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オリジナルの中世ファンタジー小説
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ハコザ教授は報告を聞くと、俊足の馬を駆り、一足早く帰還した四人に背を向けたまま言った。「ほぅ…それで?」
大学に所属する賢者達の中でも、まだ若い方といえる血気盛んなハコザ氏は、今日も黒い髪を油で後ろにすき、額には金の環をはめ、黒い服に高価な香をしたためている。
「い…いえ、それだけです」王子に星の消滅を進言する部下のように、力無くライドンは答えた。
タイジらが皇都入りするよりも数十日前。
東南国国境沿いのはじめの旅籠で一行と別れて後、まっしぐらに中央国に舞い戻った四人の魔術学部第二魔術学科の学生達は、早急に事の顛末を自分らの指導者に告げにきた。
薄暗い部屋…そこはかつて自分達の仲間の一人だったグレンマーが命を落とした場所でもあった。
ハコザ教授の計画に反駁し、その修正を意見したばっかりに、奴は処分された。
この方が恐ろしい人物だということぐらい、俺たちだって分っている。だが、この人に従っていれば、いずれ絶大な魔術の力と身分を手にすることが出来る!ハコザ学派は最も急進的で力強い。俺たちはいずれハコザ教授と共に『伝説』となるんだ。人々の間で末永く讃えられ、崇められる存在に!その為には、あくまで指示通りに動くべし!
あの日…
貧しい位に生まれた俺たちは、戦後が招いた貧困地獄の中、学校にも通えず、貴族の屋敷に忍び込んでは盗みを働き、暗黒街の酒場で十四の頃からたむろして、悪事の限りを尽くしていた。
ある日、手っ取り早く名を上げる為、酒場に貼ってあった依頼書を見て、俺たちは依頼主にコンタクトを取った。
告知されていたのは、公にするにはちっとまずい、ブラックな仕事だったが、俺たちにはうってつけだった。
だが、その依頼は罠だった。俺らは見事にハメられ、元締めの男に始末されそうになった。今でも思い出すぜ、あいつの不気味な姿。細身の体躯に顔だけは判読の付かないよう、鋼鉄の覆面をつけていた。
俺らはクライアントのそいつに半殺しにされた。ところが、身を切り裂かれ、意識を失いかけた時、そいつは俺らに言った。『こんなところでくたばるのか?お前らの存在はその程度のものだったか?』俺たちは立ち上がった。敵の侮辱を受け、奮起した!
そして気が付いた時には、魔術師としての素質を開花させ、超人となっていた。
あの胸糞悪い仮面の野郎は逃がしちまったが、その後俺らの話を聞いて、魔術大学の、このハコザ教授が俺らをアカデミーに招き入れてくれた。
ただの貧民街のクソ悪党だった俺らが、あっという間に国家お墨付きの学園で一流の研究生さ。
だからハコザ様には、本当に感謝している。社会のゴミ以下だった俺達をここまで高めてくれたんだから…。
仲間内でもちょっとばかし頭の切れる方で、比較的優等生面していたグレンマーが、反抗をした為に処分されたのは仕方ないと思う。俺らはあくまでハコザ様の手先だ。命じられたら、昔みたいに危険な仕事だって平気でやってのける。
そうだ、ハコザ様に着いていけば、もっともっと、大きな存在になれる。ただの小悪党風情が、伝説の偉人になるのだ!
「それだけ……ってこと」
ライトグリーンの髪を鋭く尖らせた魔術師学生ライドンは、一瞬何が自分の脇を通り過ぎていったのか分らなかった。
「ハ……コ、ザ…様」
「ポルク!」仲間は既に、真っ赤な血飛沫を盛大にまき散らしながら、ゆっくりと崩れかかっていた。
「すぐに、立っていることをやめて欲しいんだよ、私は…」銀の残像が薄闇の中で乱舞する。「君たちみたいな、卑小な頭脳しかない無能者に、私の所有物であるこの部屋で、人間みたいな真似をしていることが…」
「うわあああ!」
味方が斬られたことにやっと気付き、仲間の一人が発狂気味に魔術の詠唱を始めようとする。
だが、金の輪を額にはめ、狡猾な顔つきをした指導者は、二人目の学生の首元に向って、真っ直ぐに、腰から抜いた細見の剣を突き刺した。
喉仏を貫通し、学生の首の後ろから先端を朱に染めた剣先が飛び出している。声帯は損壊。言葉は紡げない。
「くそがああああああ!!」
「やめろ!ヴィシャヴィシャス!ハコザ様に向って」
red hot chili peppers!!!!!
しかし、充分に間合いを取った後方から、魔術学生の放った炎の幻影は、確かにハコザ教授に直撃しつつも、何の変化も見られない
「賢さのブーストが足りなすぎる!色んな意味でッ!こんな火力じゃあ」詠唱を終え、効果が表れなかったとはいえ魔術を一発放ったことで僅かな硬直時間を迎えてしまった彼に対し「たとえ私が『魔術を無効化する装備』をしていなかったとしても」細見の剣、レイピアを右に左に素早く斬り返しながら「火遊びの火傷ほどもダメージを受けないよ!」学生の体を微塵切りにしていく「君は特に弱かったね!」真紅の噴水が部屋中に飛び散っていく。
ハコザ様に魔術は効かない!
その事実が瞬間、ライドンの脳裡をよぎった。
既に三人の仲間が血の海に沈んだ。
ハコザ教授はほぼ一撃で、教え子であり忠実な部下であった魔術学生達を屠ってしまった。
ハコザ様に着いていけば……いずれは……
「あっ!」
貧民街時代に養った闘争本能から、無意識のうちに腰に指したロッドを引き抜こうとした時、ハコザのレイピアが手の甲を押さえていた。
鋭敏な剣先が掌を貫通し、焼けるような痛みがジワジワと手首を、二の腕を、伝って込み上げてくる。
あの時と同じだ…俺たちは、裏切られて…
ジュシャ!ジュシャ!ジュシャサ!ジュグズサァ!
カラフルな短髪と奇抜な風体、好戦的な魔術師学生一団のリーダーとして、魔術大学内でも一目置かれていたライドンが、何の抵抗もなしにその身を串刺しにされていくのに任せたのは、最後まで恩師に捧げた忠誠心ゆえにか、それとも圧倒的超人水準の差ゆえにか。
視界全体が真っ赤に染まり、薄暗い部屋で体中から流血しながら倒れていく時、扉を開けて入ってきた男の影が、瞼の裏におぼろげに焼きついた。
「用意は整いましたか?ハコザ教授…」
あいつだ…
「恩を仇で返すとはこのことだ…所詮、貴様らも同じ、私の崇高な理念を理解できず、その域に達しえなかった不良品でしかない。人間じゃないんだよ、お前たちは…それ以下だ!ふふふ、くくく、しゃしゃしゃ」
返り血に身を紅く染め、未だ興奮気味に哄笑を続けている主に対し、扉の男は「失礼します」
「人間でもないのに!人間のフリをしていたなんて!なんと罪深いんだ!人間以下が、そんな真似事をしていたなんて!罪深いんだ!君たちは!!」横たわる血染めの学生達を見下しながら「故に!私はなんて徳高いんだ…人間のフリをしてた人間以下の存在を、こうして適切に葬ってやったんだから!ふふふ、くくく、しゃしゃしゃ」
「素晴しいです。素晴しいことです」惨状の間に入室した謎の男が賞賛の言葉を述べた。
「ああ、君だったか……いやはや」ハコザは雀の涙ほどの冷静さを取り戻し「いや、ごくろう。さあ、今こそ始めよう。私は複数のサンプルを使って精製するのを見るのは初めてだからな。君のスペア品の完成が間に合って良かった。この能無したちときたら、一人を逃したばかりか、オリジナルの回収すら怠ったんだからな」
鮮血の室内に、足音も立てずに入ってきた細身の男は、金色に輝く筒をゆっくりとかざした。
同時に、ハコザ教授は手にした短剣を倒れた学生の首元に当てた。
「幸せを感じような」
レイピアとは通常、相手を刺して攻撃する武具である。
刃部分は細く、大振りの剣に比べれば耐久性もさほどない。
だが、『突き』が基本戦術とはいえ、その刃でものを斬れないということはない。刀身は両刃性であり、殊にハコザ教授のような超人の手に掛かれば、意識を失った人間の首を斬り飛ばすぐらい、容易なことである。
すぽーーーーーーーーーーーーーーーん
「この音!たまらなく良いサウンドだ!」
今や、横たわって仮死状態となっていた魔術師学生達は、次々に頭部を切断されていく。
「それ!」すぽーーーーーん「もう一つ!」すっぽんぽーーん
完全なる死!
それを迎えた時、魔術師の体は淡く鈍く光り、やがて肉体は蒸気のように、陽炎のように、散り散りになって蒸発していく。
だが…
「さあ、回収せよ。迷える魂と、その精気を」
ハコザ教授よりも少し若いその男の手の中にある筒へ、キラリキラリと輝くエレメントが集まっていく!収拾されていく!
「卑小な頭脳と精神しか持ち得なかった出来損ないの君たち…」ハコザ教授は再び残忍かつ狂気的な笑みで口もとを歪曲させ、消滅という完全なる死への葬送曲を奏で始めた四人の学生たちに贈る言葉のように「慈悲深い私が、これから君達をもっと相応しい姿にしてあげようとしてるんだ。これはとってもありがたいことなんだよ。存分に私のことを感謝しなくっちゃ駄目だよ。大体、戦術の報告なんて、そんなもの頼んだ覚えは無い。最後の一人を葬るチャンスは幾らでもあったのに…君たちは恐れをなして、一目散に逃げ出してしまったんだ。小娘一人相手に出来ず、尻尾巻いて帰ってきちゃうなんて!君達のようなひ弱な精神しか持てない者が、人間のような姿をしているだなんて許されないんだよ。やがて来るこれからの世界では、そんな薄弱な人間は生きていく価値なんかないのだよ!」
首をはねられた学生達の、超人ゆえに保てなくなった肉体の飛沫が、どんどんと筒の中に吸い込まれ、吸収されていく。

筒を握った方の男は、宝玉のように極めて落ち着いた声で「精霊信仰の厚いかの地では、こうして精霊の気を集め、例えば病人の治療に使ったり、新しく建てる祠の土の下に埋めたりしていたそうです」
「こんな素晴しい道具を……そんな無駄な使い方をしてはいけないよ」
「あなた様の手に納められることで、この道具の開発者も、さぞ栄光を感じていることでしょう」
「来るべき超人による世界の為にも、こうした有用な品は、早め早めに収集し、私の手元に置いておかなければな」
「そのお役に立てるなんて、願ってもないことですよ」
ハコザ教授は、肉体を消滅させた学生達の身に纏っていた奇抜な衣服だけが床に転がる部屋で、満足そうに笑みを浮かべ、骨ばった手で髪をかきあげた。
「ふふふ、くくく…」
東南王国に向った、魔術アカデミー学長の忌々しい飼い犬たち。八人のうち、七人は計画通り、命を奪い、闇の術具によって異生物へと生まれ変わらせたが、ただ一人討ち漏らしてしまった一座の主導者、最も手強いとされているマナ・アンデン、そして彼女に加勢した超人らの活躍により、作戦は覆され、計画は失敗に終わった。更に、そのマナ・アンデンが件の仲間と共にこの中央国へと向ってきている。
それを聞かされた際、一瞬、閃光のように舞い上がった怒りの炎は、だがもはや緩やかに鎮火されつつあった。
この新しい鮮血が、口先ばかりで使えなかった無能で愚かな己が手下たちの、薄汚い肉体から迸っていった死を意味する液体群が、ハコザ教授の心の陰性なる乱れを、輝かしい陽性の乱れへと変質させていった。
「しゃしゃしゃ!来るがいい!やって来るがいい!死に損ないの小娘め!お前があの洞窟で大人しくくたばらなかったことを、存分に後悔させてやる!お前に、お前に、お前に!地獄を味わわせてやる!」
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