オリジナルの中世ファンタジー小説
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死ぬ?マナが…今、この腕の中にいるマナが?
「死んでも、戦ってね、最後まで。これ、最後の、わがまま…」
「最後だなんて、言うな!」タイジは次第に自分を抑えられなくなっていた。
誰が悪い?僕をここまで苦しめるのは、誰だ?
「さよなら、タイジ。お腹、痛い…ただでさえ…」そこでマナの言葉は尽き果てた。
タイジの視界。マナがいる。目を覚まさないマナが…超人の死は消滅。それを思い出したとき、マナの体が薄れていった。
薄れて、消えてしまう!マナの存在が、まるで最初からいなかったかのように!跡形もなく、消えてしまう!!
嫌だ。そんなの嫌だ。誰だ?誰が悪い?僕をこんなに苦しませてるのは…!?サキィか?違う。マナか?違う。あいつだ。あいつが悪い!
タイジは立ち上がった。
「くっそぉぉぉおおおお」怒りと、嘆きと、憎悪と、どうにもならない憤りと、鬱積したそれらの負の感情が、総てのタイジの感情が、それを引き起こした。
頭がボーっとする。何か、光って弾けているものがある。
得体の知れない熱が脇腹から起こり、それがやがてタイジの全身を包んでいく。
僕は超えてみせる。この負の領域を!
「う…く」
何かが激しく弾ける音、光、空気の振動。
ほんの少しの、それは昼食を摂った後の午睡のような、短い眠りであった。
マナは目を開いた!
地べたに倒れたままで、立ち上がれるほどの力は残っていないが、薄く開いた眼で戦いの様子を窺うことはできた。腹を刺された痛みで気を失っていたが、しかと見届けよと何者かの意思が働いたのか、或はほとばしる戦闘音によってか、すぐに意識は回復した。タイジが、戦っていたのだ。
「ぬううぅうおお」
タイジが戦っていた!
タイジはマナの眼前に立って、ボウガンの矢を次々に異生物に向かって発射している。だが、その矢が異様だ。そもそも本当にタイジか?体は微弱な光の色彩を帯び、だらしないザンバラ髪は勇ましく重力に抗って逆立っている。そして彼の撃つボウガンの矢!
ジィィィミミミィィィィィ
矢は閃光!まばゆい紫の輝きを放っている。その奇怪な光の矢が七つの融合に向かって何本も撃ち込まれていく。タイジは敵の顔面に照準を定めて射撃をしているわけではなかった。ただ、家屋の陰に住み着く忌まわしい害虫を駆除せんとばかりに、憎しみと廃絶の念を込め超常的な矢を連発していた。
そして、紫の閃光を帯びた矢は異生物の体に突き刺さると、低音域の効いたドーンという衝撃音を上げ、辺りに火の粉を散らしたように、もう少し小さな光の束を生じさせる。
変だ。あの異生物、反撃をしてこない。だからタイジは続けざまに攻撃を加えられるんだ。
七つの融合は反撃をしてこないのではなく、しようにも出来ないでいたのだ。矢が突き刺さると伸び上がって苦痛の声をあげ、体中を小さな光の束が駆け巡っていき、その後に痙攣を起こす。
麻痺。
それが異生物の行動を封じていた。もちろん、一心不乱に射撃を繰り返しているタイジには知る由もなかった。ただ、どういうわけか自分が今ボウガンの矢を放つと、それは火矢の如き輝きを帯びながら飛んでいき、またどういうわけか敵にそれが当たると、予測されるはずの反撃がやってこない。理解の範囲などとっくに超えていた。
「す、すごい。まさか、ここまでだったなんて…タイジ」
マナは痛みに耐えながら、再び意識を失わないように戦況をじっと見守っていた。タイジは気合の懸声を上げながら、仲間の為に初めて戦っている。
仲間を守る為に?自分を守る為に?大切なのは、彼がサキィやマナを見捨てて逃げ出しはしなかったということだ。
「アザ…消えたんだね」
タイジの放つ光る矢が、クラスメイトだったかも知れない異生物に命中する。爆破音と紫の衝撃が起こってその体は痙攣を起こす。
電気。
紫の閃光、それは即ち電気であった。そして、彼らの世界には「電気」というものの存在が無かった。
いや、正確には電気はあったのだ。
それは自然界の中に予め含まれており、電気、ひいては物体を構成する原子の中の陽電子や中性子無くして世界は成り立ちはしないのだから。そうではなくて、彼らの世界の文明がまだ『電気を発見していない』ということだ。
我々の世界に於いてさえ、静電気の研究こそ古代からなされていたが、実際に電池や電灯が発明されて実用化されるには西暦十九世紀を待たねばならなかった。
タイジ達の世界では、赤い炎を夜の闇に立ち向かう為の唯一の友達とし、遠く離れた相手に何かを伝える為には何日掛かるかもわからない手紙に頼らざるを得なく、冷蔵庫やエアコンなど有る筈も無いから、氷を塩漬けにして貯蔵したり、ゼンマイ式の扇風機を南方の王国では使用していた。
我々の世界では電子を0と1の配列で操作することで、人類にとっての多くの不可能を可能にしてきた。かつてそれを手に入れるまでに掛かっていた時間が殆ど天文学的といってもいい猛スピードで短縮されていった。
では、雷はどうなるか?
我々の世界に於いて、落雷は遥か昔から神の怒りであるとされてきた。それはしばしば地球のあらゆる地域や文明において確認されており、天に近づこうとした人々が、神の怒りを買って雷撃で建設していた塔を破壊されたという神話はあまりに通俗的でポピュラー過ぎるが、最も代表的で典型的な例と云える。
ところが、我々の生活を豊かにした電気と、天の怒りであるとされ畏怖されてきた雷が、同じものであると見做されたのは、有名なベンジャミンによる避雷針の危険な実験を待たなければならない。時に十八世紀半ば、この時ベンジャミン・フランクリンによって稲妻と電気が同質のものであると定義されたといわれる。
つまりタイジ達の世界では、誰一人として、雷が電気であるとは発言し得ないのである。繰り返すが、そもそも「電気」が何たるものかさえ解っていない。
では、この世界において稲光は『神の怒り』であるとされていたか。
答えは、否定である。
結論から云うと、彼らの世界では雷光は天の精霊か何かの悪戯、何らかの暗示やメッセージ程度に考えられていて、地方によってはそれを使った占いや祭の行事があったり、稲妻が落ちた田畑では豊作になるという言い伝えなどがあったりした。
しかし、神の怒りであるという扱いではなかった。いや、民家に落ちればそれを崩壊させたし、人に落ちればその生命を奪ったから、中には「精霊の怒り」と恐れていた人々も確かにいた。だが、あくまで『精霊』の怒りである。神ではない。
何故なら、その世界に神はいなかったからだ。
「死んでしまえ!お前なんか!」
タイジは無我夢中で雷光矢を発射し続け、決して攻撃の手を緩めることはしなかった。相手は無抵抗であった。
憎しみがあった。今、自分が一方的にダメージを与えている相手は、昨日まではもしかしたらマナの大切な仲間だったかも知れない。それが、何らかの超越的な経緯を隔ててこの異生物に生まれ変わっていたとしても、タイジには遠慮する義理など無かった。マナの仲間?それは僕の宿に来て大騒ぎしていた連中だ。男ばっかりだったと思う。タイジはここにきて、場違いな嫉妬心から闘志をたぎらせていた。恋心は時に人を狂気にするが、特にタイジのように小心で意中の相手を前にしてもうまく振舞えないようなタイプは、かえって一度理性のタガが外れると何をしだすか分からない恐さがある。もはや、自分の放つ矢が人智を超えた何かを纏っていることなど意に介してはいなかったのだ。ただ、目の前の腹立たしい敵を殲滅する、タイジの頭にあったのはそれだけだった。
「すごいよ、すごいよ、タイジ」
マナはまだ出血の止まらない腹部を押さえながらも、感動の声を漏らしていた。
タイジが、戦ってる!ボクもサキィ君も、まるで歯が立たなかった強敵に対して、明らかに優勢を誇っている。
「くっそ!」
だがその時、タイジのボウガンの矢が尽きた!残量のことをまるで考えていなかった。
異生物は電気を帯びた射撃により表皮の所々を焦がされており、何本も突き刺さった矢からは濁った体液が染み出している。だが、タイジの猛攻が一時でも止まると、再び活動の気配を示し始めた。
「まずい」マナが小さく言う。
辺りの空気が冷えていく。「くっそ、またあの氷を使ってくる気か」タイジは焦り始める。後ろを振り返る。「あ、マナ、大丈夫なのか?」お腹から血を流しながらこちらを見ていたマナを確認。
「タイジ、ブルージーンが、もし飛んできたら、いよいよマズイと思う」弱々しく言う。
「わ、わかってるよ、でももう矢が無いんだよ」どうする?ボウガンそのものを投げつけるか?いや、違う!ナイフで切りつける?それも駄目だ!
何か、まだ僕に出来ることがある筈だ!それは何だ?今の僕なら出来ること、どこかに、体のどこかにまだ使っていない何かが非常用の保存食さながら残っている感覚がする。手付かずの貯蓄に対するあの余裕感がある。「魔術だ!マナ、念じて唱えれば、魔術って使えるんだな?」
根拠の無い確信からその言葉が飛び出した。
「え?」タイジ、魔術を使う気?「う、うん。相手を思い描いて、ぶっ殺してやりたい相手のことを頭に浮かべて、それでそいつが自分の魔術で苦しむ姿を想像しながら、呪文を唱えるんだよ。で、でもタイジ、魔術使えるの?」
「相手を、想像するんだな、よし」タイジには謎めいた自信があった。今なら出来る。「マナ、見てろよ」と低い声で言った。
「う、うん」七つの融合は精神を集中させ、氷雪呪文ブルージーンの詠唱に入っている。
タイジは眼を閉じた。
頭の中の声…聞こえるんだ…耳元で、さっきから、歌うように、誰かが歌っている、言葉が聞こえてくる、文字が浮かび上がっている、それを僕が読み上げるんだ、読めるッ!読めるぞッ!
冷気が漂い始めた異生物の周囲に反して、タイジの体からは鼻を突くような空気の乾燥した匂いが立ち上っていく。
思い描くんだ、あいつがムチャクチャにやられるところを、あの腐った怪物に天罰を喰らわすんだ、出来る、今なら出来る、歌っている声を、聞こえてる声を、読める文字を、イメージを、僕も、続けて…イメージを、叩き込む!
思い描く、イメージを、現実に還らせる、力、それは、勇気!
purple haze all in my brain!!!!!
落雷!
マナは眼を見開いた。か・み・な・り・が・お・ち・た????
「死んでも、戦ってね、最後まで。これ、最後の、わがまま…」
「最後だなんて、言うな!」タイジは次第に自分を抑えられなくなっていた。
誰が悪い?僕をここまで苦しめるのは、誰だ?
「さよなら、タイジ。お腹、痛い…ただでさえ…」そこでマナの言葉は尽き果てた。
タイジの視界。マナがいる。目を覚まさないマナが…超人の死は消滅。それを思い出したとき、マナの体が薄れていった。
薄れて、消えてしまう!マナの存在が、まるで最初からいなかったかのように!跡形もなく、消えてしまう!!
嫌だ。そんなの嫌だ。誰だ?誰が悪い?僕をこんなに苦しませてるのは…!?サキィか?違う。マナか?違う。あいつだ。あいつが悪い!
タイジは立ち上がった。
「くっそぉぉぉおおおお」怒りと、嘆きと、憎悪と、どうにもならない憤りと、鬱積したそれらの負の感情が、総てのタイジの感情が、それを引き起こした。
頭がボーっとする。何か、光って弾けているものがある。
得体の知れない熱が脇腹から起こり、それがやがてタイジの全身を包んでいく。
僕は超えてみせる。この負の領域を!
「う…く」
何かが激しく弾ける音、光、空気の振動。
ほんの少しの、それは昼食を摂った後の午睡のような、短い眠りであった。
マナは目を開いた!
地べたに倒れたままで、立ち上がれるほどの力は残っていないが、薄く開いた眼で戦いの様子を窺うことはできた。腹を刺された痛みで気を失っていたが、しかと見届けよと何者かの意思が働いたのか、或はほとばしる戦闘音によってか、すぐに意識は回復した。タイジが、戦っていたのだ。
「ぬううぅうおお」
タイジが戦っていた!
タイジはマナの眼前に立って、ボウガンの矢を次々に異生物に向かって発射している。だが、その矢が異様だ。そもそも本当にタイジか?体は微弱な光の色彩を帯び、だらしないザンバラ髪は勇ましく重力に抗って逆立っている。そして彼の撃つボウガンの矢!
ジィィィミミミィィィィィ
矢は閃光!まばゆい紫の輝きを放っている。その奇怪な光の矢が七つの融合に向かって何本も撃ち込まれていく。タイジは敵の顔面に照準を定めて射撃をしているわけではなかった。ただ、家屋の陰に住み着く忌まわしい害虫を駆除せんとばかりに、憎しみと廃絶の念を込め超常的な矢を連発していた。
そして、紫の閃光を帯びた矢は異生物の体に突き刺さると、低音域の効いたドーンという衝撃音を上げ、辺りに火の粉を散らしたように、もう少し小さな光の束を生じさせる。
変だ。あの異生物、反撃をしてこない。だからタイジは続けざまに攻撃を加えられるんだ。
七つの融合は反撃をしてこないのではなく、しようにも出来ないでいたのだ。矢が突き刺さると伸び上がって苦痛の声をあげ、体中を小さな光の束が駆け巡っていき、その後に痙攣を起こす。
麻痺。
それが異生物の行動を封じていた。もちろん、一心不乱に射撃を繰り返しているタイジには知る由もなかった。ただ、どういうわけか自分が今ボウガンの矢を放つと、それは火矢の如き輝きを帯びながら飛んでいき、またどういうわけか敵にそれが当たると、予測されるはずの反撃がやってこない。理解の範囲などとっくに超えていた。
「す、すごい。まさか、ここまでだったなんて…タイジ」
マナは痛みに耐えながら、再び意識を失わないように戦況をじっと見守っていた。タイジは気合の懸声を上げながら、仲間の為に初めて戦っている。
仲間を守る為に?自分を守る為に?大切なのは、彼がサキィやマナを見捨てて逃げ出しはしなかったということだ。
「アザ…消えたんだね」
タイジの放つ光る矢が、クラスメイトだったかも知れない異生物に命中する。爆破音と紫の衝撃が起こってその体は痙攣を起こす。
電気。
紫の閃光、それは即ち電気であった。そして、彼らの世界には「電気」というものの存在が無かった。
いや、正確には電気はあったのだ。
それは自然界の中に予め含まれており、電気、ひいては物体を構成する原子の中の陽電子や中性子無くして世界は成り立ちはしないのだから。そうではなくて、彼らの世界の文明がまだ『電気を発見していない』ということだ。
我々の世界に於いてさえ、静電気の研究こそ古代からなされていたが、実際に電池や電灯が発明されて実用化されるには西暦十九世紀を待たねばならなかった。
タイジ達の世界では、赤い炎を夜の闇に立ち向かう為の唯一の友達とし、遠く離れた相手に何かを伝える為には何日掛かるかもわからない手紙に頼らざるを得なく、冷蔵庫やエアコンなど有る筈も無いから、氷を塩漬けにして貯蔵したり、ゼンマイ式の扇風機を南方の王国では使用していた。
我々の世界では電子を0と1の配列で操作することで、人類にとっての多くの不可能を可能にしてきた。かつてそれを手に入れるまでに掛かっていた時間が殆ど天文学的といってもいい猛スピードで短縮されていった。
では、雷はどうなるか?
我々の世界に於いて、落雷は遥か昔から神の怒りであるとされてきた。それはしばしば地球のあらゆる地域や文明において確認されており、天に近づこうとした人々が、神の怒りを買って雷撃で建設していた塔を破壊されたという神話はあまりに通俗的でポピュラー過ぎるが、最も代表的で典型的な例と云える。
ところが、我々の生活を豊かにした電気と、天の怒りであるとされ畏怖されてきた雷が、同じものであると見做されたのは、有名なベンジャミンによる避雷針の危険な実験を待たなければならない。時に十八世紀半ば、この時ベンジャミン・フランクリンによって稲妻と電気が同質のものであると定義されたといわれる。
つまりタイジ達の世界では、誰一人として、雷が電気であるとは発言し得ないのである。繰り返すが、そもそも「電気」が何たるものかさえ解っていない。
では、この世界において稲光は『神の怒り』であるとされていたか。
答えは、否定である。
結論から云うと、彼らの世界では雷光は天の精霊か何かの悪戯、何らかの暗示やメッセージ程度に考えられていて、地方によってはそれを使った占いや祭の行事があったり、稲妻が落ちた田畑では豊作になるという言い伝えなどがあったりした。
しかし、神の怒りであるという扱いではなかった。いや、民家に落ちればそれを崩壊させたし、人に落ちればその生命を奪ったから、中には「精霊の怒り」と恐れていた人々も確かにいた。だが、あくまで『精霊』の怒りである。神ではない。
何故なら、その世界に神はいなかったからだ。
「死んでしまえ!お前なんか!」
タイジは無我夢中で雷光矢を発射し続け、決して攻撃の手を緩めることはしなかった。相手は無抵抗であった。
憎しみがあった。今、自分が一方的にダメージを与えている相手は、昨日まではもしかしたらマナの大切な仲間だったかも知れない。それが、何らかの超越的な経緯を隔ててこの異生物に生まれ変わっていたとしても、タイジには遠慮する義理など無かった。マナの仲間?それは僕の宿に来て大騒ぎしていた連中だ。男ばっかりだったと思う。タイジはここにきて、場違いな嫉妬心から闘志をたぎらせていた。恋心は時に人を狂気にするが、特にタイジのように小心で意中の相手を前にしてもうまく振舞えないようなタイプは、かえって一度理性のタガが外れると何をしだすか分からない恐さがある。もはや、自分の放つ矢が人智を超えた何かを纏っていることなど意に介してはいなかったのだ。ただ、目の前の腹立たしい敵を殲滅する、タイジの頭にあったのはそれだけだった。
「すごいよ、すごいよ、タイジ」
マナはまだ出血の止まらない腹部を押さえながらも、感動の声を漏らしていた。
タイジが、戦ってる!ボクもサキィ君も、まるで歯が立たなかった強敵に対して、明らかに優勢を誇っている。
「くっそ!」
だがその時、タイジのボウガンの矢が尽きた!残量のことをまるで考えていなかった。
異生物は電気を帯びた射撃により表皮の所々を焦がされており、何本も突き刺さった矢からは濁った体液が染み出している。だが、タイジの猛攻が一時でも止まると、再び活動の気配を示し始めた。
「まずい」マナが小さく言う。
辺りの空気が冷えていく。「くっそ、またあの氷を使ってくる気か」タイジは焦り始める。後ろを振り返る。「あ、マナ、大丈夫なのか?」お腹から血を流しながらこちらを見ていたマナを確認。
「タイジ、ブルージーンが、もし飛んできたら、いよいよマズイと思う」弱々しく言う。
「わ、わかってるよ、でももう矢が無いんだよ」どうする?ボウガンそのものを投げつけるか?いや、違う!ナイフで切りつける?それも駄目だ!
何か、まだ僕に出来ることがある筈だ!それは何だ?今の僕なら出来ること、どこかに、体のどこかにまだ使っていない何かが非常用の保存食さながら残っている感覚がする。手付かずの貯蓄に対するあの余裕感がある。「魔術だ!マナ、念じて唱えれば、魔術って使えるんだな?」
根拠の無い確信からその言葉が飛び出した。
「え?」タイジ、魔術を使う気?「う、うん。相手を思い描いて、ぶっ殺してやりたい相手のことを頭に浮かべて、それでそいつが自分の魔術で苦しむ姿を想像しながら、呪文を唱えるんだよ。で、でもタイジ、魔術使えるの?」
「相手を、想像するんだな、よし」タイジには謎めいた自信があった。今なら出来る。「マナ、見てろよ」と低い声で言った。
「う、うん」七つの融合は精神を集中させ、氷雪呪文ブルージーンの詠唱に入っている。
タイジは眼を閉じた。
頭の中の声…聞こえるんだ…耳元で、さっきから、歌うように、誰かが歌っている、言葉が聞こえてくる、文字が浮かび上がっている、それを僕が読み上げるんだ、読めるッ!読めるぞッ!
冷気が漂い始めた異生物の周囲に反して、タイジの体からは鼻を突くような空気の乾燥した匂いが立ち上っていく。
思い描くんだ、あいつがムチャクチャにやられるところを、あの腐った怪物に天罰を喰らわすんだ、出来る、今なら出来る、歌っている声を、聞こえてる声を、読める文字を、イメージを、僕も、続けて…イメージを、叩き込む!
思い描く、イメージを、現実に還らせる、力、それは、勇気!
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落雷!
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