オリジナルの中世ファンタジー小説
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しばし後、一段落して「じゃあ、私はもう帰るから」リナはあっさり別れを告げた。
「ちょ、ちょ、ちょちょちょ、お姉ちゃん!せっかくなんだから」とマナは慌てて引き止める。
「部屋は、私が使ってたのを、ちょっと狭くて申し訳ないけど、使ってもらいなさいね」と、淡白に言う。「タイジ君、サキィ君、一応、私が嫁いでこの家出て行った時に、キレイにしてあるつもりだから。多分、片付いてると思うわ」と二人にも述べた。
ちゃっかりした話だが、タイジとサキィがマナに着いて来たはいいものの、特にこれといって行き先も無かったので、しばらくアンデン家にお世話になることは漫然と決まっていた。
「そじゃなくってさ、リナ姉ちゃんもしばらくうちにいなよ!」
「ダメだよ。私は仕事もあるし、うちの人にいつまでも負担をかけるわけにはいかないわ。学校にも無理を言ってお休みもらってきたんだから」リナさんは教職員で、小等部の先生をやっているらしい。「ま、母さんはあんたに任せるから、後はしっかりやりなさい」
「あの、ホントに帰っちゃうんですか?」と少なからず、押し掛けてしまっていることを気に掛けているタイジ。
「ええ。私の住まいは隣の領なの。だから、今から王宮に行って、護衛をつける算段をしなくちゃいけなくてね」
先にも述べた通り、一歩でも街の外を出たら、そこは異生物達がてぐすね引いて非力な人間らを待っている、極めて危険なエンカウント地帯である。
都市と都市の間は街道こそ走っているものの、超人ではない通常の人間が、とても往来できるような生易しい世界ではない。
どうしても旅をする場合は、王宮に申請を出すか、街で口利きを探して、頼れる超人の護衛を雇わなければならない。
東南国では、地域によっては定期で馬車便が出ていたが、そのサーヴィスはまだ中央国には無かった。
「じゃあ、王宮行ったらまた戻ってくれば良いよ!そだよ!そだよ!」
「駄目よ。いつ決まるか分らないし、決まったらすぐに出発しなきゃならないし…」
「王宮…申請……護衛…」サキィは二人の会話から単語を拾って、何やらぶつぶつ呟いている。
「わかったわね、マナ。いつまでも学校の子供たちをほったらかしに出来ないでしょ。だから、私は行くから。母さんを頼んだよ」とリナ。性格の歪んだ妹への慣れたたしなみ方も、一種の職業病のうちなのだろう。
「あーん!やだやだ!リナも一緒にゴハンぐらい食べてこうよ!もっともっとタイジやサキィ君と絡もうよ~!」
マナのわがままが始まった。
「私は脇役で充分なの」意味深な自己表示。「じゃあ、狭いとこだけど、タイジくん、サキィくん、ゆっくりしてってね!それでは…」と、奇妙な挨拶をしてマナの姉、リナ・マージュ・アンデンは去ろうとする。
「やだやだやだやだ~!」年甲斐も無くマナは姉の服を引っ張って留めようとする。
「マナ、しょうがないよ、お姉さんには仕事も家庭もあるんだし」この時ばかりはタイジも大人大人した発言をした。
「そんなの関係ないって言ってるでしょ!」三角形の建物を脚で踏みつける駄々っ子のように。
「ほら、マナったら」タイジもマナを引っ張ろうとする。「お姉さんだって、子供の駄々に付き合ってるヒマはないんだよ?あんまり困らせると圧縮濃度を限界まで上げちゃうよ?」
その実、タイジの内心は新たな期待にドキドキしていた。
マナの家にお世話になる。
これからマナと一つ屋根の下で暮らす生活が始まる。
タイジはあの血の気が引いていく、喜びと期待への密やかな興奮を味わっていた。彼は微塵も宿を探そうとか、アパルトマンを借りてサキィと住もうとか、そういった考えを持ってはいなかった。
つまり『邪魔者は一人でも少ない方がいい』という邪まな願望が、彼の中に少しも生まれていなかったとは言い切れない。それが故に、姉を引き止めるマナを殊更制しようとしていたのかもしれない。
「ちょっと、放しなさいって……マナったら、いい加減聞き分けなよ。っていうか、あんた、学校には行ったの?早くした方が良いんじゃないの?」
「あ!そうだ」マナは突然スイッチが入ったように、姉の服を引っ張る手を放し「学校に行かなきゃ!忘れるとこだったぜぃ!」
「でしょ」リナ姉はようやく解放されたと、ほとほとやれやれといった顔で乱れた衣服を整える。
「サキィくん!タイジ!早く支度をして!これから学校へ行くよ!魔術アカデミーに!」
「え……あ、うん」タイジは急な展開に今一歩着いていけてない様子。
「わー、急がなくっちゃ!早くしないと、わ、わ、わ」マナはまた慌て出す。「ほら、サキィ君も、一緒に…」
「いや、俺は行かん」今度はサキィが拒否権を発動した。「俺は学校ってところは好かん」
「サキィ…」この獣人の親友と同じ学び舎に通っていたことのあるタイジは、彼がどれほどその場所を嫌っているか、よくよく心得ていた。
「サキィくん!」この期に及んでサキィまで自分の意に従わないと知ると、マナは髪を眩く緑に輝かして「何言ってんの!見知らぬ異国ではぐれると困るでしょ!ホラホラ、行くよ!」
「待て待て、引っ張るな」またマナの袖伸ばしが始まった「いいよ、俺は。留守番してるから」
「留守番なんて良いよ!無駄なことだもん!ホラホラ、早くぅ」
「ちょっと待てって!」
サキィは少し強めに、袖を引っ張るマナのややむちっとした腕を振り払い、服をピシッと伸ばし、咳払いを一つしてから、次にマナの姉、リナの方を見て言った。
「リナ殿、その王宮での護衛というのはすぐに見つかるものなのかい?また、費用は幾らぐらい掛かるんだい?」
「ん?そうだねぇ…」リナは美男子の獣人に直視されてもなんら表情を変えずに淡々と「早ければ半日で決まることもあるけど…場合によっては何日かかかることもあるわ。ただ、最近物騒だから……その内乱があってね…ヴェルトワール襲撃で、兵がずいぶん動いたみたいで。今だとちょっと厳しいかもしれない。料金は…」リナは金額を述べた。それはちょっと信じられないような高額だった。
「そうか」サキィは一段と身なりを整え、キリッとした凛々しい顔を作ってこう告げた。「このサキィ・マチルヤを雇わないか?今言った額の四分の一で、安全な旅を約束するぜ」
「え?」
タイジはこの時、親友が言った言葉、その思いつきに、何か自分が一人置いていかれるような、一歩先を越されたような気がした。
それはもちろん「あー!サキィくん、人妻に手を出そうなんて!いーけないんだ!」というマナの的外れなとんちんかんとは一致せず、もっと社会的な問題である。
「俺の剣の腕は、ここいらのバケモンどもを退け、道中降りかかる一切の危険からあんたを警護することを誓えるぜ。ここにいるマナやタイジが、それを証明してくれるはずだ。な?」
このボンディ領を出て、街道に従ってリナの住むミドゥーの街まで、サキィは単身の護衛を買って出た。
サキィがこうした半ば唐突な申し出を始めたのは、マナが穿ったように、リナという女性への関心からではまるでなく、どちらかといえば、マナに『学校機関』に連れて行かれるのを避ける為、という反駁も少なからず含まれてはいたが、一番の理由はもっと別なところにあった。
「いいか、タイジ。俺たちはこれからこのアンデン家に少々厄介になることになった。けど、男二人がタダ飯を食わしてもらうわけにはいかねぇ。いや、お前がどうするかは、お前の勝手だが、俺は居候をするつもりはない。ちゃんと金銭を稼ぎ、列記とした下宿人として、このアパルトマンに住まわせてもらうつもりなんだ。つまりこれは、俺のニュービジネスの第一歩ってわけなんだよ」
言われたタイジもマナも、サキィの宣言に呆気に取られている。
「な!二人とも、俺の剣なら、容易いことだろ?」
サキィの今一度の念押しに「うんうんうんうん」二人は揃って首を縦に振った。
「どうだ?リナ殿?王宮の護衛兵の四分の一……いや、初仕事だから六分の一の報酬でいい。俺と契約しないか?もちろん、支払いは後払いで結構だ」
すると、リナは相変わらずの淡白さで「ええ、お願いするわ。サキィ・マチルヤさん」
この瞬間、サキィ・マチルヤとしての、最初の活動が始まったのである。
サキィとリナを見送ったタイジとマナの二人は、街から馬車に乗り、ゆら~り揺られて幾ばく、ボンディ領の市街地からは少し離れた区域、辺りを険しい山々に囲まれた緑豊かな敷地に、王宮と見まがうばかりの巨大な建造物、古めかしいという程ではなかったが、城砦の如き佇まいは巨大な門前に立った人に畏怖を与えるに充分、中央皇国が今、最も力を注いでいるといわれる魔術研究の中心機関、魔術大学にやって来ていた。
いかにも魔術師然としたフード付きの、だが所々にオリジナルの飾り物をベタベタくっ付けた制服でもあるローブに着替えたマナが、門衛のところで挨拶と手続きを済ますと、それこそ城門が開かれるような重々しさで、魔術大学は二人の超人を迎えた。
無数の教室や研究室、巨大図書館、事務室、特殊訓練場、食堂から宿舎まで備えたモンスター大学。
石造りの壁はとても硬質そうに見え、かがり火の台は、皇都でも腕よりの職人達によって、一つ一つ丹念に作り込まれた上物であった。
「魔術学部、第一魔術学科のマナ・アンデンです。学生証、これ」
タイジは前を歩くマナの後姿が自分よりも何倍も大きく、逞しく、また遠くに感じられてきた。
マナはこの国でこんなヴィップな存在になっていたのか……
廊下ですれ違う学生や大人達、扉が開きっぱなしの部屋から窺える人々は皆、立派ななりをしていて、とても賢しげに見える。マナはそんな連中の一員なのか。やっぱり、凄いんだな、お前は。一体この大学にどれだけのエリートや貴族、身分の高い奴らが集まっているんだ?良い男だっていっぱいいるんだろ。
「疲れない?ゴメンね、結構ムダに広くって」
マナはタイジを気遣った。
「僕は大丈夫」
タイジは自分の知らないマナを知ることが、それでも少し楽しかった。複雑な気持ちでもあったが。
「ボクも初めてきたときは迷いまくってさー。まるで王宮みたいだよね…」
「うん、そうd」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「ちょ、ちょ、ちょちょちょ、お姉ちゃん!せっかくなんだから」とマナは慌てて引き止める。
「部屋は、私が使ってたのを、ちょっと狭くて申し訳ないけど、使ってもらいなさいね」と、淡白に言う。「タイジ君、サキィ君、一応、私が嫁いでこの家出て行った時に、キレイにしてあるつもりだから。多分、片付いてると思うわ」と二人にも述べた。
ちゃっかりした話だが、タイジとサキィがマナに着いて来たはいいものの、特にこれといって行き先も無かったので、しばらくアンデン家にお世話になることは漫然と決まっていた。
「そじゃなくってさ、リナ姉ちゃんもしばらくうちにいなよ!」
「ダメだよ。私は仕事もあるし、うちの人にいつまでも負担をかけるわけにはいかないわ。学校にも無理を言ってお休みもらってきたんだから」リナさんは教職員で、小等部の先生をやっているらしい。「ま、母さんはあんたに任せるから、後はしっかりやりなさい」
「あの、ホントに帰っちゃうんですか?」と少なからず、押し掛けてしまっていることを気に掛けているタイジ。
「ええ。私の住まいは隣の領なの。だから、今から王宮に行って、護衛をつける算段をしなくちゃいけなくてね」
先にも述べた通り、一歩でも街の外を出たら、そこは異生物達がてぐすね引いて非力な人間らを待っている、極めて危険なエンカウント地帯である。
都市と都市の間は街道こそ走っているものの、超人ではない通常の人間が、とても往来できるような生易しい世界ではない。
どうしても旅をする場合は、王宮に申請を出すか、街で口利きを探して、頼れる超人の護衛を雇わなければならない。
東南国では、地域によっては定期で馬車便が出ていたが、そのサーヴィスはまだ中央国には無かった。
「じゃあ、王宮行ったらまた戻ってくれば良いよ!そだよ!そだよ!」
「駄目よ。いつ決まるか分らないし、決まったらすぐに出発しなきゃならないし…」
「王宮…申請……護衛…」サキィは二人の会話から単語を拾って、何やらぶつぶつ呟いている。
「わかったわね、マナ。いつまでも学校の子供たちをほったらかしに出来ないでしょ。だから、私は行くから。母さんを頼んだよ」とリナ。性格の歪んだ妹への慣れたたしなみ方も、一種の職業病のうちなのだろう。
「あーん!やだやだ!リナも一緒にゴハンぐらい食べてこうよ!もっともっとタイジやサキィ君と絡もうよ~!」
マナのわがままが始まった。
「私は脇役で充分なの」意味深な自己表示。「じゃあ、狭いとこだけど、タイジくん、サキィくん、ゆっくりしてってね!それでは…」と、奇妙な挨拶をしてマナの姉、リナ・マージュ・アンデンは去ろうとする。
「やだやだやだやだ~!」年甲斐も無くマナは姉の服を引っ張って留めようとする。
「マナ、しょうがないよ、お姉さんには仕事も家庭もあるんだし」この時ばかりはタイジも大人大人した発言をした。
「そんなの関係ないって言ってるでしょ!」三角形の建物を脚で踏みつける駄々っ子のように。
「ほら、マナったら」タイジもマナを引っ張ろうとする。「お姉さんだって、子供の駄々に付き合ってるヒマはないんだよ?あんまり困らせると圧縮濃度を限界まで上げちゃうよ?」
その実、タイジの内心は新たな期待にドキドキしていた。
マナの家にお世話になる。
これからマナと一つ屋根の下で暮らす生活が始まる。
タイジはあの血の気が引いていく、喜びと期待への密やかな興奮を味わっていた。彼は微塵も宿を探そうとか、アパルトマンを借りてサキィと住もうとか、そういった考えを持ってはいなかった。
つまり『邪魔者は一人でも少ない方がいい』という邪まな願望が、彼の中に少しも生まれていなかったとは言い切れない。それが故に、姉を引き止めるマナを殊更制しようとしていたのかもしれない。
「ちょっと、放しなさいって……マナったら、いい加減聞き分けなよ。っていうか、あんた、学校には行ったの?早くした方が良いんじゃないの?」
「あ!そうだ」マナは突然スイッチが入ったように、姉の服を引っ張る手を放し「学校に行かなきゃ!忘れるとこだったぜぃ!」
「でしょ」リナ姉はようやく解放されたと、ほとほとやれやれといった顔で乱れた衣服を整える。
「サキィくん!タイジ!早く支度をして!これから学校へ行くよ!魔術アカデミーに!」
「え……あ、うん」タイジは急な展開に今一歩着いていけてない様子。
「わー、急がなくっちゃ!早くしないと、わ、わ、わ」マナはまた慌て出す。「ほら、サキィ君も、一緒に…」
「いや、俺は行かん」今度はサキィが拒否権を発動した。「俺は学校ってところは好かん」
「サキィ…」この獣人の親友と同じ学び舎に通っていたことのあるタイジは、彼がどれほどその場所を嫌っているか、よくよく心得ていた。
「サキィくん!」この期に及んでサキィまで自分の意に従わないと知ると、マナは髪を眩く緑に輝かして「何言ってんの!見知らぬ異国ではぐれると困るでしょ!ホラホラ、行くよ!」
「待て待て、引っ張るな」またマナの袖伸ばしが始まった「いいよ、俺は。留守番してるから」
「留守番なんて良いよ!無駄なことだもん!ホラホラ、早くぅ」
「ちょっと待てって!」
サキィは少し強めに、袖を引っ張るマナのややむちっとした腕を振り払い、服をピシッと伸ばし、咳払いを一つしてから、次にマナの姉、リナの方を見て言った。
「リナ殿、その王宮での護衛というのはすぐに見つかるものなのかい?また、費用は幾らぐらい掛かるんだい?」
「ん?そうだねぇ…」リナは美男子の獣人に直視されてもなんら表情を変えずに淡々と「早ければ半日で決まることもあるけど…場合によっては何日かかかることもあるわ。ただ、最近物騒だから……その内乱があってね…ヴェルトワール襲撃で、兵がずいぶん動いたみたいで。今だとちょっと厳しいかもしれない。料金は…」リナは金額を述べた。それはちょっと信じられないような高額だった。
「そうか」サキィは一段と身なりを整え、キリッとした凛々しい顔を作ってこう告げた。「このサキィ・マチルヤを雇わないか?今言った額の四分の一で、安全な旅を約束するぜ」
「え?」
タイジはこの時、親友が言った言葉、その思いつきに、何か自分が一人置いていかれるような、一歩先を越されたような気がした。
それはもちろん「あー!サキィくん、人妻に手を出そうなんて!いーけないんだ!」というマナの的外れなとんちんかんとは一致せず、もっと社会的な問題である。
「俺の剣の腕は、ここいらのバケモンどもを退け、道中降りかかる一切の危険からあんたを警護することを誓えるぜ。ここにいるマナやタイジが、それを証明してくれるはずだ。な?」
このボンディ領を出て、街道に従ってリナの住むミドゥーの街まで、サキィは単身の護衛を買って出た。
サキィがこうした半ば唐突な申し出を始めたのは、マナが穿ったように、リナという女性への関心からではまるでなく、どちらかといえば、マナに『学校機関』に連れて行かれるのを避ける為、という反駁も少なからず含まれてはいたが、一番の理由はもっと別なところにあった。
「いいか、タイジ。俺たちはこれからこのアンデン家に少々厄介になることになった。けど、男二人がタダ飯を食わしてもらうわけにはいかねぇ。いや、お前がどうするかは、お前の勝手だが、俺は居候をするつもりはない。ちゃんと金銭を稼ぎ、列記とした下宿人として、このアパルトマンに住まわせてもらうつもりなんだ。つまりこれは、俺のニュービジネスの第一歩ってわけなんだよ」
言われたタイジもマナも、サキィの宣言に呆気に取られている。
「な!二人とも、俺の剣なら、容易いことだろ?」
サキィの今一度の念押しに「うんうんうんうん」二人は揃って首を縦に振った。
「どうだ?リナ殿?王宮の護衛兵の四分の一……いや、初仕事だから六分の一の報酬でいい。俺と契約しないか?もちろん、支払いは後払いで結構だ」
すると、リナは相変わらずの淡白さで「ええ、お願いするわ。サキィ・マチルヤさん」
この瞬間、サキィ・マチルヤとしての、最初の活動が始まったのである。
サキィとリナを見送ったタイジとマナの二人は、街から馬車に乗り、ゆら~り揺られて幾ばく、ボンディ領の市街地からは少し離れた区域、辺りを険しい山々に囲まれた緑豊かな敷地に、王宮と見まがうばかりの巨大な建造物、古めかしいという程ではなかったが、城砦の如き佇まいは巨大な門前に立った人に畏怖を与えるに充分、中央皇国が今、最も力を注いでいるといわれる魔術研究の中心機関、魔術大学にやって来ていた。
いかにも魔術師然としたフード付きの、だが所々にオリジナルの飾り物をベタベタくっ付けた制服でもあるローブに着替えたマナが、門衛のところで挨拶と手続きを済ますと、それこそ城門が開かれるような重々しさで、魔術大学は二人の超人を迎えた。
無数の教室や研究室、巨大図書館、事務室、特殊訓練場、食堂から宿舎まで備えたモンスター大学。
石造りの壁はとても硬質そうに見え、かがり火の台は、皇都でも腕よりの職人達によって、一つ一つ丹念に作り込まれた上物であった。
「魔術学部、第一魔術学科のマナ・アンデンです。学生証、これ」
タイジは前を歩くマナの後姿が自分よりも何倍も大きく、逞しく、また遠くに感じられてきた。
マナはこの国でこんなヴィップな存在になっていたのか……
廊下ですれ違う学生や大人達、扉が開きっぱなしの部屋から窺える人々は皆、立派ななりをしていて、とても賢しげに見える。マナはそんな連中の一員なのか。やっぱり、凄いんだな、お前は。一体この大学にどれだけのエリートや貴族、身分の高い奴らが集まっているんだ?良い男だっていっぱいいるんだろ。
「疲れない?ゴメンね、結構ムダに広くって」
マナはタイジを気遣った。
「僕は大丈夫」
タイジは自分の知らないマナを知ることが、それでも少し楽しかった。複雑な気持ちでもあったが。
「ボクも初めてきたときは迷いまくってさー。まるで王宮みたいだよね…」
「うん、そうd」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああ」
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