オリジナルの中世ファンタジー小説
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マナは魔術大学のキャンパスを思い出す。
特殊講義実践魔術方法論で教わった魔術を、いつでもクラスの誰よりも早く習得していた。最年少の自分がなんでこんなにも軽々とこなせるのかは分からなかった。感覚だけでそれをものにしていた。
お世辞にも勉強が出来るわけではなかったが、こと魔術の腕前に関しては右に出るものが無かった。だが…
それは魔術大学にて、いよいよ実践的な魔術の修得過程が進み、炎と氷の魔術を会得したマナたち数十名の生徒達が、学内でも使い手がたった一人しかいないと云われる土の魔術の講義を受けることになった頃に。
「今日から私のアシスタントとしてやって来てくれた、助教授のイタル・キャトルプラス卿だ」
ある日、土の魔術のレクチャーをしているニビ・ハナカジマ教授はそう告げて、教室に伴って一緒に入ってきた細身の青年を紹介した。
当時、マナと半ば恋人関係にあったカマセイ・ヌケイゾは、木造の教室に現れたスラッとしたすまし顔の男を見て、そしてその男を視認した拍子に目の色を変えた横に座るマナを見て、むっつりとした顔をした。
「イタルくんは私の遠い親戚でね。彼は蒐集家としても有名なのだが、しばらくはこの魔術大学に席を置くことになったんだ」
質実としていて、まるで農夫や大工のような体型のニビ教授と並んで立つと、余計に彼の魅力は引き立てられた。
「おい、マナ」
咄嗟に醜い嫉妬心にかられたカマセイは「なに、うっとり見てんだ。あんなひょろいの、どうせ魔術もロクに使えないひ弱なヘタレだぜ」
「え?あ、ボクそんなに見てないよ!」
「はい、そこ、静かにする」ニビ教授は毎度のことのように賑やかな最優秀問題児に事務的な注意を施して「じゃ、先日の続きから…文書の十頁を開いて」
補佐として講義に加わることになったイタル卿は、あくまでクールな身のこなしで資料や配布物の扱いを行い、教壇のすぐ近くの席に座って、用が無い限りはじっと大人しくしていた。
そんな彼を美しい静物画を鑑賞するような目線で見つめるマナ。
さらにその様子を窺う横の男。
マナの様子がその日から俄かにおかしくなりだしたのは、恋人でなくても明らかであった。
卒業見込み生の選抜メンバー判定にも関わってくる大事な講義だというのに、マナは次第に上の空でいることが多く、ついには今まで誰にも譲らなかった魔術修得者第一号の座を受け渡してしまった。
「ハッハッハ、まさかマナよりも先にマスターできるなんて、夢にも思わなかったぞ」
マナの次に成績優秀なちょっと年増の男性生徒が得意げな笑い声を上げながら快活に自慢した。
「ふ、ふーん!ボクだって、いつも一番じゃ皆に悪いからって、譲ってあげただけなんだからね!ほ、本気を出せばそんな魔術、お手のもんさ」
と、言いつつもマナは近頃どうにも調子が出なかった。
ニビ教授が伝授する土の魔術、ブラウンシュー。
それは現存の他の魔術と大きく違う点があった。
マナ達が既に単位を取得している実戦用魔術はどれも、単純に標的にダメージを与えるものばかりであった。
ブラウンシューは威力こそ小さいが、その最大の特徴は相手を石に変えるという恐るべき力にあった。
よって、連日行われている特別訓練の中途で、見事岩石の幻影を発生させることに成功する者はいても、なかなか実験用の小動物の肉体を鉱物に変えるところまでは達せなかった。
「石のような、とても硬い精神が必要なんだ。何事にも動じない、そう、まるで打ち寄せる波を砕く海岸の岩のような」
正に海岸の岩のような精神を持った講師のニビはそう生徒達に手解きをしたが、山国の中央国にいる彼らが海を知っていたかどうかは疑わしい。
「おい、聞いたか?かっちゃんも成功したってよ!」
カマセイは休み時間に友人らと談笑していたマナのところにわざわざやって来て言った。
「えー!そ、そうなの…」
マナはクラスメイトにまたしても先を越されたことを知らされての、それなりのリアクションを取ってはみたが、その様子はどこかなおざりなものであった。
「なんだよ、あまり悔しくなさそうだな」
いつもなら躍起になってあくせくするマナが、妙に落ち着いている様を見て、さてはあの毎回教授の手伝いでやってくるイタルとかいうスカした男のせいだなと勘ぐったカマセイは「この分じゃ、皆に抜かれちまうだろうよ。天才マナの名もここまでって感じだな。ハハハハ」
「じゃあ、ヌケイゾさんだったら出来るっていうの?」
マナの友人の一人が立ったまま大きな声を出している彼に言った。
「俺?そりゃ…そうだ!俺だってもうほとんど出来るようになってるんだ。今度は確実にマナより先に覚えてやるぜ!」
「お、でたでた、いつものハッタリが…」
「マナちゃん、こんな人に抜かれちゃダメよ」
「ヌケイゾったらハッタリばっかりで、内容がいつも追いついてないんだから」
マナの女友達は彼女の現恋人であるカマセイのことを常より快く思ってはいないようだった。
「あん?俺はな、王の兄弟の血を引いてるんだ。つまり、俺こそ天才なんだよ!いいか!だったら宣言してやる。三人目にブラウンシューをモノにするのはこの俺だ!」
「ヌ…ケイゾ…」
カマセイはいまやいきり立って「俺こそ最強なんだ!キュウゾやアホのキクチョーなんかよりも先に、俺がブラウンシューを修得する!もちろん、マナ!お前よりも!だ」
マナの友人に馬鹿にされたことで自尊心を傷つけられたのか、それ以上に愛人が新参者の男に心を奪われていくことへの苛立ちが限界に達していたのか、所有欲と歪んだプライドの塊の如き醜き男は、お得意の無謀な宣言をしてカフェテリアを後にした。
「俺が!俺こそが!」見ていろ!今晩中に仕上げてやる!そして、最強の名が誰に相応しいか、皆に知らしめてやる!
翌日、カマセイ・ヌケイゾは石像となって、魔術大学の第二訓練場で発見された。
見つけたのはイタル助教授であり、彼は夜に何やら物音がするので、不審に思って訓練場に向ったところ、カマセイが使用時間を破ってブラウンシューの詠唱を行っており、イタルが注意をしようとした際に、魔術が暴発し、彼は自らの魔術で自分を石に変えてしまったのである。
そ の一部始終を垣間見たイタル卿はあまりの事態に動転して腰を抜かしてしまったが、すぐにニビ教授に報告。駆けつけたニビ・ハナカジマはなんとか策を練ろう としたが時既に遅し。カマセイ・ヌケイゾはまるで何年も昔からそのままの状態であったかのような頑丈な石の肉体に変わっており、触っても叩いてもピクリ とも動かない。
完全に石化状態にあった。
早急に魔術大学の教授たちによって対策会議が開かれたが、そもそも生物を石に変えるなどという奇術を会得していたのはニビ氏のみで、ましてやその解除法など誰も知る由がなく、魔術が駄目ならと薬学の限りを尽くし、各種の調合薬が岩石と変わったカマセイの体に試されたが、遂に石化した生徒を元に戻す手段は見つからなかった。
事の重大性に気付き、事態を重く見たニビ教授は大学側に一切の責任は自分にあるとして、ブラウンシューの使用と伝授、そして自分の地位を帳消しにすることを提案。学長との様々なやり取りを得て、最終的にニビ教授は魔術大学を去ることになった。
そして同時に、暴発によって使用者自らが石化してしまうという恐ろしい危険性があるとして、修得済みであろうと未修得状態であろうと、魔術大学は土の魔術ブラウンシューを金輪際一切タブーとした。
よって、魔術大学でブラウンシューを会得していたのはたった二名の生徒のみ。
その二人は後の卒業見込み生のメンバーであった。
「あいつが…使った。ブラウンシューを…詠唱…」
石化の魔術は使用を禁止された。
三人目の使い手が訓練中に石になってしまったために。
魔術を使用して、術者自身に被害があったことは今まで一度もなかった。
以来、今日までブラウンシューは使用凍結となっており、もう既に習得していた先の二人も、その危険性を考慮して大学側から詠唱の自粛を命じられた。ブラウンシューを生徒に伝授したニビ教授は責任を取るといって国家資格を放棄し、自ら罷免して田舎へと退き、今は隠遁生活を営んでいる。
その、禁断の石化呪文を、あいつが使いやがった!
まさか異生物で習得していたやつがいたなんて…いや、異生物が使用していたから人間が会得できたのだけど。
それにしても、こいつは、本当にタダモノじゃない。今までの雑魚とわけが違いすぎるよ!
「サキィ君!よけてぇ」
それは無理な注文だった。
自慢の下半身を石にされて身動きの取れなくなったサキィは、七つの融合の触手による猛攻を受けていた。幾つものムチで滅多打ちに、所謂フルボッコにされてしまっている。
足が、動かないのである!
特殊講義実践魔術方法論で教わった魔術を、いつでもクラスの誰よりも早く習得していた。最年少の自分がなんでこんなにも軽々とこなせるのかは分からなかった。感覚だけでそれをものにしていた。
お世辞にも勉強が出来るわけではなかったが、こと魔術の腕前に関しては右に出るものが無かった。だが…
それは魔術大学にて、いよいよ実践的な魔術の修得過程が進み、炎と氷の魔術を会得したマナたち数十名の生徒達が、学内でも使い手がたった一人しかいないと云われる土の魔術の講義を受けることになった頃に。
「今日から私のアシスタントとしてやって来てくれた、助教授のイタル・キャトルプラス卿だ」
ある日、土の魔術のレクチャーをしているニビ・ハナカジマ教授はそう告げて、教室に伴って一緒に入ってきた細身の青年を紹介した。
当時、マナと半ば恋人関係にあったカマセイ・ヌケイゾは、木造の教室に現れたスラッとしたすまし顔の男を見て、そしてその男を視認した拍子に目の色を変えた横に座るマナを見て、むっつりとした顔をした。
「イタルくんは私の遠い親戚でね。彼は蒐集家としても有名なのだが、しばらくはこの魔術大学に席を置くことになったんだ」
質実としていて、まるで農夫や大工のような体型のニビ教授と並んで立つと、余計に彼の魅力は引き立てられた。
「おい、マナ」
咄嗟に醜い嫉妬心にかられたカマセイは「なに、うっとり見てんだ。あんなひょろいの、どうせ魔術もロクに使えないひ弱なヘタレだぜ」
「え?あ、ボクそんなに見てないよ!」
「はい、そこ、静かにする」ニビ教授は毎度のことのように賑やかな最優秀問題児に事務的な注意を施して「じゃ、先日の続きから…文書の十頁を開いて」
補佐として講義に加わることになったイタル卿は、あくまでクールな身のこなしで資料や配布物の扱いを行い、教壇のすぐ近くの席に座って、用が無い限りはじっと大人しくしていた。
そんな彼を美しい静物画を鑑賞するような目線で見つめるマナ。
さらにその様子を窺う横の男。
マナの様子がその日から俄かにおかしくなりだしたのは、恋人でなくても明らかであった。
卒業見込み生の選抜メンバー判定にも関わってくる大事な講義だというのに、マナは次第に上の空でいることが多く、ついには今まで誰にも譲らなかった魔術修得者第一号の座を受け渡してしまった。
「ハッハッハ、まさかマナよりも先にマスターできるなんて、夢にも思わなかったぞ」
マナの次に成績優秀なちょっと年増の男性生徒が得意げな笑い声を上げながら快活に自慢した。
「ふ、ふーん!ボクだって、いつも一番じゃ皆に悪いからって、譲ってあげただけなんだからね!ほ、本気を出せばそんな魔術、お手のもんさ」
と、言いつつもマナは近頃どうにも調子が出なかった。
ニビ教授が伝授する土の魔術、ブラウンシュー。
それは現存の他の魔術と大きく違う点があった。
マナ達が既に単位を取得している実戦用魔術はどれも、単純に標的にダメージを与えるものばかりであった。
ブラウンシューは威力こそ小さいが、その最大の特徴は相手を石に変えるという恐るべき力にあった。
よって、連日行われている特別訓練の中途で、見事岩石の幻影を発生させることに成功する者はいても、なかなか実験用の小動物の肉体を鉱物に変えるところまでは達せなかった。
「石のような、とても硬い精神が必要なんだ。何事にも動じない、そう、まるで打ち寄せる波を砕く海岸の岩のような」
正に海岸の岩のような精神を持った講師のニビはそう生徒達に手解きをしたが、山国の中央国にいる彼らが海を知っていたかどうかは疑わしい。
「おい、聞いたか?かっちゃんも成功したってよ!」
カマセイは休み時間に友人らと談笑していたマナのところにわざわざやって来て言った。
「えー!そ、そうなの…」
マナはクラスメイトにまたしても先を越されたことを知らされての、それなりのリアクションを取ってはみたが、その様子はどこかなおざりなものであった。
「なんだよ、あまり悔しくなさそうだな」
いつもなら躍起になってあくせくするマナが、妙に落ち着いている様を見て、さてはあの毎回教授の手伝いでやってくるイタルとかいうスカした男のせいだなと勘ぐったカマセイは「この分じゃ、皆に抜かれちまうだろうよ。天才マナの名もここまでって感じだな。ハハハハ」
「じゃあ、ヌケイゾさんだったら出来るっていうの?」
マナの友人の一人が立ったまま大きな声を出している彼に言った。
「俺?そりゃ…そうだ!俺だってもうほとんど出来るようになってるんだ。今度は確実にマナより先に覚えてやるぜ!」
「お、でたでた、いつものハッタリが…」
「マナちゃん、こんな人に抜かれちゃダメよ」
「ヌケイゾったらハッタリばっかりで、内容がいつも追いついてないんだから」
マナの女友達は彼女の現恋人であるカマセイのことを常より快く思ってはいないようだった。
「あん?俺はな、王の兄弟の血を引いてるんだ。つまり、俺こそ天才なんだよ!いいか!だったら宣言してやる。三人目にブラウンシューをモノにするのはこの俺だ!」
「ヌ…ケイゾ…」
カマセイはいまやいきり立って「俺こそ最強なんだ!キュウゾやアホのキクチョーなんかよりも先に、俺がブラウンシューを修得する!もちろん、マナ!お前よりも!だ」
マナの友人に馬鹿にされたことで自尊心を傷つけられたのか、それ以上に愛人が新参者の男に心を奪われていくことへの苛立ちが限界に達していたのか、所有欲と歪んだプライドの塊の如き醜き男は、お得意の無謀な宣言をしてカフェテリアを後にした。
「俺が!俺こそが!」見ていろ!今晩中に仕上げてやる!そして、最強の名が誰に相応しいか、皆に知らしめてやる!
翌日、カマセイ・ヌケイゾは石像となって、魔術大学の第二訓練場で発見された。
見つけたのはイタル助教授であり、彼は夜に何やら物音がするので、不審に思って訓練場に向ったところ、カマセイが使用時間を破ってブラウンシューの詠唱を行っており、イタルが注意をしようとした際に、魔術が暴発し、彼は自らの魔術で自分を石に変えてしまったのである。
そ の一部始終を垣間見たイタル卿はあまりの事態に動転して腰を抜かしてしまったが、すぐにニビ教授に報告。駆けつけたニビ・ハナカジマはなんとか策を練ろう としたが時既に遅し。カマセイ・ヌケイゾはまるで何年も昔からそのままの状態であったかのような頑丈な石の肉体に変わっており、触っても叩いてもピクリ とも動かない。
完全に石化状態にあった。
早急に魔術大学の教授たちによって対策会議が開かれたが、そもそも生物を石に変えるなどという奇術を会得していたのはニビ氏のみで、ましてやその解除法など誰も知る由がなく、魔術が駄目ならと薬学の限りを尽くし、各種の調合薬が岩石と変わったカマセイの体に試されたが、遂に石化した生徒を元に戻す手段は見つからなかった。
事の重大性に気付き、事態を重く見たニビ教授は大学側に一切の責任は自分にあるとして、ブラウンシューの使用と伝授、そして自分の地位を帳消しにすることを提案。学長との様々なやり取りを得て、最終的にニビ教授は魔術大学を去ることになった。
そして同時に、暴発によって使用者自らが石化してしまうという恐ろしい危険性があるとして、修得済みであろうと未修得状態であろうと、魔術大学は土の魔術ブラウンシューを金輪際一切タブーとした。
よって、魔術大学でブラウンシューを会得していたのはたった二名の生徒のみ。
その二人は後の卒業見込み生のメンバーであった。
「あいつが…使った。ブラウンシューを…詠唱…」
石化の魔術は使用を禁止された。
三人目の使い手が訓練中に石になってしまったために。
魔術を使用して、術者自身に被害があったことは今まで一度もなかった。
以来、今日までブラウンシューは使用凍結となっており、もう既に習得していた先の二人も、その危険性を考慮して大学側から詠唱の自粛を命じられた。ブラウンシューを生徒に伝授したニビ教授は責任を取るといって国家資格を放棄し、自ら罷免して田舎へと退き、今は隠遁生活を営んでいる。
その、禁断の石化呪文を、あいつが使いやがった!
まさか異生物で習得していたやつがいたなんて…いや、異生物が使用していたから人間が会得できたのだけど。
それにしても、こいつは、本当にタダモノじゃない。今までの雑魚とわけが違いすぎるよ!
「サキィ君!よけてぇ」
それは無理な注文だった。
自慢の下半身を石にされて身動きの取れなくなったサキィは、七つの融合の触手による猛攻を受けていた。幾つものムチで滅多打ちに、所謂フルボッコにされてしまっている。
足が、動かないのである!
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