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オリジナルの中世ファンタジー小説
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「いよいよお出ましだね!異生物め!」
マナは手にした杖を胸の前に構え、瞳を閉じて精神を集中し始める。
髪の色が黒から緑へと徐々に変わっていく。
そしてマナは叫んだ!
red hot chili peppers!!!!!

タイジは見る。
マナが聞き慣れない、普段とは違う発音呪文の言葉を詠唱をしたことにより、杖の先に現れた炎の盛りを。宝玉のかたどられた杖に光が宿り、マナの髪が緑色に変わっていく様を映し出す。
幻の炎はどんどんと大きくなる。
「それ!燃えちまいな!レッドホットぉ!」
マナは杖を振って先端の炎を一匹の異生物に向かって投げつけた。
炎は真っ直ぐに進み見事命中!
「逞しき四肢」は断末魔を上げて崩れ、倒れ、消える。
仲間をやられた逞しき四肢達が唸り声の合唱を始める。
「キャレスプレエェイイィー!」
素早く!サキィが長剣で斬りかかる。
敵の頑強な前足を切り払い、顔面を刃で突く!
だが、その横にいた別の逞しき四肢が動きを見せ、サキィは爪による一撃を受け半獣の肉体に擦過傷を作らされる。
破れた衣服がはらりと散った。
斑点のあるヒョウの毛並が見える。
サキィは後ずさる。
「サキィくん!大丈夫?」
サキィはマナに笑みを見せる。
「へん。こんな傷の一つや二つ、いつも受けてるからまったく平気よ。それより、マナ、さっきの魔術、やるじゃねぇか。ちょっと見直したぜ」
レッドホット?ほんと?わーー嬉しい!サキィくんに褒められるなんて。うんうん、やっぱり女の子でも守られてばっかりじゃダメだもんね!」
マナは戦場だというのに黄色い声を上げて歓喜する。
守られてばかりじゃダメ…その言葉がタイジの耳に痛みを伴って響いた。
守られてばかりじゃダメ。
だが、どうする?
眼前には恐ろしい異生物たちが、二匹仕留めたというのに、まだまだたくさん残っている。大群じゃないか!
サキィは軽い怪我だと言い張ったが、敵の反撃は明らかに脅威だ。
どうする?やっぱり逃げた方が良い。傷つく。傷つくのは嫌だ。痛い想いをするのは嫌だ。松明を握っている腕が所在無げだ。僕なんかがここにいてもしょうがない。この二人に任せておけばいい。なんせこの二人は超人だ。おっかない異生物と戦う専門家だ。そんでもって僕はただの人間だ。よし、逃げよう。逃げた方が良いに決まっている。
タイジがおもむろに足を一歩後退した直後。
「なぁ、マナよぉ。確かにさっきの魔術はなかなかだった。一撃で仕留めてみせた。文句はない。けどさ」
サキィは飛び掛った一体を革の盾で受け止めて押し返しながら「ちきしょ。数は多いな…マナ!敵の方々はこんな団体さんだ。魔術ってのはお一人様限定なのかー?」
「それはボクも今、考えていたとこだよ。安心して!魔術アカデミーの主席、最優秀学生マナ・アンデン、まだまだ本領発揮はこれからだよー」
en blue jeans et blouson d'cuir!!!!!
マナは再び詠唱をし、今度は先程とは真逆の、水色の輝きが杖の突端に集まっていく。
マナの美しい髪は緑色。
それを照らすのは青い光!氷!
「キンキンに冷やしたらぁ!」
マナは精神を集中させて氷の結晶を創り上げていく。冷気!
洞窟内に吹雪が巻き起こる。
サキィに押し寄せる数体の逞しき四肢達を幻の吹雪が襲う!先ほどの火炎とは対称的な氷の魔術。吹雪、吹雪、氷の世界!
アアアアァァァダアアアァモオオオオオォォォ
吹雪に直撃した数匹が悲鳴を上げた。
奴らは氷点下何十度という猛烈な冷気を喰らったんだ。いや、喰らったと錯覚させられているんだ。
タイジは事を理解しようとしたが、さっきの炎も含め、マナが杖から放っている幻術がとてもまやかしだとは思えなかった
どう見ても今、目の前の得体の知れぬ生き物達は凍死寸前の極寒に苦しめられている。
無数の氷の粒が異生物の自慢の足を地面に縛り付ける。
「今のうちだよ、サキィ君!」
「でかした、浮気娘!」
サキィは失礼なことを言って魔獣に飛び掛った。
氷漬けにされてもがいていた逞しき四肢を次から次へと切り倒していく。
異生物の黒い血液が辺りに飛び散る!そして順序良く絶命しては消え失せていく。
「それじゃぁ、もう一発お見舞いだ~」
en blue jeans et blouson d'cuir!!!!!
マナは再度同じ氷の魔術を使った。
どう見ても本物にしか見えない猛吹雪が、異生物たちに向かって放たれる。
サキィが剣での追撃を下す。
そうして現れた敵の群はすべて一掃された。
「こいつは良いコンビネーションだ!」
サキィは剣に付着した異生物の血のりを払いながら感想を述べた。
もっとも、消滅した順に血は乾いていくのだが。
気がつくと敵は全滅したのか、サキィはマナと向かい合って「やるじゃないか、マナ。その魔術を使ってくれるとこっちも戦いやすいぜ。こいつらの動きを吹雪で止めて俺がトドメを指す。うん、無駄の無いスマートな戦い方だ」
「あは。嬉しいな。ボクもあんまりこの水系の魔術は得意じゃないんだけど、数が多いときはブルージーンの方が良いよね。ブルージーンって他の魔術と詠唱が微妙に発音が違うから失敗しないかいつもドキドキなんだー。でも、これを得意としてた子は、こっちの方が失敗しにくいって言ってたけど」
逞しき四肢たちをやっつけた!
マナとサキィはそれなりの経験値を獲得!
ただ一人…タイジだけは視線を落としていた。
自分が何をしていたのか自問自答をしていた。
僕は何をしていた?ただ、戦う仲間の後ろに立って松明で照らしていただけ?僕は照明係か?完全に蚊帳の外…二人がおっかない異生物と戦っていたのを、ただ眺めていただけ…戦力じゃない、僕は、逃げようとすらしていた。自分に腹が立つ。でも己を攻めた所で何も出来ないことに変わりは無い。僕は何も出来ない。戦力じゃなかった。役立たず。いなくても良い存在。いない方が良い存在?嫌だ。何も出来ない。何もしたくない。出来ない!ほら、今もサキィとマナは戦いを終えて楽しそうに笑い合っている。緊張をほぐしているんだろうか。あんなに楽しそうに。マナは命を賭けて戦った。サキィは命を賭けて戦った。僕は命など賭けてはいなかったし、戦おうとすらしなかった。僕は何だ?何故、こんなところにいる?こんな戦場で…何をしている?



ところで。
三人が試練の洞穴に突入した時点から遡ること半月前のこと。
「今回の計画。ハコザ教授の前でこんなことを言うのは恐れ多いのですが」
そこは山深き中央皇国の魔術大学。タイジ達の住む東南国より遥か北方に位置する、叡智と学問の王国。
ブラインドで仕切られた窓の前、まだ四十に届いてはいないだろう男と、その教え子と思われる学生が話をしている。薄暗い部屋の中。
「ふん。どうした?言ってみなさい。なんでもはっきり発言しないと議論にならないし、君が出世することも出来ないんだぞ」
学生は薄笑みを浮かべているハコザという教授の瞳を見た。
鋭い瞳は欲望をたぎらすようにギラギラと燃え盛っている。だが、その炎は冷たい。その瞳には冷凍の炎が宿っていた。
この人は、人の上に立つことを至上の喜びとしている人だ。
そしてその為には手段を選ばない。
「やはり、同じ学生として、このような仕打ちをするというのは、私は心が痛みます。正直、はじめは構わないと思っていました。我々の学派がより力を握る為に、彼らには犠牲になってもらっても。でも、しかし」
するとハコザ教授は生徒に対して深い落胆の色を示し「君は有為な男だ。成績も優秀だ。君の発表する論文はいつも興味深い。だが、この期に及んでそんなつまらないことを言い出すのか」
「ち、違います!」
学生はハコザ教授の蔑むような目を見て「自分は、ただ、もっと穏便な方法はないだろうかと検討の余地をお願いしたかっただけで」
「君はまだ甘い」
ハコザ教授は整えられた髪に手ぐしを入れ、また笑みを口元に戻し、窓の縁に寄りかかって答えた。
「既に実行中の計画を途中で変更する。それは即ち失敗という結末を意味する。何故か。計画の変更には『弱さ』が含まれるからだ。君はもう少し人命を尊重した方法にしないのか、と言いたいのだろう?だがそれは心の迷い、君の弱さが言わせてしまったのだ。この計画は何ヶ月も前から我々の間で協議されてきた。それを今になって変更しようなどと言うのは、君が、計画に失敗したらどうしようかという恐れ、不安、心の薄弱に侵されてしまったからだ。つまり甘えだよ。もし、私の元を離れて一人でこの学会で名を上げていくつもりならばそれもよかろう。君がだよ。これから、たった一人で!だが、その甘さがある限り、私には、どう公平に見積もっても君の将来が明るいものだとは思えない。今、君はこの場で、この計画の見直しをしてはどうかという尻込みをした。計画の成否如何に関わらず、この先君は何か重大な決定をする時になったら、またきっとこうした迷いに捉われてしまうことだろう。そうした心の弱さが、これからの君の成功への道を暗く陰鬱に閉ざしていくことだろう。なるほど、私は今、陳腐な精神論を語っているように君は思うだろう。だが、私はこの世界で死に物狂いで生き延びてきた。レースをだ。そのレースの途中で脱落していった者を横目で何人も見ていた。そいつらは何故、脱落したか。出身や生まれた家柄か?経済力や人徳か?違うね。共通していたのは、皆、ここぞというところで心に迷いがあった。その迷いに負けて、肝心なところで判断を誤り、レースから脱落した。無様にね。ただそれだけの話だ。君もそうなりたいのかね?」
この人に、情け容赦は有り得ないんだ。
学生は肩を震わせ始めていた。
「いえ…。私は、落ちていきたくはありません」
すると窓を背にしたハコザ教授は口を弓なりに曲げた。冷たい瞳は決して笑ってはいない。
「これからも私を尊敬し、私に着いて来てくれるならば君にもチャンスがある。大丈夫だ。計画の本筋は少々手荒でも、最終的には総て丸く収まる。証拠は残らない。万全の対策を練ってある。あの目障りな老いぼれ学長も、今回のことにはまるで気付いていない。あいつはもうろくしているからな。それに、私が王族の連中に通じていることも知っているだろう?その確実なパイプラインがある限り、私と、私に賛同する君の立場は絶対に守られる。これのどこに不安があるというんだ?」
ハコザは窓から離れ、学生の震える肩に手を掛けた。
「何も恐れることはない。私を慕って私に協力してくれてさえいれば、君の将来は約束された望みどおりのものになるんだから」
この人は、恐ろしい。
だが、国家に通じている、それは絶対的な安心だ。
やっぱり、この人に着いていこう。
「はい。つまらないことを言って申し訳ありませんでした。自分は甘かったんだと思います」
「うむ。さすがは私の生徒だ。物分りが早い」
ハコザ博士は笑って、学生の肩に掛けている手に力を込めた。
そして呟いた。
…。
薄闇の部屋に唐突な明るさがやって来て、そしてまたもとの暗闇に戻った。
「私は優秀な生徒が好きだよ。優秀、それはつまり私の崇高な理想を理解し、それに従う者のことだ。あの死に損ないの学長は、私の教え子では無い者どもに、卒業の証を与えようとしている。そんなことは断じて間違っているのだ。その間違いを正してやるのも、我々、ハコザ学派の使命というものだ。私の学派に属するものだけが、栄光ある未来へと達することが出来る。レースの勝者となり得る。そうでないものには、敗者には、明日、息をしていることすら許されない。今、この瞬間もだね
ハコザは殺害した学生が身につけていたものを屑篭へと処分してから部屋を後にした。

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