも強大な力を持つ君なら…実際、私から君に教えることなんてもう残ってないんだよ。あとは、私しか知らない秘密の魔術を伝授するという隠れ講義のスペシャルコースもあるが、それはちと骨が折れるしの」
その時「あ」久しく蚊帳の外だったタイジは唐突に思いついて二人の会話に割って入った。「学長。僕はこのマナと一緒に暗黒の地下道で異生物と戦ったのです。それで、僕はもともと戦闘の経験があったわけじゃないんですが、どうも洞窟内にはケタ違いの怪物がいて…そいつは本当に手強かったんです。だけど、マナが、もしかしたらその怪物は殺された仲間たちの変わり果てた姿かも知れない、って言ったんです。僕はその時は理解できなかったんですが、そんなこと、有り得るんですか?」
「君、名前は?」呼びかけられた学長はタイジの質問を質問で返した。
「あ、タイジです。東南国城下町出身の…」
「タイジ君。君の言っていることはいまいち私には理解できない。まず、一つずつ整理していこう。卒業試験の現場となった暗黒の地下道に、それまでとはケタ違いの異生物がいた、と。そしてもしかしてそいつがマナ君以外の七人を殺したのかも知れない、と?」
「い、いえ、そうは言っていません。七人を葬ったのは分かりません。ただ、その化け物には七つの顔があって、その顔はもしかしたら、やられた学生七人だったんじゃないかって…」
「では、君は出くわした異生物が、自分の失った仲間の数と同じ数の顔を持っていたら、それはきっと死んだ戦友の生まれ変わりか怨霊か何かだと決め付けるのかね?」
「いえ」やけに刺々しい教師らしい物言いにタイジは少し臆した。「そんなつもりはないです」
「そうだろ?マナ君も気が昂ぶっていた。この子は感情的になり過ぎるきらいがある。もしかしたら、つらい戦況の最中に幻影を見てしまったのかもしれない」
「だけど、学長。ボクも確かに確信は持てないけど、今考えてもあれはやっぱりみんなだった気がするんです」マナも負けじと訴えた。
「仮に、もしそうだとしたら、超人が異生物に生まれ変わったということになる。そんな話は聞いたことがない」学長は断定的に言葉を告げる。「私はこれでも長いこと生きて、色んな奇々怪々な現象にも出くわしてきたが、いまだかつて人間が野蛮な異生物に転生したなんて事例には出会っていない。超人も異生物も、命果てるときには跡形もなく消え去ってしまうからの。自然現象として、そんなことは決して起こり得ない」
「じゃ、じゃあ、誰かがそれをやったとか?誰かが無理矢理マナの仲間をあの異生物にしてしまったとか?」
タイジは胸の中で長い間しまいこんでいた言葉を発した。
「君、バカなこと言っちゃいけないよ。誰が楽しくって、魔術大学の学生を気色悪い異生物になんか変身させちゃうんだね。まさか、東南国の特殊機関とか秘密部隊がそんなことをしたと?それは有り得んね。あの国は豊かでも、軍事や魔術のレヴェルでは我が国には遠く及ばない。平和ボケしてるからな」実際はそうではないのだが「ましてや超人や異生物に関しての知識、理解度には国家資格を有した博士と小等科のガキんちょぐらいの大きな差がある。そんなハイレヴェルなことは、かの国には出来っこないのだよ」
「じゃ、じゃあ…」
タイジは次にこう言おうとしていた。東南国国家による陰謀などではないのだとしたら、それをやったのは他でもない魔術大学の人間ではないのか、と。
だがマナが「そ、そういえば!」話題を変えようと「学長、さっきの話にもちょっと出てきたけど、このボクの幼馴染君のタイジはぁ、全く見たことも聞いたこともない新魔術を編み出しちゃったんですよ!しかも二つも!」
「何?それは本当かね?」学長もその新しい話題に興味を抱く。
「そうそう。このタイジっちは、なんと、雷を落とす魔術を使えるんだよね!人呼んでパープルヘイズ!そして続けざまに編み出したのは、白い光で傷ついた心を…じゃなくて、傷ついた体を癒すホワイトライト!この二大新魔術に何度救われたことか。ね、タイジ!」
実際タイジは旅の道中で、そこまで進んでそれらを使おうとはしなかったのだが。
「え、ええ、まあ。名付けたのはマナですけど」
パープルヘイズという名称はマナがタイジの詠唱から聞き取って名付けた。
リュートを歯で噛み千切って火を放って燃やしてしまうようなドスの利いたネーミングだ。
一方ホワイトライトは、なんだか幻惑の草でもやってしまったかのような白い恍惚感。
「雷を…落とす?傷を癒す?」魔術大学学長は途端に真剣な顔をして「雷とは、あのヒドイ雨の日に空でゴロゴロ言い出す、あやつのことか?落雷には火災がつきもの…それはレッドホットの亜種か…或いは、そう、天候を操る…風…いや、気象技術の上位種と考えるべきか…イエローマジック、つまり風の系統との関連性は見られえるか、否か?」
「んんん、違うの!きっと多分、新しい魔術だと思う。確かに、パープルヘイズくらった相手は、焦げてブスブスなるけど、閃光の光具合とか、火炎ってよりは紫色だし、なんかビリビリ、ピリピリ、弾ける独特の感じ」
「ふむふむ。そは正しくイカズチなり。田畑に豊作をもたらす恵みの暗示とも、太陽の怒りの鉄槌とも諷されるあの恐るべき光であるわけか。そして、白い回復呪文…実はそちらの方は以前からそれとなく存在が噂されていたのだが、なんとも実体が掴めずにいたのだ。こうなると、やはり四大元素論の崩御となるかもしれんな」学長はしばし右手を顎にあてて考え込む仕草をし「なるほど。だが、実際この目で見てみぬ限りはなんともかんともだ。タイジ君、時間はあるかね?今日、陽が暮れてから、マナ君と一緒に第一訓練場に来てくれないか?」
「第一訓練場?」
「ってことは、試射するってことですね?」
「そうだ。私はこれから片付けねばならない仕事があるから、君の書類もそうだし、少々時間を頂きたい。その代わり、手続きのほうは万時整えておくから」と、学長は二人に部屋を退室するように促がした。「楽しみにしているよ」
「はい。じゃあ失礼します」
「あ、失礼します」
タイジもマナに袖を掴まれて学長室を出た。
「どういうことになったわけ?マナ」周囲の人間が次々に段取りを決めてしまうことに戸惑うタイジ。
「まあ、端的に言えば、夕方から、タイジの新魔術のお披露目をするってこと」
タイジはマナの後について廊下を歩きながら「お披露目?」
「そう!」マナは眩しい笑顔を向けた。「魔術のことならなぁんでも知っているあの学長ですら、タイジのパープルヘイズにはビックリしてたみたい。だから、実際にあれを唱えてくれっ!て、ことなの!やったじゃん、タイジ。もしかしたら魔術研究の新しい道が開けるかもしれないよ?」
タイジは転じて暗い顔をした。
自分だって、自覚もなしに使ってしまった魔術だ。そんなあやふやなものに、何の価値があるんだろう。魔術の新しい道だなんて、知ったことか。
「どうしたの、タイジ?」マナはそのあどけない落ち込み顔を覗き込み「まさか、緊張して使えないとか、ないよね?パープルヘイズやホワイトライトはタイジにしか使えない専売特許だもんね。魔術機関の人たちに教えちゃうの、もったいないかも、とか?」
「そんなんじゃないよ」タイジは苛々して言った。「たださ、僕だってあの魔術を使いこなしている自信なんて、無いし。そんなんで良いのかって、いつも納得いかないし」
「タイジ…」そうだ、子猫の愛らしさを思わせる極上の笑顔に、僕は逆らえない。「このことはね、きっと未来に繋がることだと思うんだ。確信なんて無いけど、でもきっと、タイジの魔術が未来になると思うんだよ。だから、もっと自信を持ってよね。きっと、タイジは未来になると思うんだからね!」
PR
この記事にコメントする
最新話はこちらから!
(04/14)
(04/13)
(03/15)
(03/13)
(03/11)
(02/06)
(01/31)
(01/25)
(01/20)
(01/15)
(01/11)
(01/05)
(12/31)
(12/28)
(12/24)
(12/19)
(12/15)
(12/11)
(12/08)
(12/05)
最新コメント
Powered by