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オリジナルの中世ファンタジー小説
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タイジは突然の悲鳴がはじめ、どの方角から轟いてきたのか分からなかった。
それは今自分達が立ち話をしている廊下の先の曲がり角。よく見ると、何やら派手な格好をした小さな人物が一人、幽霊でも見たような顔をして動転しているのが伺えた。
なんだ、また、騒々しい、まったく…
タイジはこういう突然の展開が大嫌いだった。
物事は順序立てて、一つ一つ論理的に、秩序を以って運ばられるべきなのだ。例えば夜中に無理矢理叩き起こされて引っ張り出される非常事態なんて、どこかの誰かが望んだとしても、自分は真っ平御免なんだ。
「なんだぁ」
怪訝そうに、タイジは廊下の先を見つめた。
よくよく目を凝らすと、派手な姿のその人物は、女の子であるようだ。
と、思った瞬間、その派手な女の子は手にした書物や筆記具を床にバラバラと落として、一目散にこちらへ向って駆け出してきた!
「オー!ネー!!エー!!!サー!!!!マー!!!!!ンー!」
白、水色、黄に橙、その他鮮やかに、きらびやかに、華やかに、まるでこれから舞踏会にでも出席するかのような豪勢なドレスに身を包んだ、マナよりまた少し背の低い小柄な少女は、目に涙をたぷたぷと湛えながら、弓で射た矢の如き勢いで、マナに飛びついてきた。
ガヴァっとマナの胸にダイヴし「うええええぇええん!お姉さま!お姉さま!生きててよかったあああ!ふえええぇぇええんん」大泣きである。
それにしても派手な装いだ。
貴族の娘さんかな?
完全に状況が分からないまま、タイジは何事かと事態を傍観していた。
「アオイちゃん、アオイちゃん、よしよし、そんなに泣かないの」
マナもなんだか手馴れた風にその子をあやす。
よく見ると、そこまで歳は離れていないようだ。
「ふぇええぇえん、ええええん、えぐ、えぐ、お姉さまぁ、ホントに、えぐぐ、ほほほホントに、お姉さま?生きた、うぐ、生きてる、お姉さま?」
「おー、よしよし、この通り、ボクは生きて帰ってきたよ、アオイちゃん、そんなに泣かないの」
マナは優しく右手で、女の子の青紫色の髪を撫でてやる。
「ほんとに?」
「ほんとだよ」
「ホントに、ホントに、お姉さま?」
「ホントに、ホントに、アオイちゃんのボクだよ。アオイちゃんのマナちゃんだよ」マナも変な声色で言う。
「うわああああぁああん」
また、けたたましい泣き声が湧き起こる。
「よおおっぉおおかああったよおおおぉおお」頭を揺すぶりながら泣く。リボンが揺れ動く。
「おーおー、よしよし、だから泣かないの」
タイジは要領を得ないまま、この見知らぬ光景を眺めていた。
泣きじゃくる少女はまるでマナの娘のようだ。それはあたかも親と子の感動の再会のようだ。マナの子供…そういえばこいつはとっくに妊娠しててもおかしくない筈が、一体いつもどうやって、と考えたくもない余計な連想をしてしまい気分が少し暗くなった。
「えぐ、えぐ、あぁあん、お姉さまの、おむね、あったかい」
見ると、少女はマナのふくよかな谷間に顔をうずくまらせていた。その様子を目撃したタイジは、傍らで得も言われぬ感情に狂わされていた。見てはいけない。そして想像してもいけない。目の前にいるマナに対して、さっきから不謹慎な妄想ばかり働いてしまう。違うだろ!この子は、きっと、マナが無事に帰ってきたことに心底感激し、それで赤子のように我を忘れて天真爛漫にその喜びに身を没しているだけだ。清らかな愛情表現なんだ。マナの男癖の話がそれになんの関係がある?邪まな思考をするな、自分。だが、どうしても考えてしまう。こいつのことを。思うにそれは、今まで自分が知らなかったマナの側面に、立て続けに出会ったことに起因していた。自分の実の兄、セイジ兄さんとの悲恋から、一体何人の男とこの尻軽は関わったのだろう。考えたくもなかった。マナは僕の一番近いところにいて、そこからどこにも行かない。ましてや他の男になんて!だけど、願望と現実は丸っきりの正反対。マナはひょいひょいとあちらこちらに気移りをして、僕の元を離れていく。定着しようとしない。今だって、僕の知らない女の子を、ほら、抱きしめてキスでもしちゃいそうな親密さじゃないか。誰だよ、その女は?こんな学校の廊下でいきなり泣き叫んで、頭でもおかしいんじゃないの?おい、マナから離れろよ!
タイジが決して口には出来ない憤りに侵されていると、マナがさすがにタイジの存在を思い出したのか、野次馬よろしくこちらを見ている魔術大学の学生たちの視線を恥じてか「ほらほら、アオイちゃん。ボクはこの通り健康優良不良少女!さぁ、涙をふいて、ね。もう、泣かないの、めぇっ☆
「あぅ」
アオイと呼ばれたファンシーな少女は、真っ赤に充血した目をごしごしこすりながら、タイジがいつかはうずくまりたいと思っている渓谷から顔を放した。見ると、マナの服にぐっしょり水溜りが出来てしまっている。
「マナ……妹がいたの?」
心底暗い声でタイジは問うた。
「え?あ、い、妹じゃないんだけどね。オホン!」マナは濡れた胸元を困った顔でゴシゴシ拭った。「この子はアオイちゃんて言って、ボクの後輩の子なのよ。えと…」
 マナはそのアオイという女の子の方を見やる。
占いや夢物語が好きそうな女の子の部屋に飾ってある人形のような格好をした、それこそ占いや夢物語が好きそうなマナの後輩アオイは、潤んだ瞳をしながら、だがその目線をタイジには合わそうとしなかった。
伏目がちに、斜め下を向いている。
「ア、アオイちゃん。この子は…えと、ボクの……友、…仲間の…」
タイジはさりげなく、マナが自分を他人にどういう風に紹介するか、内心ドキドキして、黙ってその言葉の先を待ち受けていた。
「お姉さま、この人がお姉さまや先輩さんたちを、ヒドイ目に合わせたんですか?」
敵意のこもった発言。
「え?」
「アオイには分ります。このひしゃげたカエルみたいな人間の体からは、拭いようの無い邪気が…汚らわしい魔のオーラが溢れんばかりに溢れかえっています。人の世の闇に蔓延り、人心を惑わし悪業を行う精霊たちの中でも、特に人々に災いを投げ掛ける、忌むべき大悪霊の気配を、ビシバシ、アオイは感じています!お姉さま!危険です!早く、こんな蛙みたいな顔をした犯罪者から離れてください!」
初対面なのに、一方的かつ徹底的にディスられてしまったタイジは、ただただ唖然とするばかり。
「ちょちょちょちょ、違うって!このタイジは、そこまで悪い奴じゃないって!」そこまでって…
「タイジがボクを助けてくれたこともあるんだって!だから、命の恩人!お・ん・じ・ん!大切な冒険の仲間なの!」マナも大慌て。
「そうなんですか?」
アオイは尚も懐疑的だ
マナは素早くアオイの元を離れ、タイジの袖を引っ張って、内緒話をするようにこそこそと「ゴメンよ、アオイちゃんて、ちょっと男性不審ていうか、男の子に慣れてなくってさ。ずっと女社会で育ってきて、家もちょーう厳しい御家庭さんで…中流貴族なんだけど。でも、悪い子じゃないからね。ちょっと付き合い方が分かってないだけで、さっきのディスリだって、悪気があって言ったわけじゃないんでさ」早口に弁解をする。
「お姉さま」語気強く「アオイの占術は万能です!この見識眼は有能です!この眼は突き抜けるようになんでも見通します!」アオイは自身のサファイアの如き蒼天の瞳を強調し「その方は、とんでもない凶星にまみれています。凶星の嵐です!バッドスターストリーーーーム!さぁ、早くお離れを!お姉さま!」
どちらかといえば、言ってる本人の方が、悪いものにでも憑かれてしまったように錯乱気味であるが、マナはともかくも、この後輩を落ち着けるべきと「はいはい、アオイちゃん。ありがとうね、いつもボクの身の安全を心配してくれて…ここまでボクのことを気遣ってくれるのは、世界中にアオイちゃんぐらいのもんだよ、色んな意味で…とりあえず、ボクはタイジを学長のとこに連れて行かなきゃいけないから」
「ダメです!そんなの危険です!早く避難を!そしてそいつには非難訓練をガ・ム・シャン!ガ・ム・シャン!」
アオイは正義の粘着質のように、マナをタイジから引き離そうと訴える。
「う~~ん…」
マナはほとほと困った顔をした。
アオイは自分に心酔し、同性とはいえ、自分を深く愛していてくれているからこその、この発言なのである。それ故に邪険に扱えない。そもそもアオイの登場は、とある物語よりもずっと前から決まっていた、無知だったゆえに事故的類似という結果になったとかはどうでもよく、アオイの方が既出であり何らの影響も無かった故、後の人から類型的となじられようと、彼女は誕生の瞬間においてまったきオリジナルな存在であり、その出現は何度も繰り返すがこの時刻よりも数年前から決められていたものであり、然るに無視できない。そこで、事態を打開する為、マナはいつもの適当な話を、タイジには聞こえないように、こっそりと、アオイの小さく可愛らしい耳に吹き込んだ「いい、アオイちゃん。タイジはね、確かにアオイちゃんの言うとおり、とっても危険な人物なの。そりゃもう、世界の理がちんぷんかんぷんになっちゃうくらい…けど、あんまりに危険だから、これはもう学長じゃないと手に負えないの!だから、今はあいつを騙して、ボクがうまいこと、タイジを学長のとこに連れて行く途中だったんだよ。だからね、あいつの前で、ボクの作戦がバレそうになるようなことは言っちゃ駄目!まだ、多分気付かれてないはずだから…本人もね、自分がそんな悪い精霊にとりつかれているって自覚はまだないの。アオイちゃんの目は確かに鋭いよね、でも、まだ言っちゃ駄目!本人に気付かれないように連れて行くんだから!だから、アオイちゃんは、とりあえずこの場は退いて、ボクの秘密ミッションがうまく行くことをお祈りしていて!良い?誰にもこのことは言っちゃ駄目よ!こっそりと、あくまで秘密裏にことを運ばなくっちゃ駄目なのよ!」
マナは一気に口から出た至極適当な作り話を、刷り込むようにアオイの頭に浸透させていった。
もちろん、マナはなんの根拠もなしに、今述べた嘘を並べたのだ。そこに何が含まれていようと、彼女にとっては一時凌ぎの狂言以下の何物でもなかった。
「わ、わかりました」華やかなドレスに身を包んだ小柄な魔術師学生は「お姉さまの仰るとおりにします。アオイはこれから祈祷の部屋に赴き、お姉さまの作戦の無事を一心に祈らせていただきます!」
「む、無理しない程度にね」アオイが本気でそれを行ってしまうことを知っていたマナは、冷や汗を垂らしながら「ほどほどでいいからね」
「いえ、アオイはいつだって、お姉さまの身の無事を祈り続けているんです。また、お姉さまに災厄を降りかけようとする者には、強い呪いの言葉を、全身全霊もって行使するつもりです。思えば、この数ヶ月、お姉さまの卒業試練にアオイが参加できなかったこと、その過酷な旅に同行できなかったことを、どれだけ歯痒く、苦しく、心を切り刻まれるような想いで按じていたか…」アオイはまた涙ぐんで「アオイは呪いました。お姉さまにそんな無茶な試練を言い渡したこの魔術アカデミーを、そして無力な自分を…ですが、こうして、再びお会いし、変わらぬ元気な姿を拝見し、今はとても安らかな気分でいます。もっと、もっと、お姉さまと一緒の時間を過ごしていたい!これから毎日、お茶をしようぜ、なんてふざけて言ってみたい!お姉さまが卒業するまで、側にくっついて離れないから!」
白薔薇の姉妹の如き宣言をしたアオイを、マナは悪気のないようにほどよく「分った、わかったよ、アオイちゃんありがとう。ささ、あんまり目を離していると、危険な目標が何しだすかわかんないよ、ネネ、いいだろう?早くアオイちゃんは後方支援を!」
「はい、お姉さま!どうかご無事で!」すたたたたた。
アオイという、かなり病的な雰囲気のする、きらびやかなドレスの少女は、こうしてようやくマナとタイジの元を去っていった。
「はぁ……」
アオイが廊下を走り去っていくのを見送り、マナはようよう安堵の溜め息をついた。
別に鬱陶しいわけじゃない。
自分を愛してくれるものは、誰であれ歓迎し、その愛には相応の応えをする。けど、アオイちゃんはちょっと特殊だ。そこが彼女の魅力でもあるが…
「何の話をしてたんだ?」
「うゎ!」タイジに声を掛けられ、マナはヒヤッとなり「ななななんでもないよ。アオイちゃんを巻くのに、ちょっとタイジの悪口を言っただけだって!あ、そんな嫌そうな顔しないでよ。仕方なかったんだからさ。さぁさ、早く学長のとこに行こ!」

マナはタイジの手を引っ張って、アオイが消えた方とは反対の廊下をズンズン、歩き出した。
「ま、待て、わわ、マナったら……」タイジは引っ張られるのが嫌で、思わず手をふり解いてしまったが、そうした後でちょっと後悔をしながら「アオイ…て言ったっけ?あの子…」
「アオイちゃん?」マナはすたすたと先を急ぎながら「気になる?アオイ…えと、なんだっけな、フルネーム?確かアオイ・トーゲンだった気が……ホラ、前にタイジとアザのある子の話、したの覚えてるでしょ?」
「覚えてないし、気にもならない」
「あの子ね、領主では無いけど、そこそこ名門の貴族のうちの子で。けど、ご両親がこれまたスパルタンXな方らしくって、小さい頃から英才教育の温室育ち。お家の使用人はほとんどが女性。なんと執事も女執事!イエスユアハイネス!だから殿方にはほとんどお目にかかることなく生きてきて、学校教育は受けずに、ずっと家庭教師。もちろん教師は女性ね。そこからこの魔術アカデミーに来たんだけど、もう男の子ってものがホントに分からなくってさ」
「ふーん」いるんですね、そういう箱入り娘っていうの。
「考えられないよねー?周り見回しても女、女、女だらけの社会なんて!ボクもこっちの国に来てママに入れられた高等部の学校は女子校だったから、毎日窒息しそうだった!」
「そりゃ、お前はな」
「でもさ、アオイちゃんて、大切に育てられただけあって、なかなかかわゆいじゃん?」
「そうか?」
あんな針に糸を通すような繊細さは、気が滅入ってしまうだけだが。
ロリですよ、お兄さん!ロリータですよ!何が非実在青少年だよ!文化を狩る愚か者はいなくなればいい!だから寄ってたかってくる男子は結構いたわけ。特に入学当初は。でもね、アオイちゃんは、ホントに男の子に対して抵抗があるから、困っちゃったわけ。そこで何でも屋のボクが登場!あの子にまとわりつく、ちょっと質の良い美男子から順々にピックアップしていって、アオイちゃんを守ってあげたのよ」
「ん?なんだって?」
「おかげで、すんごい感謝されちゃってさ。『アオイの貞節を汚そうとする邪悪な悪霊の魔の手から、アオイを守ってくれてありがとうございます!マナ先輩はアオイにとっての聖なるお姉さまです。お姉さまって呼ばせていただきます』って、いつの間にかそうなっちゃったのよねー」
「あ、そう」
タイジは呆れて物が言えなかった。
こいつは、他人に近寄る男までをも吸収してしまうのか。確かに何でも屋だな。ってかお前こそ邪悪な悪霊だ!
「僕は興味湧かないな、ああいう子」
「でも、一応あの子も魔術師…つまり超人であるわけだから、あんまり怒らすと恐いかもよ。さっきもアオイちゃんを言いくるめる為に、タイジがホントは悪い奴で、ボクが今こっそり騙して学長のとこに連れてっているだって、ホラ吹き込んじゃったし…あ、この階段登るから」
そんなこと言ってたのか、お前……別にいいけど、僕には関係ないことだし。ってか、あんなか弱そうな女の子が戦ったりできんの?」とタイジは物々しい上り階段に息を切らしながら。
「さて、ここだわ」
階段を登ったところで、タイジの問いには答えず、マナは立ち止まった。
そこには一段と格調高い木目のドアが構えていた。
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