オリジナルの中世ファンタジー小説
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マナとタイジはそれぞれ新しい馬に跨り、低い柵の内側に立った旅籠の主とフーテンの旅芸人、二人に向って手を振った。
気持ちの良い晩夏の陽気の中、二人の幼馴染の旅人は、しばし、黙ったまま馬を進めていた。
タイジが選んだ二頭の馬は、大人しく従順的で、すぐに二人に馴染んだ。
「……」
もっともそれは、午前のうちから幾分厳粛な雰囲気で歩を進めているからかもしれない。
タイジは、マナが今どんな心境にあるのか、心の中で探ろうとしていた。
想像以上に過酷だった試練を乗り越え、いよいよ帰路につくことになった。死んだ仲間達のことを彼女は考えているだろうか?あるいは、この一連の事件の不可解な謎について考えているのだろうか?
タイジの神経質な思考は、ところがふいに『遂にマナと二人きりになれた』という甘酸っぱいテーゼを掘り起こした。
「……。」
とはいえ、なんとなくお互いがそういう浮ついたムードに、今はなれないことに気が付いている。
今、ここには三人目の仲間がいない。
サキィは国許に帰り、厄介事を少しも面倒と受け取らず、後の始末をやってくれると約束し、去っていった。
タイジの生家である宿屋に寄って、ことの経緯を納得のいく形で、多少のごまかしも交えて説明する。魔術師学生達の荷物をマナに指示されたとおりに処分する。何よりタイジの母親に息子が戻ってこないことを言い渡す。宿の代金の件については既に解決済みだった。
マナ達が置いてきた荷物の中に、どうしても手放せないものは含まれていない。そうした旅の必需品は、彼女が今携帯している革袋の中に入っている。
少し前を進んでいく少女が背負った袋を眺める。幾分、窮屈そうに膨らんでいる。中に、死んでいった仲間たちの遺品が詰められているんだ。
マナの持つ道具袋の中には、汚れた衣服や魔術大学で支給された杖なんかが丸められて収められている。
超人の死は完全なる肉体の消滅。遺骨を残すことも、土の下に埋葬してやることも出来ない。だから、故人の纏っていた装備は、何よりも重要だ。遺品にこそ、逝ったその人の魂が宿っている。
マナは魔術大学に戻ったら弔いをするつもりだと言っていた。それまでは絶対に死ねない、とも。
馬鹿騒ぎをしていたとはいえ、失った仲間の命はあまりにも重たく、大きい。彼女はその七つの命を一身に背負って、旅を続けているんだ。
タイジは馬の背の上で、動きやすいゆったりした己がズボンの、ポケットにそっと手を差し入れた。
金の筒を取り出す。
あの異生物『七つの融合』に、決定打の雷撃を食らわした直後に手にしたもの。怪物の体から飛び出した拾得物。純金製の、細やかで複雑な模様の装飾が施された筒。
異生物の身から転がり落ちた円筒状のそれには弁のような蓋が着いていて、側面にサインのようなものが掘られていた。今は手に握ったところで何の第六感的感触もないが、それが何某かの魔術が籠められたアイテムであるだろうことが、如実に窺われた。
これはきっと鍵になる存在。タイジは直感を信じていた。
だから、昨夜出くわした奇抜な魔術師学生達にも、仲間の誰にも、この金の筒のことは話していなかった。
その時が来たら、きっとそれは明かされる。
真実と、陰謀。
僕を中央国で待っているものはなんなのだろう……マナとの二人旅。それは本当に僕の願ったものだった?また何か、とてつもないことに巻き込まれそうになっている……
タイジが黙々と片思い中の少女の後を歩んでいると、俄かに背後から音が聞こえ始めた。
「おーーーい」
高原を吹き抜ける爽やかで勇ましい風。その風の音の内に、聞きなれた声が含まれている。
「待てよ、おーーい!」
馬を駆る音が聞こえてくる。蹄の、小気味良い連続音。やがて、軽装の鎧のこすれる音が…
ヒヒーーーン!
馬のいななきと共に、急ブレーキをかけて地の土がめくれる音。
「サキィ!」
「おっと、待った、お二人さんよ!」
サンサンと輝く太陽の下、そこに、頼もしい獣人の姿があった。
鎖帷子を身に付け、新しい鉄製の盾と剣。馬上の鞍の上で、彼のヒョウ柄の尾っぽが踊っている。
「ヤアヤアヤア、俺の名は、さすらいの剣士、サキィ・マチルヤ!東南国の城下町で鍛冶屋をやっている家のドラ息子とは、赤の他人よ!俺は旅の剣士!こうして武者修行の旅をしている!旅人さん方よ、御用とお急ぎでなけりゃ、ちょっと俺の話を聞いていきやがれ!」
マナもタイジも、それを聞いて思わず顔を合わし、たまらず吹き出した。
タイジは久々にマナの笑顔を見た気がした。よく晴れた太陽の下で、彼女の髪の緑が透明に映えている。
「魔術師と回復役だけの二人旅じゃ、こっから先は危なっかしいぜ。ここはアタッカーが必要だろ!」
タイジは笑いをこらえながら「どうしたんだよ、サキィ」
馬上の獣人剣士は芝居めいた物言いを崩して「へへ、親父に正式に勘当してもらったよ。あの野郎、最後には俺を認めたみたいだな。名前を捨てるついでに、とっておきの餞別を寄越しやがった」サキィは背中の鞘から剣を抜いた。刀身はどこまでも光り輝いて美しい。柄の部分に、風車のような装飾が施されている。今までのものよりもいっとう鋭く長い、強力な武器だ。「この剣の力が、お前らには必要だろ」
マナはお腹を抱えて笑っている。
タイジは答える「ああ、よろしくな、サキィ」
サキィ・マチルヤが仲間になった!
それぞれの旅路。
突然連れ出され、仲間の敵討ちを手伝わされた寄る辺ない宿屋の息子だったタイジは、そのまま生家に戻ることなく、国境を越え、中央国首都であるボンディの都へと向っていく。
前科持ちであることを理由に改名をした獣人の剣士、サキィ・マチルヤも一緒だ。
三人の冒険者は北に進路を取り、並み居る異生物たちを或は剣で、或は魔術で、巧みに退け、馬を駆り、幾つかの町々に滞在しながら、歩みを進めていった。
サキィが実家の鍛冶屋から持ってきた自前の剣の切れ味は大層鋭く、大抵の異生物は彼の豪快な一振りの前に平伏していった。
また、マナの詠唱する攻撃用の魔術も、それを過不足無くサポートし、二人より遅れることままあるとはいえ、タイジの後方からのボウガンによる射撃、また難敵に対して放たれる必殺の電撃呪文パープルヘイズ、そして味方が傷ついた時にはすかさず回復の魔術を使用するという万全の補助。この攻守バランスの取れたフットワークによって、タイジ、マナ、サキィの三人は魑魅魍魎溢れる危険なフィールドを順調に踏破していった。
その行く手に、未だかつて無い恐怖が待ち受けているとも知らずに…。
季節は夏から秋へと、移っていった。
そこには、いくらかの時間と空間の、隔たりがあった。
気持ちの良い晩夏の陽気の中、二人の幼馴染の旅人は、しばし、黙ったまま馬を進めていた。
タイジが選んだ二頭の馬は、大人しく従順的で、すぐに二人に馴染んだ。
「……」
もっともそれは、午前のうちから幾分厳粛な雰囲気で歩を進めているからかもしれない。
タイジは、マナが今どんな心境にあるのか、心の中で探ろうとしていた。
想像以上に過酷だった試練を乗り越え、いよいよ帰路につくことになった。死んだ仲間達のことを彼女は考えているだろうか?あるいは、この一連の事件の不可解な謎について考えているのだろうか?
タイジの神経質な思考は、ところがふいに『遂にマナと二人きりになれた』という甘酸っぱいテーゼを掘り起こした。
「……。」
とはいえ、なんとなくお互いがそういう浮ついたムードに、今はなれないことに気が付いている。
今、ここには三人目の仲間がいない。
サキィは国許に帰り、厄介事を少しも面倒と受け取らず、後の始末をやってくれると約束し、去っていった。
タイジの生家である宿屋に寄って、ことの経緯を納得のいく形で、多少のごまかしも交えて説明する。魔術師学生達の荷物をマナに指示されたとおりに処分する。何よりタイジの母親に息子が戻ってこないことを言い渡す。宿の代金の件については既に解決済みだった。
マナ達が置いてきた荷物の中に、どうしても手放せないものは含まれていない。そうした旅の必需品は、彼女が今携帯している革袋の中に入っている。
少し前を進んでいく少女が背負った袋を眺める。幾分、窮屈そうに膨らんでいる。中に、死んでいった仲間たちの遺品が詰められているんだ。
マナの持つ道具袋の中には、汚れた衣服や魔術大学で支給された杖なんかが丸められて収められている。
超人の死は完全なる肉体の消滅。遺骨を残すことも、土の下に埋葬してやることも出来ない。だから、故人の纏っていた装備は、何よりも重要だ。遺品にこそ、逝ったその人の魂が宿っている。
マナは魔術大学に戻ったら弔いをするつもりだと言っていた。それまでは絶対に死ねない、とも。
馬鹿騒ぎをしていたとはいえ、失った仲間の命はあまりにも重たく、大きい。彼女はその七つの命を一身に背負って、旅を続けているんだ。
タイジは馬の背の上で、動きやすいゆったりした己がズボンの、ポケットにそっと手を差し入れた。
金の筒を取り出す。
あの異生物『七つの融合』に、決定打の雷撃を食らわした直後に手にしたもの。怪物の体から飛び出した拾得物。純金製の、細やかで複雑な模様の装飾が施された筒。
異生物の身から転がり落ちた円筒状のそれには弁のような蓋が着いていて、側面にサインのようなものが掘られていた。今は手に握ったところで何の第六感的感触もないが、それが何某かの魔術が籠められたアイテムであるだろうことが、如実に窺われた。
これはきっと鍵になる存在。タイジは直感を信じていた。
だから、昨夜出くわした奇抜な魔術師学生達にも、仲間の誰にも、この金の筒のことは話していなかった。
その時が来たら、きっとそれは明かされる。
真実と、陰謀。
僕を中央国で待っているものはなんなのだろう……マナとの二人旅。それは本当に僕の願ったものだった?また何か、とてつもないことに巻き込まれそうになっている……
タイジが黙々と片思い中の少女の後を歩んでいると、俄かに背後から音が聞こえ始めた。
「おーーーい」
高原を吹き抜ける爽やかで勇ましい風。その風の音の内に、聞きなれた声が含まれている。
「待てよ、おーーい!」
馬を駆る音が聞こえてくる。蹄の、小気味良い連続音。やがて、軽装の鎧のこすれる音が…
ヒヒーーーン!
馬のいななきと共に、急ブレーキをかけて地の土がめくれる音。
「サキィ!」
「おっと、待った、お二人さんよ!」
サンサンと輝く太陽の下、そこに、頼もしい獣人の姿があった。
鎖帷子を身に付け、新しい鉄製の盾と剣。馬上の鞍の上で、彼のヒョウ柄の尾っぽが踊っている。
「ヤアヤアヤア、俺の名は、さすらいの剣士、サキィ・マチルヤ!東南国の城下町で鍛冶屋をやっている家のドラ息子とは、赤の他人よ!俺は旅の剣士!こうして武者修行の旅をしている!旅人さん方よ、御用とお急ぎでなけりゃ、ちょっと俺の話を聞いていきやがれ!」
マナもタイジも、それを聞いて思わず顔を合わし、たまらず吹き出した。
タイジは久々にマナの笑顔を見た気がした。よく晴れた太陽の下で、彼女の髪の緑が透明に映えている。
「魔術師と回復役だけの二人旅じゃ、こっから先は危なっかしいぜ。ここはアタッカーが必要だろ!」
タイジは笑いをこらえながら「どうしたんだよ、サキィ」
馬上の獣人剣士は芝居めいた物言いを崩して「へへ、親父に正式に勘当してもらったよ。あの野郎、最後には俺を認めたみたいだな。名前を捨てるついでに、とっておきの餞別を寄越しやがった」サキィは背中の鞘から剣を抜いた。刀身はどこまでも光り輝いて美しい。柄の部分に、風車のような装飾が施されている。今までのものよりもいっとう鋭く長い、強力な武器だ。「この剣の力が、お前らには必要だろ」
マナはお腹を抱えて笑っている。
タイジは答える「ああ、よろしくな、サキィ」
サキィ・マチルヤが仲間になった!
それぞれの旅路。
突然連れ出され、仲間の敵討ちを手伝わされた寄る辺ない宿屋の息子だったタイジは、そのまま生家に戻ることなく、国境を越え、中央国首都であるボンディの都へと向っていく。
前科持ちであることを理由に改名をした獣人の剣士、サキィ・マチルヤも一緒だ。
三人の冒険者は北に進路を取り、並み居る異生物たちを或は剣で、或は魔術で、巧みに退け、馬を駆り、幾つかの町々に滞在しながら、歩みを進めていった。
サキィが実家の鍛冶屋から持ってきた自前の剣の切れ味は大層鋭く、大抵の異生物は彼の豪快な一振りの前に平伏していった。
また、マナの詠唱する攻撃用の魔術も、それを過不足無くサポートし、二人より遅れることままあるとはいえ、タイジの後方からのボウガンによる射撃、また難敵に対して放たれる必殺の電撃呪文パープルヘイズ、そして味方が傷ついた時にはすかさず回復の魔術を使用するという万全の補助。この攻守バランスの取れたフットワークによって、タイジ、マナ、サキィの三人は魑魅魍魎溢れる危険なフィールドを順調に踏破していった。
その行く手に、未だかつて無い恐怖が待ち受けているとも知らずに…。
季節は夏から秋へと、移っていった。
そこには、いくらかの時間と空間の、隔たりがあった。
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