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オリジナルの中世ファンタジー小説
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「わ、押さないで。えっとね、そもそも魔術ってのは、さっきのヤーマ先生も言ってたように、先に異生物が使用してたのを研究することでボクたちが使えるようになったんだ。そんなに大昔のことじゃないから、まだまだ分からないことが山ほどあるんだよね」
マナは後ろを振り返りつつ、サキィとタイジの瞳を交互に覗きながら会話を続けた。
「一番よく知られている話があって、今から五年ぐらい前かな?三人の亜人の登山家がいて、その登山家達は角があって大男で体格もでかくって…つまり鬼人っていうんだっけ?でもね、体格がデカイだけで、超人ではなかったの、その人達は。鬼人の人って、筋肉ムキムキだからみんな超人なのかと思っちゃうけど、違うらしいね。でも超人じゃなくても一千万パワー!ハートにさしたロングホーンがお前の愛を~奪い取るのさ~♪」
「マナ、歌はいいから続きを…」
タイジが呆れて制した。

「あ、とにかく…その亜人の登山家達は人里離れた山地にクライミングをしに出かけていたの。季節は秋、山の紅葉もキレイだしね!ところがどっこい!その山で登山隊はどっかの部族の人みたいな格好した異生物に襲われたの。なんか最初は人間かと思ったんだって。世捨人で、昔から奥深い山とかには修行をしてる人とか、なんかそういうのっているじゃん?最初はそうだと思ったんだって。そしたらその修行者みたいなやつは、奇妙な言葉を発しながら血相変えて襲い掛かってきたんだって。でも登山家達は超人では無かったんだけど、鬼人ってぐらいだから筋骨隆々マッチョマン、体毛も濃くて胸毛がヴォアー!必殺のハリケーンミキサーで、なんと異生物の男を殴り飛ばしたんだって!」
「マナ、確認したいんだけど…その登山家、ほんとに超人じゃなかったんだろうね」とタイジ。
「ま、弱っちい異生物だったら、超人でなくても倒せるしな」とサキィの言。
「うん。で、殴ったわけよ。超人じゃない、生身のマッチョな亜人のおっさんが、異生物を。登山家おっさんは三人、相手は一人。そしたらさ、その時、そいつが逆上して魔術を使ったわけよ。まず、聞いたこともないような奇妙な声を上げたんだって。そしたら今度は異生物の手に炎が燃え上がって、それを殴りつけたおっさんに向かって放射した。おっさんは何が起こってるのか理解できずに、避けるヒマもなく炎に直撃!激しく炎に焼かれてヴォアー!アンフォルゲッタブルファイアー!」とマナは両手をぶんぶん派手なジェスチャーで、炎の魔術をくらって炎上するおっさんの様子を表現した。
「ゴワーっとなって、そしておっさん死亡!間近で見ていた別のおっさんは勢い良く燃え上がっていく仲間の登山家を見て真っ青になっちゃった。すぐに、異生物はまたも奇声を発して炎を作り出した。でも今度は、さすがは鬼人、標的にされたと身の危険を感じたおっさんは、力いっぱい突進したんだ。異生物は慌てて走って向かってくる角の生えたおっさんに炎を打ち付けたけど、おっさんは体を焼かれながらも敵に喰らい付き、もみ合いになりながら、遂には異生物とおっさん二人とも崖から転落しちゃったんだ。残されたおっさんは無事に里に帰り、その一部始終を報告したってわけ。その話がウチの魔術アカデミーにも伝わって…人の姿をして、不可解な術を使ったっていう事例は初めてだったらしく、登山家の報告は一大センセーションになったとかならなかったとか。あ、次は左に曲がると思うよ。でね、特筆すべきは、その魔術師系異生物の存在もそうなんだけど、その異生物が使った怪しげな術!そいつが唱えた炎に焼かれておっさんの仲間の一人は炎上して死んじゃったんだけど、不思議なことに、あんなに激しく燃え上がって、皮膚は真っ黒に焼かれたのに『おっさんの衣服は少し焦げていた程度』だったんだ。そして、その時はパニックだったから疑問にすら思わなかったけど、よくよく思い返してみると、もう一人のおっさんが炎に焼かれながらも異生物に掴みかかったとき、炎は異生物に移らなかったんだよね。はい、ここでクエスチョンです。普通、火を付けると、火ってどんどん燃え移っていくし、火だるまになったら服なんか体より先に燃え上がっちゃうはずだよね。これらのことからどんなことが言えるかな?」
マナは突然二人に質問を投げ掛けた。
「魔術の炎…異生物は奇声を発してそれを唱え、いきなり発生した炎におっさんは焼かれて死んだけど、服までは燃えていなかった。また、火だるまになったおっさんが異生物に掴みかかっても、異生物の体は炎で燃えなかった。うーん…」
タイジは突き出た岩で転ばないよう足元に気をつけながら「魔術の炎は焼き上げる対象を選べるってこと?」
「うーん。惜しいなぁ、でも半分は合ってるかも。七十点だね。サキィ君は?」
「いや、俺は超人でないにもかかわらず、異生物に向かっていった鬼のおっさんの勇気を評価したい」
「零点!じゃあ正解を言うね。あのね、魔術の炎は『生物』だけを焼くの。だからおっさんは火だるまになっても、おっさんの身につけている服が一緒に燃えるわけじゃない。同様に、炎に焼かれているおっさんが誰かと接触しても、熱を感じることはあっても炎が燃え移ることはない。はい、じゃあもう一回チャンス。 このことから導き出される魔術の特徴は?あ、そこは下に降りた方が良いよ」
「炎はおっさん一人だけを燃やすように命令されて放たれた?」と足場を気にしながらタイジ。
「おっさんは襲い掛かるときピッケルを使えばよかったんだ!」とジャンプしてサキィ。
「タイジ、四十八点!サキィ君はマイナス三十点。じゃあちゃんと正解を言うね。つまり『魔術はみんな幻』なの。術者は被術者に向かって、強烈なきょうひゃくかんねんみたいな幻覚を投げかけるわけ。つまり極論を言えば『魔術の炎に焼かれた者は、実際には焼かれていないのに、焼かれていると思い込む妄念に襲われる』の。そしてその幻覚は周囲の者にも知覚できる。強烈な脳神経への攻撃だからね。ただ知覚できるが、あくまで燃え上がっているのは被術者だけであって、本当の炎はそこには無いの。でも、自分は火に焼かれているという強い幻覚で被術者の肉体は黒焦げになってしまうのね」
タイジは驚きながら「つまり何か?魔術は一種の催眠術みたいなものってこと?幻覚は他人にも見えるけど、実際に炎の感覚を体感するのはくらったやつだけ?」
「その通り。ただ、本当にどんなメカニズムになっていて、そんな現象が起こるのかはまだはっきりとは判明されてないんだよね。一説には、魔術を唱える時に使う言葉が、人間の…生物の脳に何かしらの記憶とか、なんか未知の部分に訴えかける機能があるとかないとか。だから例えばボクらは犬や魚や虫を焼くことは出来ても、魔術で暖炉の薪に火をつけたり、こうした松明に火をつけたりは出来ないんだよ。生き物じゃないから。それと今、魚って言ったけど、釣り上げてすぐだったら大丈夫だけど、魚屋で買ってきた秋刀魚を魔術で焼き上げることも出来ないんだよね」とマナは語った。
「なんだ、そうだったのか。エライ不便だな」とサキィは感想を漏らした。
タイジは数時間前の小屋での戦闘を思い出した。
マナはあの時、二発、炎の魔術を使った。そういえば何か自分には聞き取れない言葉を発していたような気がする。そしてドロドロしたあいつらを炎上させた炎は、床にも壁にも燃え移ることなく呆気無く消えた。
あの異生物が息絶えて体が蒸発するのと同時に。
知覚。
すべては知覚に訴えるものなのか、魔術とは…
タイジ達の世界において言葉は全世界共通であった。
東南国も中央国も、或いは他の諸国も、文化こそ微妙に違えど、使用している文字と言語は全く同じものであった。
総ての国家は、各地に残されている謎の石碑に残された記述を文化の下敷きにしていた。いかなる刃物を以ってしても傷をつけることが出来ない不思議な一枚岩。そこに刻まれた文字を。
そしてこの物語は彼らの共通言語を拙い日本語にどうにか翻訳する形で書かれている。
しかし、タイジがマナの詠唱の際に聞いた言葉は、明らかに普段耳にしない、我々の世界で言うところの異国語にあたる、未知の発音であった。
「まあ不便て言われても仕方ないかもしれないけど。大体何もないところにいきなり炎とか風とか氷とか出てきたら大変でしょ?精霊の仕業にしたって、そんなことしてたら気候がおかしくなっちゃうよ!現実はそんなにメルヘンじゃないってこと。もっと厳しいもんなのさ。」
マナはぶすっとして応えた。
「その魔術師の異生物が発した奇声ってのが、魔術を唱える暗号みたいなものなの?」
タイジが問う。
「そうそう。暗号…まあ暗号みたいなもんだね。ヤーマ先生が言ったように、異生物が唱えていたものを聞き取ったんだけどね、命がけで何年も掛けて。一説によると古代語とか言われてて、発音もすんごい難しいんだ。でもそれがちゃんと言えないと魔術は成功しないんだよ。もち、言っただけで魔術が使えるわけじゃないけどね。あと、聞き取りは完了しててもまだ使えることの出来ない魔術もいっぱいあって、大学じゃ毎日が苦難の連続なのさ!簡単じゃないんだよー」
「なるほど。すんごい良く分かったぜ」
サキィが剣を抜いた。「それじゃぁ、マナ。こいつらにその素晴らしい魔術をお見舞いしてやろうぜ」
タイジが松明で照らした先に蠢く影があった!
ゴリラの腕のように太い四肢を持つトラに似た異生物が数匹!
「逞しき四肢」それらが群れを成して今にも襲い掛からんと低い唸り声を上げている!

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